出会いは突然に〜愛人の行方〜

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1.出会い

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やっと仕事が終わった。



今日もうひと踏ん張りすれば、明日は待ちに待った休みだ。



でも……。



はぁ、もう来ているんだろうか。









山崎亜美は、アパートに帰るための最後の角を曲がるところで、ため息をついた。









先月、父と母が亡くなった。自動車事故だった。



対向車線から居眠り運転のトラックがはみ出したことによる、正面衝突。



その突然の死に、茫然自失のままお葬式を終えた。









四十九日が過ぎ、悲しみに浸る間もなく忙しい日々に追われていたある日、家に借金取りが現れた。



「お前の父親が、連帯保証人になっている」



そんな言葉とともに、見せつけられたのは2000万円の借用書だった。



父の友人は5000万円の借金を抱え、そのうち半分の2500万円を返していたものの、3か月前にとうとう行き詰まり失踪してしまったという。



父は亡くなるまでに500万円を返済しており、保険金で1000万円を返せる予定だが、まだ1000万円ほど残っている。



「残りはお前が全額支払え」



こうして、私は27歳にして、1000万円の借金を背負うことになったのである。









そんな出来事を思い返しながら歩いていると、あっという間にアパートが見えてきた。



敷地内に入った瞬間、急に腕を掴まれる。



「よう、今月分を返してもらおうか」



やはり、借金取りは待ち構えていた。



「ちょっと待っててください。部屋から取ってきます!」



怯えを隠しながらそう告げると、亜美はアパートの階段を駆け上がった。



今月の返済額は100万円。貯金を切り崩して何とか用意した。



アパートの部屋に入って、お金の入った封筒を手に取ると、借金取りのところへ戻った。



借金取りは封筒を受け取り、中身を確認すると、口元を歪めてにやりと笑いながら言った。



「足りないじゃないか。あと100万追加で払うように連絡したはずだろ?」



「なっ……! そんな話、聞いていません!」



「そうか? まぁどっちでもいい。今すぐ残りの100万を持ってこい。無理なら……風俗で稼いでくるか?」



そんなの頷けるわけがない。思わず反論しようとするが、そこで突然腕を掴まれる。



男の力には到底敵わず、強引に連れて行かれそうになったその時、視線の先に立っている一人の男性が目に入った。



「助けて!」



思わず叫ぶ。無視されるかもしれない、そんな不安もよぎったが、男性はすぐに駆けつけてくれた。



「なんだ、兄ちゃん。お前が代わりに払うつもりか? 1000万だぞ。関係ないなら失せろ」



男性は冷静な声で答えた。



「1000万だな。斎藤」



すると、横にいた別の男性が持っていたビジネスバッグから大きめの封筒を取り出し、借金取りに差し出した。



「ほら、1000万だ。受け取れ」



借金取りは一瞬驚いた様子を見せたが、金額を確認するとすぐに態度を変えた。



「……確かに受け取った。ほら、借用書だ。行くぞ」



借金取りが去っていくのを確認すると、思わず安堵の息をついた。



その時、助けてくれた男性が私に向き直り、手にした借用書を見ながら口を開いた。



「山崎と言うのか?」



「え、あ、はい。それより、助けていただいて本当にありがとうございます。でも、どうして助けてくださったんですか? それに、あのお金は……?」



その問いに、男性は少し笑って答えた。



「そんなことより。金を今すぐ返すか、俺の愛人になるか、どっちがいい?」



「はぁ?! 何言ってるんですか?」



思わず出た一言に、男は笑みを深くする。



「それはこっちのセリフだ。なんで赤の他人のお前に、無償で金を渡さなきゃならないんだ?」



「そ、それは……」



答えに詰まる私を見下ろし、男は満足げに微笑んだ。



「決まりだな。まずは引っ越すぞ」



「え?」



「すぐに出発だ。アパートは解約しろ」



「そ、そんな急に言われても困ります!」



更新はまだ先だし、途中解約の違約金もバカにならない。



私の抗議を無視するように、隣にいた秘書らしき男性が会話に割り込んだ。



「かしこまりました」



「いや、どうしてあなたが答えるんですか? 借主は私で……!」



困惑する私の横で、秘書が携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけ始めた。



「彼は斎藤、俺の秘書だ」



電話を終えた斎藤さんがこちらを振り向き、あっさりと告げる。



「解約の手続きは済みました。追って書類が届きます」



「な……」



あまりの急展開についていけない私をよそに、彼らは容赦なく話を進めていく。



「早く来い」



えぇ……!?



