その聖女、神の愛し子です!

一路(いちろ)

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第二十三話

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野営の食事とは思えないほどのしっかりとした食事を終え、ルミナとユリウスはまったりしていた。
食後の片付けもルミナの魔法ですぐに終わってしまった。

ユリウスは、この後、寝床を整えて、明日出発して王都へ向かって、王都に着いたら―――と、今後の予定に考えを巡らせていた。ルミナのお世話役であるからには身の回りの世話からスケジュール管理まで行うのは当然なのである。

「では、そろそろ―――」
「お風呂だよね!」
「……え?」
「待ってて!準備してくる!」

ユリウスが呆気にとられているうちに、ルミナは笑顔で行ってしまった。
寝床を準備します。と言いたかったのであって、決して風呂の準備の話ではなかった。
普通の生活であれば、食事の後は風呂へ入るのかもしれないが、今は王都への旅の途中である。宿に泊まっているわけでもないし、野外で風呂とは……?

「ルミナ様!お待ちください!」

ハッとして、ユリウスはルミナを追いかけた。と言っても数歩ほど歩いた木の陰だったのだが。

「……これは」
「お風呂だよ!」

そこには湯気の立った風呂と思われるものがあった。こんなもの先程まではなかったはずである。

「これは、どうされたのですか?」
「地面を掘って、固めてね。あそこから水が出るようにして、出てくる水を温めてるの」

あそこ、と指さされた場所からはちゃぽちゃぽととめどなく湯が吐水している。
自分が呆気にとられているほんの少しの間に、これを作ったというのか?ユリウスは再び呆気にとられることとなった。

「すごいでしょー!」と誇らしげなルミナを褒めてやりたいのはやまやまだが、過保護に育てられたルミナは少々世間知らずなのかもしれない。

「ルミナ様……普通の冒険者は野営で風呂には入りません。せいぜい水場があれば、体を拭くくらいです」
「……そっかぁ」

そもそもこんな芸当ルミナ以外にはできない。
魔法使いは貴重なため、大体が学院で学び、その後、国の所属になっている。そのため、冒険者をしている魔法使い自体があまりいない。
ルミナと同様のことをするならば火、水、土の魔法を使える魔法使いがそれぞれいなければいけない。
冒険者はパーティーを組む場合も多いが、魔法使いがいるパーティーの方が珍しいため、複数の魔法使いがパーティーにいるというのがほぼありえないのだ。

落胆しているルミナにユリウスは胸が痛んだ。手放しで褒めてあげたい。しかし、今後、冒険者の世界で生きていくことを考えたら、知っておかなくてはいけないことだ。
その力がどれだけ、特別なのかを。

「もし、他の冒険者と同行することになっても、簡単にこういうことをしてはいけません」
「……うん」
「冒険者に限らず、世の中には善い人だけではないのです。その力を、貴女を利用しようとする者もいるはずです。ですので、あまり公にするのはお勧めしません」
「はい。ごめんなさい」
「いいえ。謝らなくてもいいのです。心に留めておいてくだされば」

ルミナの頭に手を置いて、ユリウスは笑った。
もう、守られるだけのあの頃の小さな少女はいないのだ。少し寂しいような、それでいて嬉しい複雑な気持ちだった。

「上手に魔法を使えるようになりましたね。素晴らしいです。順番で入ることにいたしましょう」
「うん!」

ルミナ、ユリウスと順番に風呂に浸かった。湯加減はちょうどよく、疲れた体を癒してくれた。
見上げれば、木々の間から星空が見える。なんと贅沢なことか。
野外で風呂に入るのは、ユリウスもさすがに初めての経験だった。

「申し訳ありません。長湯をしてしまいました」
「大丈夫だよー」
「いいお湯でした」

温まった体に夜風が気持ちいい。そんな夜だった。
あとは寝床を準備して寝るだけなのだが、ルミナは何かを言いたげだった。

「今は、ユリウスしかいないから、いいよね?」
「……と、申しますと?」

にこっと笑ったルミナが地面に手を置くと、しゅるしゅるとどこからともなく蔓が集まってきた。集まった蔓はドーム状に組みあがり、一瞬でテントのようなものが出来上がった。
扉もついており、中に入るとそこは二人が寝れるほどの広さで、地面はふかふかの芝生で覆われていた。

「これでゆっくり寝れるよね」

何度驚かされればいいのか。ユリウスはもう言葉が出なかった。そして、ルミナは案外強かで、上手く世の中を渡っていけそうだと思った。

「ヴァルガが外で見ててくれるって」

ルミナが窓代わりの隙間から外をのぞくと、黒い巨体は焚火のそばに横たわっていた。
琥珀色の瞳が、ちらりとこちらを見て、まるで「任せろ」と言わんばかりに瞬いた。

「……番犬ならぬ番狼、ですか。実に心強いですね」
「ふふっ、そうだね」

ルミナはくすくす笑いながら芝生にごろりと寝転がった。柔らかな緑の香りが鼻をくすぐり、さっきまでの旅の疲れがすっと抜けていく。

「……こんなふうに寝るの、初めて。お外なのに、安心する」
「貴女の魔法と、ヴァルガのおかげです」

ユリウスも荷を枕代わりに腰を下ろし、ふうと小さく息を吐いた。

「……私も、何度か野営を経験していますが、ここまで快適に過ごせたことはありません」

ルミナはごろんと寝返りを打って、ユリウスを見上げた。
焚火の光が漏れ込み、彼の横顔をぼんやりと照らしている。

「ねえ、ユリウス」
「はい」
「わたし、これから大丈夫かな……? 冒険者になっても」

不安げな声。
どれほど特別な力を持っていても、ルミナはまだ十六の少女だ。

ユリウスはしばし考え込み、静かに答えた。

「大丈夫です。――ただ、ひとつだけ約束してください」
「約束?」
「どんなときも、ひとりで抱え込まないこと。誰かに頼ることを恐れないこと。……それさえ守れれば、必ず道は開けます」

ルミナは少し目を丸くして、それからにっこり笑った。

「うん。約束する」

ユリウスはその笑顔にほっと胸をなで下ろす。
――やはり、この子は強い。
けれど同時に、その強さが無茶につながらないよう、支えていかなければならない。

「では、そろそろ休みましょう。明日も歩かねばなりません」
「うん。おやすみ、ユリウス」
「おやすみなさい、ルミナ様」

二人は芝生に身を横たえ、夜の帳に包まれた。
外ではヴァルガが静かに息をひそめ、森の気配に耳を澄ませている。

やがてテントの内に穏やかな寝息が満ち、星空の下の野営地は静寂に包まれた。
それは、王都に向かう旅の一夜目だった。
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