グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第二章

No.006

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……………………思い出した。

 メリーナ・サンダーブロンドだ。
 1年前の<豪華客船メロディスター号>での任務で知り合ったんだ。

 確かあの時は、第三継王家つぐおうけの王女として、誰かと婚約しようとしていて、その相手がとんでもなく嫌な奴で、闇取引とかしていて――。

 そして俺に関する情報は、彼女の記憶からすべて消したのだ。

「観念しなさい! これ以上抵抗するなら、大怪我をすることになるわよ!」

 メリーナが激しい口調で呼びかけてくる。

 なんか彼女……1年の間に、随分と力強くなってないか? メリーナはもっと穏やかな雰囲気の子だった気がするんだが……。

 いずれにしろ、このまま誘拐犯として成敗されるのは勘弁だ。

「俺は誘拐犯じゃない」
「じゃあ何者なの? こんなところで何をしてるの?」

 説明するのが面倒くさい。というか、俺は正体を明かすわけにはいかないし……。
 こんなことになるなら、1年前にメリーナの記憶を消さなければ良かったか?
 いや、それはそれで問題があるわけで――。

「ん? あれ……?」
「なに? 観念したの?」

 メリーナに関して何か重要なことを忘れている気がする。
 普段は、終わった任務のことはだいたい忘れてしまうのだが、そのことは覚えておいたほうがよかったような気が……。

「よくわからないけど、他に弁明がないなら……」

 俺が考え事に時間をかけすぎたせいで、メリーナも痺れを切らしたようだ。
 彼女が構えている剣に、バチバチと電気が溜まり始めている。

 まずい。とりあえずメリーナを説得しなければ――。

「待ってくれ! 詳しい事情は話せないが、俺も人質の救出にきたんだ!」
「えっ、そうなの? それなら……ごめんなさい」
 
 信じるんかい。と、危うくツッコミそうになった。

 そういえば、メリーナはこんな子だった気がする。危なっかしいというか、世間知らずというか、天然というか……。

 とりあえず一般的な忠告だけはしておこう。

「俺が言うのもなんだけど、そんな簡単に人を信用しちゃダメだぜ?」
「大丈夫。あなたの目を見ればわかるから。本当のことを言ってるか――」

 その言葉の途中で、急にメリーナの動きが止まった。

 彼女は目を見開き、口を大きく開け、なぜかじっと俺の顔を見つめている。
 いや、見ていたのは俺の目か?

 しばらくのあいだ、メリーナは瞬きもせず俺の目を見つめていた。

 そして、また唐突に言うのだった。

「わたし、あなたに恋してる!」

 ……違う! 勘違いだ!

 即座にそうとでも言っておけば良かったのだろうか。
 
 しかし愚かにも、俺は1年前の出来事が脳裏をよぎり、メリーナの言葉をすぐに否定することができなかった。

 そう、忘れていた重要なこととは、そのことだ。

 だがしかし、俺はともかく彼女の記憶は消したはずだ。
 それなのになぜ?

 思い出せるだけの記憶をたどり、俺は謎の解決に挑む。
 その気配を察知したのか、メリーナが口を開く。

「やっぱりそうだったのね。あなたがわたしの――」
「待て! 一度、冷静になってくれ。俺たちは初対面だよな?」
「それはそうね」
「なのに、なんで『恋してる』ってなるんだ?」
「わたし、1年前から恋してるの。でも、その相手が思い出せなくて……ずっと探してたのよ」
「ちょっと言ってる意味がわからないんだけど」
「わたし自身もよくわかってないけど……でも、この恋する気持ちだけは間違いないわ!」

 ……嘘だろ? 記憶消去剤でも、恋する気持ちは消せないってか?

「どうしたの、恐い顔をして」
「いや、なんでもない。大丈夫だ。そして、キミの言ってることは、すべて妄想だ」
「そんなことない!」

 さっきは簡単に人の言うことを信じたくせに、そこは譲ってくれないんだな。

 さて、どうしたものか。

 ……本当にどうしよう?

