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第六章
No.070
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俺は静かに告げた。
すると、メリーナは困ったような顔で言う。
「GPAの人って……なにかの間違いじゃないかしら?」
しかしその疑問には、プリが自信満々に反論する。
「プリ、間違ってないわね! おうちで嗅いだわね」
プリがそこまではっきり言うってことは、恐らく事実なのだろう。
そこで、俺はさらに聞いてみる。
「プリ、いつ嗅いだのかわからないか?」
「……わからないわね。でも、何度も嗅いだわね」
「何度もか……」
そうなってくると、部外者の可能性は考えづらい。
GPAの職員以外で、本部に何度も出入りしているのは、最近ではメリーナくらいだろう。
『センパイ、本部の来訪者をリストにしましょうか?』
「それよりも全職員の行動記録を調べろ。特に犯行時刻から二十四時間前までを。もし十三継王家と接触してる人間がいたら、優先的にピックアップしてくれ」
『了解しました。でも、割り出すのは難しいと思いますよ。各エージェントの行動は、秘匿されてますからね。今回みたいに、任務の概要が共有されることすら稀です』
アイマナの言う通り、GPAはチーム単位で行動し、その情報を外に漏らすことは基本的にないのだ。上司である本部長にも、普段の行動をいちいち報告することはない。
「とはいえ、他にいい案はないだろ?」
『あっ、それならプリちゃんに、職員ひとりひとりの臭いを嗅いでもらうのはどうですか?』
「他チームの人間とは、接触したがらない奴が多いからな。近づくだけで一苦労だよ」
『近づかない人は、そもそもプリちゃんが臭いを覚えることもないのでは?』
「……なるほど。だとすると、すれ違ったことくらいはある奴になるな。本部内の監視カメラを確認すれば、多少は絞れるか?」
『本部内には、マナも隠しカメラを設置してるので、そっちの方も調べてみます』
アイマナがなんか怖いことを言ってるが、聞かなかったことにしよう。
「そういえば、監視カメラがあるわ!」
ふいにメリーナが、何かに気づいたように声をあげた。
「なんの話だ?」
「宝物庫の中にはないけど、外からこの建物を映してるカメラがあるのよ。すっかり忘れてたわ」
「……メリーナ、その映像は誰も見てないのか?」
「えっ、どうかしら? 犯人の姿は護衛兵も見てるし、わざわざ監視カメラの映像なんて見てない気もするけど……」
「できれば、こっそり映像データを持ってきてくれないか?」
「うん、任せて」
もし映像に侵入者が映っているのなら、俺もこの目で見ておきたかった。その正体がGPAのエージェントだというなら、特定できるかもしれないからな。
◆◆◆
メリーナが監視カメラのデータを取りに行っている間、俺とプリは宝物庫のエントランスに戻り、ロゼットとソウデンの報告を聞くことにした。
「まずロゼットから聞こうか」
「一応、魔法の痕跡はあったけど、大したものじゃなかったわね。鍵のかかったドアを吹き飛ばした程度のものよ」
「古代魔法書はどうだ?」
「盗まれた数は30程度っぽいけど、どの魔法書かまでは特定できてないわ。ただ、話を聞く限り、目当ての魔法書があったわけじゃなくて、適当に盗んでいったように感じるわね」
「となると、狙いはやっぱりサンダーブロンドの失態か……」
最悪なパターンとしては、盗まれた古代魔法書の魔法が使われ、一般市民に被害が出ることだ。急がないと、取り返しのつかないことになる。
「じゃあ、次はソウデンだ」
「侵入経路は屋上からで間違いないです。昇降口が吹っ飛んでました。その際に使われた魔法は、<無純系>ですね」
ソウデンの報告は事務的だった。
すると、ロゼットが顔を強張らせ、割り込んでくる。
「無純系の魔法って、じゃあシルバークラウン家の仕業ってこと?」
