グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第六章

No.069

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 ソウデンとロゼットが合流し、俺たちは侵入された現場を調べることにした。

 案内された場所は、王宮の敷地内にある<宝物庫>と呼ばれる建物だった。メリーナの説明によれば、倉庫みたいなものらしいが。

「本気でこの中を調べるの? とんでもなくデカいんだけど……」

 ロゼットは宝物庫を見上げながら、ため息混じりにつぶやく。
 確かに宝物庫の建物だけで、GPAの本部並みに大きい。

「しかたない。現状だと、手掛かりはあまりないからな」
「でも、護衛兵は侵入者の姿を見たんでしょ?」

 ロゼットの言うとおり、護衛兵は侵入者と交戦しているので、その姿も見ている。
 ただ、俺がさっき話を聞いた限りだと、特定するのは難しそうだ。

「侵入者は、全身をローブのようなもので覆っていて、顔も見えなかったとのことだ。男か女かも不明。唯一の特徴が、魔法の扱いに慣れている、ということだけだ」

 俺がそう説明すると、メリーナが耳打ちしてくる。

「それってこの前お会いした、あの方なのかしら……?」

 メリーナが言っているのは、リン・ブラックサイスのことだ。全身をローブで覆い、正体不明と言われれば、連想するのもわかるが。

「使った魔法の特徴を聞く限り、違う気がする。全身をローブで覆うくらい、そこら辺の盗賊でもするしな」
「そうよね……」

 メリーナは少しほっとしたようだった。十三継王家つぐおうけの当主が自ら襲撃してきたとなれば、もう穏便に済ませることは不可能になるからな。

 そんな話をしながら中に入ろうとすると、今度はソウデンが声をかけてくる。

「団長、中で何を探せばいいんですか?」
「犯人の痕跡だ」
「それはつまり、魔法の痕跡ということですよね?」
「ああ。そこから犯人を割り出し、奪われた古代魔法書を取り返す。他の誰よりも先にな」
「それはかなりの難題ですね」
「だが、メリーナを大帝王にするには、これが最低条件だ。難しくてもやるしかない」
「お任せください。無茶な命令こそ、僕にとって至上の快楽ですから」

 ソウデンは嬉しそうな顔で妙なことを言っていた。
 かなり不気味だが、やる気はあるみたいだから放っておくか……。


 ◆◆◆


 宝物庫の中は、外の緊張感とは打って変わって静寂に包まれている。
 俺たちは一通り見て回ったが、博物館のような印象を受けた。

 もちろん、展示などがされているわけじゃない。それでも、魔法書以外にも数多くのアイテムが所蔵されていて、中には歴史的な品もあるのだ。
 この国と、サンダーブロンド家の歴史を伝えるには、これ以上ない場所だろう。
 ただ、一つ一つを見ていたら、日が暮れるどころか一生かかりそうなほどの規模だった。

 おかげで一周したころには、ロゼットはぐったりしていた。

「はぁ……こういうのを見ると、改めて十三継王家のヤバさを感じるわ」
「ヤバさ……」

 ロゼットの愚痴を、メリーナは複雑そうな顔で復唱する。
 その反応を見て、ロゼットは慌てて弁解し始める。

「あっ、違うのよ! いい意味でよ! いい意味でのヤバさ、っていうの? なんていうか……そう、偉大さ! 偉大だなぁ……っていう意味で言ったのよ」

 なかなか苦しいフォローだった。
 すると、横に立つ黄緑コートの男が、鼻で笑いながらつぶやく。

「十三継王家が偉大なのは自明だよ」
「黙れ、ヘンタイ野郎」

 ロゼットとソウデンが睨み合いを始めた。こいつらは、十三継王家に対するスタンスが真逆だから、こういう話題だと特に揉めやすいのだ。

 人選をミスったな。しかたない。こいつらは分離して働かせよう。

「手分けして調査するぞ。ロゼットは魔法書の所蔵部屋を中心に。可能なら、王宮魔法士からも情報を引き出してくれ。ソウデンは屋上の侵入経路の方を頼む。どっちも、主に探すのは魔法の痕跡だからな」
「……ライライはどうするのよ?」

 ロゼットが少し不満げに尋ねてくる。

「俺はプリと全体を見て回る」
「プリ、ライちゃんと一緒わね!」

 プリが俺の頭をペシペシ叩いてくる。こいつはこいつで、いつまで乗ってる気なんだ?