 俺が少しだけくじけそうになっていると、突然耳の奥に甘ったるい声が流し込まれてくる。

『ライちゃん! 光の点が増えたのよ! プリ、ちゃんと教えたわね!』

 無線の向こうでプリが騒いでる。
 教えてくれたところ悪いが、そいつはすでに目の前にいるんだよ。

『ね~ね~助かったでしょう! プリ、ほめられるのよ~。ごほうびもらえるわね~。ライちゃん、プリにおみやげ買ってくるのよ! プリがほしいのは――』
「ちょっと黙っててくれ」

 思わず無線の声に応えてしまった。
 おかげで目の前にいるメリーナは、自分が言われたと勘違いする。

「それは……わたしと話したくないってこと……?」
「いや、まあ……あながち間違いではないが……」
「わたしはあなたと話したいことがたくさんあるの。まずは名前を教えて!」

 メリーナって、こんなに押しの強い子だったっけ? 恋する乙女は強いってやつか?

 いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃない。ダメだ。この子が相手だと、なんだか調子が狂ってしまう。
 とりあえず話を本筋に戻そう。

「話よりも人質を救出するのが先だ」

 俺は至極真っ当なことを言ったつもりだ。
 なのに、なぜか彼女には伝わらなかったらしい。

「名前、どうしても教えたくないってこと?」

 メリーナの全身を包んでいる金色の光が徐々に輝きを増していく。

 バチバチッ! バチバチッ! バチバチッバチバチッ!

 彼女の周りで激しい火花が散る。まるで全身に雷をまとっているみたいだ。構えている剣にも、黄金の雷がまとわりついている。

「……何をするつもりだ?」
「教えてくれないなら、無理やり聞き出す」
「えぇ……? 恋する相手じゃないのか?」
「わたし、自分の人生は自分の力でことにしてるの!」

 切り開くって、そういう意味じゃないだろ。物理的に斬ってどうすんだよ! ていうか、恋する相手に斬りかかるやつなんて聞いたことないぞ!

 などという俺の心の叫びが届くわけもなく……。
 俺はどうやってこの場を乗り切ろうか、脳をフル回転させる。
 と、次の瞬間――。
 
 ボンッ!

 メリーナの方から爆発音が聞こえた。
 溜まりすぎた電気が放電でもしたのか。彼女のさらさらだった金髪が、羊のようにもこもこふわふわになっている。

 たとえるならこれは……うん、まさに金色の羊だ。

「……毛量がすごいことになってるぞ」
「てへへ……強い魔法を使おうとすると、髪に電気が集まってこうなっちゃうの」

 メリーナは照れくさそうな笑みを浮かべていた。

 本人は気にしていないらしいが、かなり面白い変身をとげてくれたな。なにしろ髪のボリュームが何倍にもなってるんだ。

 ヤバい、笑っちゃいそう……。

『ライちゃん! ポップコーンができた音がしたわね!』
「ぷっ――」

 プリが変なこと言うから吹き出してしまった。

「あー! いま、わたしのこと笑ったでしょ! ひどい!」

 メリーナがほっぺを膨らませる。そして彼女のまとう光が、さらに明るさを増していく。

 まさか、さらなる大爆発とか起こさないよな?

「落ち着け! 誘拐犯が近くにいるかもしれないんだぞ」
「あなただって騒いでたでしょ!」

 ごもっともで。

「それじゃ、いくわよー!」

 軽いノリの掛け声と共に、金色の羊が俺に向けて突っ込んでくる。

 シュンッ――バチバチッ!

 雷を帯びた刃が俺の鼻先をかすめる。
 ギリギリでよけたつもりだったが、ちょっとだけ鼻が痺れたぞ。

「今の本気だったろ!」
「本気なら、もっと強力な魔法を使ってるわ。当たっても、ちょっと痺れるだけよ。ただ、髪がわたしと同じ感じになっちゃうかもね」

 嫌すぎる。そんなリスクを抱えるくらいなら、名前を教えてやるよ。
 俺がそう言おうとした時だった。

 タタタタッ――。

 近づいてくる複数の足音に気づいた。
 恐らく誘拐犯たちだ。別の階にでも控えていたのだろう。

「遊びは終わりだ。本物の誘拐犯がこの部屋に向かってきてる」

 俺はメリーナを止めようとする。しかし事の重大性が、いまいち彼女には伝わらない。

「それって、わたしの恋よりも大事なこと?」
「当たり前だろ!」

 いよいよ面倒くさいことになってきた。

 このままだとテロリストと一戦交えることになりそうだし、恋する少女は暴走してるし、サポートはプリだし……。

 どう考えても無理だ。穏便に任務を完了させる未来が見えない……。
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