この状況、一体どうなってるの……!?



「荷物を取ってきます!」



急いでアパートの部屋へ向かうと、斎藤さんが後ろについてきた。



「最低限の荷物だけをご用意ください。後ほど、部下に残りの荷物を整理させます。ちなみに部下は女性なのでご安心ください。それから、鍵はお預かりしますね」



そう言って、斎藤さんは玄関先で後ろを向いたまま立ち、無言で待っていてくれた。



後ろを向くとか、意外と気が遣える人なんだな。









私は必要最低限の荷物だけを鞄に詰め込み、部屋を後にした。



男のもとに戻ると、すぐに車に乗せられた。



車は通勤途中に何度も目にしたことがある、豪華なマンションの前で止まった。



「家にあるものは自由に使っていい」



それだけ言い残すと、男は何の説明もなく足早にマンションから去っていった。



斎藤さんも、自分の連絡先を伝えるとすぐにその後を追っていく。









何とも心もとない状況で、私は一人取り残された。



これからどうなるんだろう……。



まだ実感はわかないけれど、今日からここが、私の住む場所なんだ。



……まずは部屋を見て回ろうかな。



部屋に置かれている家具の扉を次々に開けて中を確認していると、クローゼットの中に高そうな服がズラリとかけられているのを見つけた。



「これは……?」



驚きつつも、ふと思い出す。



そういえば、斎藤さんの連絡先を教えてもらってたんだった!



すぐに電話をかけてみる。



「もしもし、あの、斎藤さんですか? クローゼットに入ってた服なんですけど……」



「少々お待ちください。ただいまお電話を代わります」



少しの間、電話の向こうで何やら声が聞こえた後、男に電話が代わった。



「何の用だ?」



「あの……! クローゼットに入ってた服なんですけど……」



「それはお前の服だ」



「は?」



「欲しい服があるなら、今度買ってやる。それまでは、そこにある服で我慢しろ」



ちょっと待ってよ……。私の服って……?



鞄の中に持ってきた服があるから、それで十分なんだけど。



「頂けません」



はっきりと断ると、男は鼻で笑った。



「それなら捨てるしかないな。せっかく部下に買いに行かせたんだが、仕方ない」



「は?」



電話の向こうから、斎藤さんの声が聞こえてきた。



「かしこまりました」



はぁ⁈



「ちょっと待った!!」



慌てて声を上げる。捨てるなんて……この人たち、何を考えてるの?!



「何だ?」



「……捨てちゃうの?」



「あぁ。斎藤に後で取りに行かせる」



「……本気?」



「もちろんだ」



捨てるなんて、さすがにもったいないでしょ!!



「分かりました……頂きます、から!」



なんとか言葉を絞り出すように答えると、男は「そうか」とだけ言って電話を切った。



電話を切った後、喉が渇いていることに気づく。



冷蔵庫を開けてペットボトルの麦茶を取り出し、グラスに注ぐ。



一口飲むと、ひんやりとした冷たさが口から喉まで広がる。



よし、冷静になろう!



「……えっと。じゃあ、マンションの周りを散歩してみようかな。でも、あれ? ……鍵をもらってないよね。部屋にはなかったし……」



ふと気づき、もう一度電話して鍵について聞いてみようか悩む。



結局、斎藤さんも忙しそうだったし、今日はやめておくことにした。









することがなくなり、改めて漠然とした不安が胸をよぎる。



「はぁ……私、これからどうなるんだろう……」



疲れていたのだろう。今日の一連の出来事を思い返しているうちに、私はいつの間にか眠ってしまっていた。









翌朝、目覚めたときには不思議なくらいスッキリした気分だった。



悩んでいても仕方ない。今日はいつも通り、のんびりとした休日を過ごそう。



そう自分に言い聞かせると、わずかに残った不安が消え去るのを感じた。



部屋にはテレビも本もあるから、退屈することはないはずだ。









夜になると、テレビにもさすがに飽きてきた。



シャワーを浴び、早めにベッドに横になる。



仰向けになり、目を閉じると、ふと昨日のあの横暴な男の顔が浮かんできた。



何だったんだろう、あの人……。



考え込むうちに、再び意識が薄れていった。
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