ケモノグルイ【改稿版】

風炉の丘

文字の大きさ
43 / 47
ヘビアシ

5 蠢ク邪悪(ウゴメくジャアク)

しおりを挟む
「2年も寝たきりだったのか?」
 ザックはふと両手を見る。確かに少し痩せたような気はするが、大して衰弱してないような……
「あ、いえ……。正確に申しますと、2年間のほとんどは石化状態で保管されていました。解石……つまり、石化を解除したのは、一週間前になります」
「なるほどね。石化中は時間が止まってるみたいなもんだから、この衰弱は一週間分って事かい」
「その間の生命維持は、回復魔法に依存しておりました。ですが、いつまでも飲まず食わずを続けては、身体が保ちません。明日になっても目覚めなければ、ガングワルド方式に切り替える予定でした」
「ガングワルド方式って……あれか! 体中に針やらチューブやらをぶっ刺して、栄養を送り込んで、無理矢理生きさせるってやつだよな。そいつは勘弁願いたいぜ」

 それにしても、2年か。ウラシマや眠り姫に比べたら、たかが2年だ。大したことはない。されど……
 今はとりあえずメシだ。おかゆじゃ物足りないがしょうがない。
 肉体的には一週間ぶりの食事を取りながら、ザックはハジキに質問する。
「この2年で、社会情勢に何か変かはあったかい? 増税とか、戦争とか」
「一番の変化は、貴方様ですよ」
「オレ?」
 ハジキはサービスワゴンから丸めた紙を2枚取り出すと、そのうちの1枚をザックに渡す。
 広げてみると、それはA4サイズのポスターで、上にはWANTED。下には金額。そして中央にはザックの顔がデカデカと載っていた。死んだ目でこちらを見つめている。
「へぇ指名手配か。そうか…。いよいよオレも賞金首のお尋ね者として、全国デビューってわけだ」
 ザックは長年殺し屋をやっているが、指名手配されるのは初めてである。これまでは組織からの依頼で動いていたため、表に出ないようもみ消してくれていたのだろう。だが、あの事件で徹底的に逆らっちまったからなぁ……。
「このポスターは、あの事件から約一ヶ月後に刷られたものです。名前を見てください」
「名前?」
 改めて手配ポスターを見ると、ザックの顔と金額の間に名前が書かれていた。が、“ザック・ザ・リッパー”ではない。
「“ザック・ザ・サウザンドマーダー”………。千人殺しのザック!?」
「はい。それがザック様の新しい二つ名です」
 そこでようやくザックは気付く。看護婦姿の娘っ子が言ってたのはこの事だと。
 千人は盛りすぎだが、派手に殺しまくったのは事実だ。悪名に尾ヒレが付くのも止む無しか。
 さらば“切り裂き魔”よ。そして、ようこそ“千人殺し”。
「犯罪組織は、約一ヶ月かけて屍体の身元を確認しました。しかしザック様の屍体は見つからない。深夜に悪党大虐殺をしでかした凶悪犯は、今なお逃走中。犯罪組織としても、落とし前を付けねば面目を保てません。それ故に、ザック様は全国指名手配されたのだと思われます」
「まあ、そうだろうよ」
 全国指名手配され、表裏関係なく賞金稼ぎに追われ、逃亡の果てに力尽きる。裏切り者の末路としては、まあ妥当だな。
「それを踏まえて、こちらをご覧ください」
 ハジキはそう言って、2枚目の丸まった紙を渡してきた。
 比較すると、サイズは同じだが、紙の痛み具合が違う。1枚目は2年前と言うことで若干の痛みがあるが、2枚目はできたてのように新しかった。開いてみれば、1枚目と同じ、ザックの指名手配ポスターである。
「これが何だって?」
「今から一ヶ月前に出し直されたポスターです。よく見比べてください」
「間違い探しでもしろってか?」
 上にはWANTED。下には金額。そして中央には死んだ目をしたザックの顔。特に大きな変化は見られない。強いてあげるなら印刷の色が若干違うくらいか……
 いや、待てよ?
 古いポスターには、WANTEDの下にDead or Aliveと書かれていた。つまり「生死を問わず」だ。
 しかし新しいポスターをよく見ると、Alive Onlyとだけ書かれている。「生け捕りのみ」と言うわけだ。
「なんだこりゃ、なんで『生死を問わず』から『生け捕り』に変わったんだ?」
「いえ、ザック様。確かにそこも重要なのですが……」
「え? ここじゃないの?」
「賞金額をよ~く見てくださいまし」
「賞金ったって……特に変化は……」
「いえ、見ていただきたいのは、左端の数字ではなくてですね……。ゼロの数なんです」
「ゼロ……?」
 そう言われてザックは、ゼロを数え始める。

 五つ…… 増えていた……

「おめでとうございます、ザック様♪ 先月より貴方様はナンバー1♪ 世界最高金額のお尋ね者です♪」
「いや待て! ちょっと待ってくれ!! なんだよこのとんでもねぇ賞金額は!?」
「はい。小国の国家予算なんて、軽くぶっちぎっておりますね♪」
「そもそも誰がこんな金額払うんだ? 不可能だろ!」
「“千人殺し”の際、ザック様に子飼いの用心棒を殺された富豪達が、敵討ちをすべく賞金を出し合った結果、この金額にまで膨れあがった……というのが、建前のようです」
「建前ね……。で、あんたはどう見てるんだ?」
「ザック様を何としてでも捕らえたい、裏の組織が暗躍している。ザック様も心当たりがあるのでは?」
「ああ、知ってる。確かに知ってるぜ」
 間違いない。それ以外考えられない。世界を裏から支配する敵。憎むべき邪悪。

 “オーガ”だ!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...