「ロゼットくん、早とちりはやめてほしいな」
ソウデンが苦笑する。その顔をロゼットが睨みつける。
また言い合いになりそうな気配を察し、俺はソウデンを促す。
「いいから続けろ」
「護衛兵の話を総合すると、侵入者が使った魔法の系統は5つ。実に多様な魔法を使ったようです」
「5か……。まあ多いと言えば多いか」
「現代の魔法士なら、3つの系統を使いこなすだけで、全国に名が知れ渡るほどですよ」
「とはいえ、完璧に使いこなしてたかどうかはわからないだろ」
「侵入者は、魔法を連続して使っていたようです。僕が推測するに、魔法陣や呪文による発動ではないです。一方、媒介物を持ってるようには見えなかったとの証言もあります。となると……」
ソウデンがもったいぶった言い方をしながら、俺を見る。
「なんだ?」
「団長のように無拍子魔法を使ったか……」
「だとしたら、侵入者は俺だよ」
「まあ僕も、ローブの下に媒介物を仕込んでたんだろうと思ってますけどね。ただ、それにしても、かなりの使い手なのは間違いないです」
「個人を特定できる情報はないのか?」
俺がそう尋ねると、ソウデンは何も答えず、ただ肩をすくめるだけだった。
やはりわからなかったか。魔法の痕跡から個人を特定するのは、俺たちの専門じゃないからな。
そういうのは帝国魔法取締局の方が、よっぽど得意だ。
俺がちょうどそんなことを思った時だった。
「そこまでだ、GPA」
突然、入り口の方から妙に甲高い声が聞こえてきた。
振り向くと、そこに見覚えのある男が立っている。
水色のローブを着た男だ。そいつは、俺の目の前までくると、蛇のような目でジッと睨みつけてくる。
「久しぶりだな、元腐れ探偵くん」
男は粘着質な声で話しかけてくる。名前はスネイルという。帝国魔法取締局の職員で、なぜか俺のことを目の敵にしている奴だ。
「なぜお前らがここにいる?」
そう尋ねたところで、スネイルの後ろからメリーナが走ってくるのが見えた。
彼女は俺のそばまでくると、申し訳なさそうに口を開く。
「ごめんなさい、ライ。ちょっと事情があって……」
メリーナは弁解しようとする。しかしさらにもう一人、走ってきた奴を見て、俺はだいたいのことを察した。
「すんません、ボス!」
紫髪の派手な格好の男は、俺の前までくると、いきなり土下座をした。
「あのなぁ……」
「はあ? 謝って済むと思ってんのかよ!」
ロゼットが俺の言葉を遮り、怒鳴り声を上げる。さらに彼女は、まだ何も聞いてないのに、ジーノの後頭部を踏みつけようとしていた。
俺はそれを止めながら、ジーノに尋ねる。
「何があった?」
「いやぁ……オレ、帝国魔法取締局にも知り合いがいるんすよ。そんで、どこまで知ってるのか、探りを入れようとしたんだけど、逆に聞き出されたというか……」
ジーノはそんなことを言いながら、水色ローブの男をちらりと見た。
するとスネイルは嫌らしい笑みを浮かべ、ジーノに替わって話し出す。
「この紫芋くんを責めてやるなよ。彼に聞かなくても、ウチは情報を掴んでいたからな」
帝国魔法取締局は十三継王家に近い組織だ。知っていても不思議はない。そんなことよりも、聞きたいことがある。
「どうしてお前が王宮に入ってこられる?」
「私には特権があるんだよ」
スネイルは大げさに一枚の紙を見せつけてきた。命令書のようだ。そこに書かれている署名は――。
「<枢密十三議会>だと……?」
「先ほど枢密十三議会の決定が下った。今後、この件の調査は我々、帝国魔法取締局が中心となり進める」
「そんなものに従うと思ってるのか?」
「おっと、口の利き方に気をつけろよ。いくらGPAといえど、十三継王家をまとめて敵に回すのは都合が悪いだろ?」
悔しいが、奴の言う通りだ。俺たちはともかく、事を荒立てれば、サンダーブロンド家の立場が悪くなる。
しかし、思った以上に展開が早いな。いくら重大事件だと言っても、こんなに早く十三継王家が合意できるものなのか?
