魔法使いの先生~あの師弟、恋人ってウワサです!~

もにもに子

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第五章~ジェイドの帰郷~

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客間にアイリスを寝かせたあと、ジェイドは扉の前に立ち、ひと息ついた。

 酒のにおいと、場の熱気がまだ体に残っている。
肩を落として振り返ると、ベッドの上でアイリスが唸っていた。

「う~~~~~~~ん……頭痛い……」

「飲み過ぎだよ……」

ジェイドは苦笑して、傍らにあった水差しからコップに水を注ぎ、差し出した。

アイリスはぐいと飲んでから、じっと彼を見上げる。

「う~~~ん……あ、運んでくれたの……?」

「そこにガウン置いてあるから、あとで着替えて、さっさとおやすみ! 俺、行くからね」

そう言って踵を返そうとしたとき、呼び止める声がした。

「ねえ、ジェイド」

「うん?」

振り返ると、アイリスは少しだけ真面目な顔をしていた。

「ジェイド……今、いい人いる?」

「えっ!? 何、急に!」

思わず声が裏返った。けれど、アイリスはうつむいたまま、何も答えなかった。
 
ジェイドは首をかしげる。

「?」

そのまま少しの沈黙が流れ、アイリスがぽつりと口を開いた。

「……私、好きな人ができたの」

「へえ! そうなんだ」
 
ジェイドは素直に目を丸くして言った。

「……いい人なのよ。優しくて、笑った顔が可愛らしくて。今は、よく文通をしているの」

「きみにもいい人が……なんか感慨深いよ……ううっ」

「ちょっと、反応がなんかうざいんだけど!」

「いやだって、きみそういう気配なかったし」

アイリスは肩をすくめるようにして、息を吐いた。
 
そして、視線をジェイドから少しだけ外して、言った。

「……だって。……昔は、ジェイドのことが好きだったんだもん」

ジェイドは一瞬、言葉を失った。

「……へ?」

その声が間の抜けたものだったからか、アイリスは勢いよく言葉を重ねた。

「でも! あんたはほかの女の子と遊んでばっかりだし! 私だけなんか雑に扱って! せっかく婚姻の話ができて、飛び上がるくらいに嬉しかったのに、そしたらあんたは王都に行くとかいって、婚姻の話は破談になるし!」

「ご、ごめん……あの……きみに手を出さなかったのは、きみを傷つけたくなかったからで」

「じゃあ手を出したほかの女の子は傷つけてもよかったのかーーーー! ほんとにクズ!!!!!! クズ野郎!!!!!!!!!」
 
枕を手にしてぶんぶん振り回すアイリスに、ジェイドは両手を上げて叫んだ。

「はいクズですすみません!!!!!!!!!!」

そのやりとりのあと、少しの静けさが戻ってきた。
 
アイリスはしばらくうつむいていたが、ぽつりとこぼすように言った。

「私、悲しかったんだから……失恋するし……あんたは王都に行って会えなくなっちゃうし……」

「……ごめん」
 
ジェイドの声は、さっきよりずっと小さかった。

けれど、アイリスはふっと笑った。

「……でも、私のこと、大事にしてくれたんだね」

「幼馴染みだしね」

「……ふふん、私は私で幸せになるので! クズなあんたと結婚せずにすんでせいせいしたわ!」

「……はは、うん。幸せになってね」

「ありがとう」

二人の間に、ようやく過去の痛みを越えた、あたたかい空気が流れた。
 
そして、アイリスが目を細める。

「ジェイド……?」

その声に、ジェイドは静かにうなずいた。

「ねえ、アイリス」

そして、真っ直ぐに彼女を見つめて、口にした。

「……あのね。俺、今、好きな人がいるんだよ」
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