 そんなことを思っていると、横からメリーナが俺の服を引っ張ってくる。

「わたしはなにを手伝えばいいのかしら?」
「メリーナは俺の部下ってわけでもないし、休んでてくれて構わないけど……」
「ううん、手伝わせて」
「じゃあ一緒についてきてくれ。何か違和感とかあれば教えてくれるとありがたい」

 俺がそう頼むと、メリーナは嬉しそうにうなずく。
 一方、ロゼットの眉間にはシワが寄っていた。

「はあ? なんであたしが一人で調べるのに、ライライの方はプリとメリーナちゃんも一緒なのよ!」
「ロゼットは一人で平気だろ」
「ライライだって一人で平気でしょ!」
「プリとメリーナは違う」
「そう言って、そっちでよろしくやるつもりなんでしょ! ライライ、最近あたしに冷たいわよ!」

 こいつは仕事中に何を言い出すんだ?
 俺は思わずため息をついてしまう。と、耳の奥から声が聞こえてくる。

『ロゼットさんって、本当に嫉妬深いですよね』

 誰が言ってんだよ……。と、喉元まで出かかった言葉を、俺は必死に飲み込んだ。


 ◆◆◆


 俺はプリとメリーナと、三人で宝物庫の中を調べ始めた。
 しかしメリーナの顔色が優れない。どうやら、ロゼットたちのことを気にしているみたいだ。

「あいつらは放っておいて大丈夫だ」
「でもロゼットさん、寂しそうだったし……」
「いい大人なんだから平気だよ。ちょっと構ってほしかっただけだ」

 俺がそう言ってやると、なぜかメリーナはくすりと笑う。

「ライってば、なんでもお見通しなのね。みんなのお父さんみたい」
「たまに自分でもそう思うよ」

 俺がそうつぶやくと、なぜか耳の奥から抗議の声が上がる。

『失敬な。むしろマナが、センパイのお世話をしてるんですからね。ご飯だって作ってあげてるじゃないですか』
「この前のホットケーキのことを言ってるなら、次からはもっと量を減らしてくれよ」
『センパイってば、わがままばかり言って。でも任せてください。今度はパンケーキに挑戦するつもりですから』
「なんの違いがあるんだよ……」

 そんなくだらない話をしていたら、ふいにプリが俺の頭から降りた。そして鼻をクンクンさせながら、辺りをうろつき出す。

「どうしたんだ?」

 俺が聞くと、プリは珍しく難しい顔で頭を捻っていた。

「知ってる臭いがするわね……」
「本当か? 誰だ?」
「わからないわねぇ……知ってる気もするし、知らない気もするのよ……」
「どっちなんだよ……」
「プリ、わからないわね!」

 この反応は、知らないというよりは、思い出せないといった感じだ。
 本当にプリの顔見知りなのか?
 そうだとしたら、かなり大きな手掛かりになるが。

「他に何か思いあたらないか? いつ嗅いだとか、どこで嗅いだとか」
「あっ、わかったわね。で嗅いだのよ」
「――冗談だろ?」

 驚きのあまり、俺は心臓が止まるかと思った。

「おうちって、プリちゃんの家ってこと?」

 メリーナはプリの言葉の意味がわからないので、戸惑った様子で尋ねてきた。

「プリの言うおうちってのは、GPA本部のことだよ」
「えっ……それって……」
「侵入者は、GPAの関係者だ」
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