「さあ、GPAとかいうゴミの寄せ集めには退散願おうか」
最高の権威をバックに得て、スネイルは絶好調だった。
本来なら考えられないことだが、奴はメリーナにさえ高圧的な態度に出ていた。
「メリーナ殿下。彼らを早く追い出してくれませんか。これでは、いつまで経っても捜査が進みませんよ。そうなったら、困るのはあなたでしょ?」
スネイルがそう言った直後――。
シュンッ!
ソウデンが剣を抜き、スネイルの鼻先に突きつけていた。
「なっ……」
スネイルは大口を開け、全身を硬直させる。唇だけが、恐怖でわずかに震えていた。
その男に対して、ソウデンはドスを利かせた声で言う。
「調子に乗るなよ、貴族風情が」
「き、貴様……なんのつもりだ……」
スネイルは裏返った弱々しい声で、かろうじて言葉を紡いでいた。
一方、ソウデンの言葉は重く、すべての感情が削ぎ落とされていた。
「継王家に対する不敬は万死に値する」
「な……何を言う……私は<第一類貴族>だ。いわば準王族と言える身分だぞ……」
「だが、王族ではない。それが理解できないのなら、死んだほうがいい」
ソウデンは、さらに剣をスネイルの顔に近づける。もうほとんど、鼻に当たっているんじゃないかと思うほどだ。
「ヒッ……や、やめろ! わ、私には十三継王家がついてるんだぞ……!」
スネイルは裏返った声で必死に訴える。それでもソウデンは微動だにしない。スネイルの顔には、大量の汗が浮かんでいた。
さすがにまずいかと思い、俺は声をかける。
「ソウデン、もういい。引け」
「了解です」
ソウデンは一瞬で剣を鞘に収める。と、スネイルはその場にへたりこんだ。腰が抜けたみたいだ。
「貴様ら……こんなことをしてタダでは済まさんぞ」
ありきたりな悪態をつくスネイルに、俺は言ってやる。
「俺たちは引く。お前らで好きに調べればいい」
実際、これ以上調べても無駄な気もする。
というわけで、俺たちはサンダーブロンド家の王宮から立ち去ることにした。
すると、メリーナは困ったような顔で言う。
「GPAの人って……なにかの間違いじゃないかしら?」
しかしその疑問には、プリが自信満々に反論する。
「プリ、間違ってないわね! おうちで嗅いだわね」
プリがそこまではっきり言うってことは、恐らく事実なのだろう。
そこで、俺はさらに聞いてみる。
「プリ、いつ嗅いだのかわからないか?」
「……わからないわね。でも、何度も嗅いだわね」
「何度もか……」
そうなってくると、部外者の可能性は考えづらい。
GPAの職員以外で、本部に何度も出入りしているのは、最近ではメリーナくらいだろう。
『センパイ、本部の来訪者をリストにしましょうか?』
「それよりも全職員の行動記録を調べろ。特に犯行時刻から二十四時間前までを。もし十三継王家と接触してる人間がいたら、優先的にピックアップしてくれ」
『了解しました。でも、割り出すのは難しいと思いますよ。各エージェントの行動は、秘匿されてますからね。今回みたいに、任務の概要が共有されることすら稀です』
アイマナの言う通り、GPAはチーム単位で行動し、その情報を外に漏らすことは基本的にないのだ。上司である本部長にも、普段の行動をいちいち報告することはない。
「とはいえ、他にいい案はないだろ?」
『あっ、それならプリちゃんに、職員ひとりひとりの臭いを嗅いでもらうのはどうですか?』
「他チームの人間とは、接触したがらない奴が多いからな。近づくだけで一苦労だよ」
『近づかない人は、そもそもプリちゃんが臭いを覚えることもないのでは?』
「……なるほど。だとすると、すれ違ったことくらいはある奴になるな。本部内の監視カメラを確認すれば、多少は絞れるか?」
『本部内には、マナも隠しカメラを設置してるので、そっちの方も調べてみます』
アイマナがなんか怖いことを言ってるが、聞かなかったことにしよう。
