その聖女、神の愛し子です!

一路(いちろ)

文字の大きさ
4 / 33

第三話

しおりを挟む
わたしは、ほかの子と少し違う。

それは、昔からなんとなくわかっていた。ケガも、病気もしたことがない。転んで擦りむいても、気づけば血は止まり、痛みもすぐに消えてしまう。風邪が流行っても、わたしだけは平気だった。いつでも、まるで何かに守られているようだった。

だけど、それだけじゃない。

──あの日のこと。

まだわたしが四歳の頃だった。朝食のスープに入っていたキノコが、なんだか黒くモヤモヤと煙のように見えて、不思議な感じがした。でも、誰も気にしていないみたいだったから、わたしも黙っていた。

スプーンですくって、口に入れた。味は、ふつう。苦くも辛くもない。ただ──嫌な感じだけが、喉の奥に残った。

その日の午後、年上の子たちが次々と具合を悪くした。熱が出て、手足がしびれると言って、ベッドに伏せってしまった。

ノエル先生が薬草を煎じ、看病に走り回る中、わたしだけはケロリとしていた。

(あの黒いもや……あれが、なにか関係してるのかな)

でも、誰にも言えなかった。変だと思われたくなかったし、自分でもよくわからなかったから。

しばらくして、ノエル先生が、庭の隅で草花について教えてくれた日のことだった。

「ルミナ。野草には、食べられるものと、食べてはいけないものがある。間違えたら、大変なことになるんだ。」

先生は、一枚の紙にいくつかの草の名前と特徴を書き込んでいった。その中に、見覚えのある文字があった。

『毒』

それを見た瞬間、胸がざわっとした。

「せんせい、この字……見たことある」

「うん? どこで見たんだい?」

「……このまえ、キノコに黒いもやといっしょに浮かんでた。お皿の上で、すこしだけ……」

ノエル先生は一瞬だけ目を細め、それから静かに頷いた。

「そうか。君には、そう見えていたんだね。ルミナ、それはね、とても特別なことなんだ。」

「とくべつ……?」

「うん。君には、“毒”を見分ける力があるのかもしれない。ただ目で見るだけじゃなく、何か──もっと深いところで、感じ取っている。」

わたしは、先生の言葉を反芻しながら、紙の文字をもう一度見つめた。

たしかに。あの時のモヤモヤの中に、この字があった。

「じゃあ……わたし、この力で……みんなを守れる?」

「もちろんさ。君がそれを望むなら、その力はきっと、誰かの希望になる。」

先生は、わたしの肩に手を置いて、静かに微笑んだ。

その日から、わたしは草花や薬草にもっと興味を持つようになった。

毎朝、ノエル先生と一緒に庭を歩き、葉の形や茎の色、花の咲き方を観察した。ノートに絵を描いたり、草の匂いを比べたり。何かを知るたびに、心の奥があたたかくなる。

ある日、近くの森に散歩に行ったとき、道端に咲いていた赤い花の茂みに、また黒いもやが見えた。わたしは近づいて確認すると、あの『毒』の字がふわっと浮かび上がった。

「せんせい、この花……たぶん、食べたらダメ」

「……おお、正解だ。これは“レッドナイト”っていう有毒の草花だ。君の感覚は、本物だね」

先生が感心したように言ってくれたとき、胸がじんと熱くなった。

(わたし……やっぱり、ちょっと変わってるのかもしれない。でも、変わってることが、悪いことじゃないなら──)

たまに、黒くもやもやとした影が見えるときがある。でも今は、怖くない。

だって、それが「毒」だとわかったから。

もし、わたしがそれに気づけたら、誰かが困る前に助けられるかもしれない。

その力が、特別であっても。

わたしは、わたしのままで、生きていきたい。

先生が言ってくれた。「君がそれを望むなら、その力はきっと、誰かの希望になる」って。

だからきっと、大丈夫。
その言葉がある限り、わたしは前を向いて歩ける気がする。
たとえ、これからもっと「違う」と思うことが増えても、わたしはわたしの光を信じていきたい──
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
  魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。  帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。  信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。  そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。  すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。

辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた

平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。 それから幾千年。 現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。 そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。 ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。 だが彼自身はまだ知らない。 自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。 竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。 これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

辺境追放された「植物魔導師」の領地開拓 ~枯れ果てた死の大地は、俺の魔力で聖域(楽園)へと変貌する~

リーフレット
ファンタジー
​「植物魔法? ああ、農作業にしか使えないあの地味な魔法か」 ​帝国騎士団の専属魔導師だったアルトは、無能な二世皇太子レオンによって、一方的に追放を言い渡された。 アルトがどれほど魔導植物を駆使し、帝国の食糧難を裏から支えていたかを知らぬまま、彼は「戦闘に役立たない役立たず」という烙印を押されたのだ。 ​帝国を出て行き着いた先は、魔物が跋扈し、草一本生えないと言われる最果ての荒野。 死を待つだけの地。しかし、アルトは絶望するどころか、晴れやかな顔で笑っていた。 ​「やっと、気兼ねなく『植物』を愛でられる。……よし、ここを世界一の庭(楽園)にしよう」

処理中です...