異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第79話 妹が有名な理由

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「おにぃ、今日は何処に行ってたの?」

「知り合いと一緒に体を動かしに行ってただけだよ」

 夕食を食べ終えた後の僕の自室で、何故かくつろいでいる妹が朝からいなかった理由を尋ねてくる。今日は朝から栗林家にある道場で栗林さんと訓練をしてきたのだがあまり詳しい内容を話したくはなかったため、嘘にならない程度に話を誤魔化すことにした。

 実際に学内で実力があると知られている栗林さんより僕のほうが強いと知られた場合、他の人ならばどうとでも理由をつけ誤魔化すことが出来るのだが、家族でありずっと僕の近くにいた妹にはそれが通用しない。

 そうなると異世界の話を打ち明けるか、話さずにそのまま黙っているという選択肢を取らざるを得ないのだが、どちらを選んだとしても瑠璃との今の心地よい距離感は完全に崩れ去ってしまう。……そんな気がするのだ。それならば多少嫌われてしまったとしても本当のことは話さずに誤魔化してしまったほうがマシである。

「わざわざ車で迎えに来てもらってたのに?」

「……何で知ってるんだ?」

「お母さんに教えてもらった!」

 朝が弱い妹は栗林さんが車で僕を迎えに来た時間は眠っていたはずなのに、何故か今日僕が一緒にいた相手が車で迎えに来ていたことを知っているようであった。どうやら母さんから話を聞いたようで、そうなると母さんから特徴を聞いて今日一緒にいた相手が栗林さんであった事まで勘づいているかもしれない。

「……ダンジョン探索も休みにしたから、栗林さんと今後のFクラスの訓練について相談してたんだよ」

「ふ~ん。そっか。おにぃはいつの間にか会長と仲良くなってるね」

「何故か学園内で出会う機会が多かったからかなぁ……」

 栗林さんとのそもそもの出会いは瑠璃が居なければ成り立つことはなかったが、それ以降は彼女と出会うことが多かったため自然と仲良くなっていた。それでも出会った相手と直ぐに仲良くなれる瑠璃には遠く及ばないだろう。

「……そういえば生徒会内で瑠璃が有名になっているらしいけど……なにかあったのか?」

 ふと中等部生徒会のメンバーの前で名乗った際の彼らの反応を思い出し、当の本人である瑠璃に確認を取ることにしてみる。目の前にいる妹は特に慌てる様子はなく思い当たることを口にする。

「う~ん。たぶん会長に生徒会に誘われたけど断ったからかな?」

「へぇ~。なんで断ったんだ?」

「なんか気が乗らなかったし、あの時はそれどころじゃなかったから……」

 どうやら瑠璃は以前から栗林さんに生徒会の広報として誘われていたらしく、それを断り続けていたのが生徒会内で有名な理由なのではないかと推測している。事務仕事は苦手そうだが元気で人懐っこい瑠璃は広報の役職にピッタリだと思うが、気が乗らないのと他の理由があり断ったようだ。

「そうか……他にも心当たりはないのか?」

 確かにこれで話の辻褄は合いそうであるが、生徒会メンバーの反応を思い返すとそれがすべてではないような気がするので、他にも何か思い当たることはないか尋ねる。最愛の妹が学園内で奇異の目で見られる行動をとっているというのであれば、心を鬼にしてでも兄である自分が叱らなければならないだろう。

「他かぁ……。会長の誘いを何度も断るとは何様のつもりだ!……なんて言って絡んできた男の子を決闘でボコボコにしたからかな?」

「……その男の子は槍を持っていましたか?」

「持ってた!……って急に魔人みたいな口調にならないでよ!」

 はい、おそらく原因がわかりました。今出ている情報をまとめると栗林さんの誘いを断った妹に文句を言いに来た男子がいて、生徒会入りをかけて決闘を挑んできたらしい。そして瑠璃はその男子をボコボコにしたようで、さらに彼は槍を使っていたようだ。……十中八九その男の子は木嶋君だろう。

 決闘でのボコボコ具合にもよるが、あの場で小鳥遊の名前を聞いた鈴木さんと奥井さんが微妙な反応になってしまったのも頷ける。……むしろ木嶋君が怒り心頭で僕に模擬戦を挑んできた原因の一つなのではないだろうか。

(それにしても瑠璃は決闘で木嶋君をボコボコにできたんだな。彼も結構強かった気がするけど……)

 名前を当てる魔人のような言い回しが気に入ったのか、笑顔になっている妹が木嶋君以上の実力であることに少し驚いてしまう。当初は彼がこの前の模擬戦ほどの実力がなかった可能性もあるが、1対1で戦った場合距離を詰められたら妹のほうが不利になるだろう。接近されないように立ち回ったとしてもそれが出来るほどの実力差があるということになるのだ。

「ちなみにどのように戦ったの?」

 決闘での立ち回りが気になったので色々と推察をしてみたが、結局当の本人である妹に聞いてみることにする。

「魔法で痺れさせて動けなくなったところをボコボコに殴った!」

「……えぇ~」

 先ほどまでしていた予想と全く違う答えが返ってきて困惑してしまう。しかし妹が使う雷の魔法のことを考えれば、確かにそのような戦法もありだと納得せざるを得ない。動けなくなったところをボコボコに殴られた木嶋君に少し同情するが、そもそも彼が仕掛けた決闘なので自業自得だろう。

 妹はこのような理由で生徒会から有名であることが判明して少し安堵する。良い方向に有名とは言えないが生活態度が悪いなどよりは大分マシである。

 良い感じに今日一緒に過ごした栗林さんの話題からそらすことにも成功したので、夜が更けるまで妹とはそのまま他愛のない会話を続けていくのであった。
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