「そういえば、監視カメラがあるわ!」
ふいにメリーナが、何かに気づいたように声をあげた。
「なんの話だ?」
「宝物庫の中にはないけど、外からこの建物を映してるカメラがあるのよ。すっかり忘れてたわ」
「……メリーナ、その映像は誰も見てないのか?」
「えっ、どうかしら? 犯人の姿は護衛兵も見てるし、わざわざ監視カメラの映像なんて見てない気もするけど……」
「できれば、こっそり映像データを持ってきてくれないか?」
「うん、任せて」
もし映像に侵入者が映っているのなら、俺もこの目で見ておきたかった。その正体がGPAのエージェントだというなら、特定できるかもしれないからな。
◆◆◆
メリーナが監視カメラのデータを取りに行っている間、俺とプリは宝物庫のエントランスに戻り、ロゼットとソウデンの報告を聞くことにした。
「まずロゼットから聞こうか」
「一応、魔法の痕跡はあったけど、大したものじゃなかったわね。鍵のかかったドアを吹き飛ばした程度のものよ」
「古代魔法書はどうだ?」
「盗まれた数は30程度っぽいけど、どの魔法書かまでは特定できてないわ。ただ、話を聞く限り、目当ての魔法書があったわけじゃなくて、適当に盗んでいったように感じるわね」
「となると、狙いはやっぱりサンダーブロンドの失態か……」
最悪なパターンとしては、盗まれた古代魔法書の魔法が使われ、一般市民に被害が出ることだ。急がないと、取り返しのつかないことになる。
「じゃあ、次はソウデンだ」
「侵入経路は屋上からで間違いないです。昇降口が吹っ飛んでました。その際に使われた魔法は、<無純系>ですね」
ソウデンの報告は事務的だった。
すると、ロゼットが顔を強張らせ、割り込んでくる。
「無純系の魔法って、じゃあシルバークラウン家の仕業ってこと?」
「ロゼットくん、早とちりはやめてほしいな」
ソウデンが苦笑する。その顔をロゼットが睨みつける。
また言い合いになりそうな気配を察し、俺はソウデンを促す。
「いいから続けろ」
「護衛兵の話を総合すると、侵入者が使った魔法の系統は5つ。実に多様な魔法を使ったようです」
「5か……。まあ多いと言えば多いか」
「現代の魔法士なら、3つの系統を使いこなすだけで、全国に名が知れ渡るほどですよ」
「とはいえ、完璧に使いこなしてたかどうかはわからないだろ」
「侵入者は、魔法を連続して使っていたようです。僕が推測するに、魔法陣や呪文による発動ではないです。一方、媒介物を持ってるようには見えなかったとの証言もあります。となると……」
ソウデンがもったいぶった言い方をしながら、俺を見る。
「なんだ?」
「団長のように無拍子魔法を使ったか……」
「だとしたら、侵入者は俺だよ」
「まあ僕も、ローブの下に媒介物を仕込んでたんだろうと思ってますけどね。ただ、それにしても、かなりの使い手なのは間違いないです」
「個人を特定できる情報はないのか?」
俺がそう尋ねると、ソウデンは何も答えず、ただ肩をすくめるだけだった。
やはりわからなかったか。魔法の痕跡から個人を特定するのは、俺たちの専門じゃないからな。
そういうのは帝国魔法取締局の方が、よっぽど得意だ。
俺がちょうどそんなことを思った時だった。
「そこまでだ、GPA」
突然、入り口の方から妙に甲高い声が聞こえてきた。
振り向くと、そこに見覚えのある男が立っている。
水色のローブを着た男だ。そいつは、俺の目の前までくると、蛇のような目でジッと睨みつけてくる。
「久しぶりだな、元腐れ探偵くん」
男は粘着質な声で話しかけてくる。名前はスネイルという。帝国魔法取締局の職員で、なぜか俺のことを目の敵にしている奴だ。
「なぜお前らがここにいる?」
そう尋ねたところで、スネイルの後ろからメリーナが走ってくるのが見えた。
彼女は俺のそばまでくると、申し訳なさそうに口を開く。
