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第五章~ジェイドの帰郷~
⑩
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客間にアイリスを寝かせたあと、ジェイドは扉の前に立ち、ひと息ついた。
酒のにおいと、場の熱気がまだ体に残っている。
肩を落として振り返ると、ベッドの上でアイリスが唸っていた。
「う~~~~~~~ん……頭痛い……」
「飲み過ぎだよ……」
ジェイドは苦笑して、傍らにあった水差しからコップに水を注ぎ、差し出した。
アイリスはぐいと飲んでから、じっと彼を見上げる。
「う~~~ん……あ、運んでくれたの……?」
「そこにガウン置いてあるから、あとで着替えて、さっさとおやすみ! 俺、行くからね」
そう言って踵を返そうとしたとき、呼び止める声がした。
「ねえ、ジェイド」
「うん?」
振り返ると、アイリスは少しだけ真面目な顔をしていた。
「ジェイド……今、いい人いる?」
「えっ!? 何、急に!」
思わず声が裏返った。けれど、アイリスはうつむいたまま、何も答えなかった。
ジェイドは首をかしげる。
「?」
そのまま少しの沈黙が流れ、アイリスがぽつりと口を開いた。
「……私、好きな人ができたの」
「へえ! そうなんだ」
ジェイドは素直に目を丸くして言った。
「……いい人なのよ。優しくて、笑った顔が可愛らしくて。今は、よく文通をしているの」
「きみにもいい人が……なんか感慨深いよ……ううっ」
「ちょっと、反応がなんかうざいんだけど!」
「いやだって、きみそういう気配なかったし」
アイリスは肩をすくめるようにして、息を吐いた。
そして、視線をジェイドから少しだけ外して、言った。
「……だって。……昔は、ジェイドのことが好きだったんだもん」
ジェイドは一瞬、言葉を失った。
「……へ?」
その声が間の抜けたものだったからか、アイリスは勢いよく言葉を重ねた。
「でも! あんたはほかの女の子と遊んでばっかりだし! 私だけなんか雑に扱って! せっかく婚姻の話ができて、飛び上がるくらいに嬉しかったのに、そしたらあんたは王都に行くとかいって、婚姻の話は破談になるし!」
「ご、ごめん……あの……きみに手を出さなかったのは、きみを傷つけたくなかったからで」
「じゃあ手を出したほかの女の子は傷つけてもよかったのかーーーー! ほんとにクズ!!!!!! クズ野郎!!!!!!!!!」
枕を手にしてぶんぶん振り回すアイリスに、ジェイドは両手を上げて叫んだ。
「はいクズですすみません!!!!!!!!!!」
そのやりとりのあと、少しの静けさが戻ってきた。
アイリスはしばらくうつむいていたが、ぽつりとこぼすように言った。
「私、悲しかったんだから……失恋するし……あんたは王都に行って会えなくなっちゃうし……」
「……ごめん」
ジェイドの声は、さっきよりずっと小さかった。
けれど、アイリスはふっと笑った。
「……でも、私のこと、大事にしてくれたんだね」
「幼馴染みだしね」
「……ふふん、私は私で幸せになるので! クズなあんたと結婚せずにすんでせいせいしたわ!」
「……はは、うん。幸せになってね」
「ありがとう」
二人の間に、ようやく過去の痛みを越えた、あたたかい空気が流れた。
そして、アイリスが目を細める。
「ジェイド……?」
その声に、ジェイドは静かにうなずいた。
「ねえ、アイリス」
そして、真っ直ぐに彼女を見つめて、口にした。
「……あのね。俺、今、好きな人がいるんだよ」
酒のにおいと、場の熱気がまだ体に残っている。
肩を落として振り返ると、ベッドの上でアイリスが唸っていた。
「う~~~~~~~ん……頭痛い……」
「飲み過ぎだよ……」
ジェイドは苦笑して、傍らにあった水差しからコップに水を注ぎ、差し出した。
アイリスはぐいと飲んでから、じっと彼を見上げる。
「う~~~ん……あ、運んでくれたの……?」
「そこにガウン置いてあるから、あとで着替えて、さっさとおやすみ! 俺、行くからね」
そう言って踵を返そうとしたとき、呼び止める声がした。
「ねえ、ジェイド」
「うん?」
振り返ると、アイリスは少しだけ真面目な顔をしていた。
「ジェイド……今、いい人いる?」
「えっ!? 何、急に!」
思わず声が裏返った。けれど、アイリスはうつむいたまま、何も答えなかった。
ジェイドは首をかしげる。
「?」
そのまま少しの沈黙が流れ、アイリスがぽつりと口を開いた。
「……私、好きな人ができたの」
「へえ! そうなんだ」
ジェイドは素直に目を丸くして言った。
「……いい人なのよ。優しくて、笑った顔が可愛らしくて。今は、よく文通をしているの」
「きみにもいい人が……なんか感慨深いよ……ううっ」
「ちょっと、反応がなんかうざいんだけど!」
「いやだって、きみそういう気配なかったし」
アイリスは肩をすくめるようにして、息を吐いた。
そして、視線をジェイドから少しだけ外して、言った。
「……だって。……昔は、ジェイドのことが好きだったんだもん」
ジェイドは一瞬、言葉を失った。
「……へ?」
その声が間の抜けたものだったからか、アイリスは勢いよく言葉を重ねた。
「でも! あんたはほかの女の子と遊んでばっかりだし! 私だけなんか雑に扱って! せっかく婚姻の話ができて、飛び上がるくらいに嬉しかったのに、そしたらあんたは王都に行くとかいって、婚姻の話は破談になるし!」
「ご、ごめん……あの……きみに手を出さなかったのは、きみを傷つけたくなかったからで」
「じゃあ手を出したほかの女の子は傷つけてもよかったのかーーーー! ほんとにクズ!!!!!! クズ野郎!!!!!!!!!」
枕を手にしてぶんぶん振り回すアイリスに、ジェイドは両手を上げて叫んだ。
「はいクズですすみません!!!!!!!!!!」
そのやりとりのあと、少しの静けさが戻ってきた。
アイリスはしばらくうつむいていたが、ぽつりとこぼすように言った。
「私、悲しかったんだから……失恋するし……あんたは王都に行って会えなくなっちゃうし……」
「……ごめん」
ジェイドの声は、さっきよりずっと小さかった。
けれど、アイリスはふっと笑った。
「……でも、私のこと、大事にしてくれたんだね」
「幼馴染みだしね」
「……ふふん、私は私で幸せになるので! クズなあんたと結婚せずにすんでせいせいしたわ!」
「……はは、うん。幸せになってね」
「ありがとう」
二人の間に、ようやく過去の痛みを越えた、あたたかい空気が流れた。
そして、アイリスが目を細める。
「ジェイド……?」
その声に、ジェイドは静かにうなずいた。
「ねえ、アイリス」
そして、真っ直ぐに彼女を見つめて、口にした。
「……あのね。俺、今、好きな人がいるんだよ」
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