「ごめんなさい、ライ。ちょっと事情があって……」
メリーナは弁解しようとする。しかしさらにもう一人、走ってきた奴を見て、俺はだいたいのことを察した。
「すんません、ボス!」
紫髪の派手な格好の男は、俺の前までくると、いきなり土下座をした。
「あのなぁ……」
「はあ? 謝って済むと思ってんのかよ!」
ロゼットが俺の言葉を遮り、怒鳴り声を上げる。さらに彼女は、まだ何も聞いてないのに、ジーノの後頭部を踏みつけようとしていた。
俺はそれを止めながら、ジーノに尋ねる。
「何があった?」
「いやぁ……オレ、帝国魔法取締局にも知り合いがいるんすよ。そんで、どこまで知ってるのか、探りを入れようとしたんだけど、逆に聞き出されたというか……」
ジーノはそんなことを言いながら、水色ローブの男をちらりと見た。
するとスネイルは嫌らしい笑みを浮かべ、ジーノに替わって話し出す。
「この紫芋くんを責めてやるなよ。彼に聞かなくても、ウチは情報を掴んでいたからな」
帝国魔法取締局は十三継王家に近い組織だ。知っていても不思議はない。そんなことよりも、聞きたいことがある。
「どうしてお前が王宮に入ってこられる?」
「私には特権があるんだよ」
スネイルは大げさに一枚の紙を見せつけてきた。命令書のようだ。そこに書かれている署名は――。
「<枢密十三議会>だと……?」
「先ほど枢密十三議会の決定が下った。今後、この件の調査は我々、帝国魔法取締局が中心となり進める」
「そんなものに従うと思ってるのか?」
「おっと、口の利き方に気をつけろよ。いくらGPAといえど、十三継王家をまとめて敵に回すのは都合が悪いだろ?」
悔しいが、奴の言う通りだ。俺たちはともかく、事を荒立てれば、サンダーブロンド家の立場が悪くなる。
しかし、思った以上に展開が早いな。いくら重大事件だと言っても、こんなに早く十三継王家が合意できるものなのか?
「さあ、GPAとかいうゴミの寄せ集めには退散願おうか」
最高の権威をバックに得て、スネイルは絶好調だった。
本来なら考えられないことだが、奴はメリーナにさえ高圧的な態度に出ていた。
「メリーナ殿下。彼らを早く追い出してくれませんか。これでは、いつまで経っても捜査が進みませんよ。そうなったら、困るのはあなたでしょ?」
スネイルがそう言った直後――。
シュンッ!
ソウデンが剣を抜き、スネイルの鼻先に突きつけていた。
「なっ……」
スネイルは大口を開け、全身を硬直させる。唇だけが、恐怖でわずかに震えていた。
その男に対して、ソウデンはドスを利かせた声で言う。
「調子に乗るなよ、貴族風情が」
「き、貴様……なんのつもりだ……」
スネイルは裏返った弱々しい声で、かろうじて言葉を紡いでいた。
一方、ソウデンの言葉は重く、すべての感情が削ぎ落とされていた。
「継王家に対する不敬は万死に値する」
「な……何を言う……私は<第一類貴族>だ。いわば準王族と言える身分だぞ……」
「だが、王族ではない。それが理解できないのなら、死んだほうがいい」
ソウデンは、さらに剣をスネイルの顔に近づける。もうほとんど、鼻に当たっているんじゃないかと思うほどだ。
「ヒッ……や、やめろ! わ、私には十三継王家がついてるんだぞ……!」
スネイルは裏返った声で必死に訴える。それでもソウデンは微動だにしない。スネイルの顔には、大量の汗が浮かんでいた。
さすがにまずいかと思い、俺は声をかける。
「ソウデン、もういい。引け」
「了解です」
ソウデンは一瞬で剣を鞘に収める。と、スネイルはその場にへたりこんだ。腰が抜けたみたいだ。
「貴様ら……こんなことをしてタダでは済まさんぞ」
ありきたりな悪態をつくスネイルに、俺は言ってやる。
「俺たちは引く。お前らで好きに調べればいい」
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