シェアハウスの片隅で~無口な同居人と恋をしてみた~

もにもに子

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玄関の扉を閉めると、家の中は外よりもいくらか涼しく静かだった。
二人で靴を脱ぎ、買い物袋を台所へ運ぶ。
袋をテーブルに置くと、篤が自然に冷蔵庫の扉を開け、卵をしまい始めた。

「じゃあ、鶏肉切りますね」

悠人がまな板を取り出し、鶏むね肉に包丁を入れる。
篤は横に立ち、生姜とネギを流しに並べ、迷いなく手を伸ばした。

「ネギ、俺がやる」
「お願いします」

その手際の良さは意外で、悠人は内心で驚いた。
篤は寡黙なまま包丁を走らせ、ネギを小口に、そして生姜を細かく刻む。
台所に響くトントンという音は、妙に心地よく感じられた。
二人で並んで調理する姿は自然で、言葉を交わさずとも呼吸が合っていく。

その様子を、廊下から覗いていた二つの影があった。
祐介と翔だ。
祐介は目を丸くして小声を漏らす。

「……あの篤が、悠人と一緒に料理してる」

「夢でも見てるんじゃないのか」

翔も熱の残る顔で布団から上体を起こし、半ば呆然とした表情を浮かべていた。

鍋に鶏肉と生姜を入れ、火をかけると、ふわりと温かな香りが立ちのぼる。
篤はじっと鍋を見つめ、その匂いを吸い込みながら小さく呟いた。

「……いい匂いだな」

悠人は頷き、米を研いで鍋に加える。
ことことと煮込む音に、二人の間の沈黙も柔らかく溶けていった。

やがて雑炊が出来上がり、溶き卵を流し込むと、鍋の中で黄色い花が広がった。
篤がネギを散らすと、仕上げの彩りが加わる。

「完成、ですね」

「……ああ」

器を並べていると、祐介がキッチンに入ってきて目を丸くした。

「マジで二人で作ったのか」

「うん」

悠人は少し照れくさそうに笑う。
篤は何も言わず、ただ器をテーブルへ運んでいった。

リビングに四人が揃い、湯気の立つ雑炊を前に座る。
祐介は箸を手にしながら、信じられないといった顔で篤を見た。

「篤、お前が誰かと一緒に台所に立つなんて初めて見たぞ」

「……別に」

短い答えだったが、その口元はわずかにほころんでいた。

寝込んでいた翔も、布団から抜け出して席に着いた。
顔色はまだ完全ではないが、湯気に誘われて自然と笑みを浮かべる。

「本当にありがとう。なんか、シェアハウスに住んでいてよかった」

「元気になってくれてよかったです」

悠人が答えると、篤も小さく頷いた。

スプーンを口に運べば、生姜の香りと鶏肉の旨味が広がり、体の芯から温まっていく。
翔は「うまい」と呟きながら二口、三口と食べ、祐介も黙って夢中で食べていた。

「篤、料理上手だったんだな」

「……まあ」

祐介の言葉に、篤は少し目を伏せ、照れくさそうに雑炊をすくった。

卓を囲む空気は温かく、笑い声が絶えない。
外の夕暮れが夜に変わりつつあることも気にならないほど、部屋の中にはぬくもりが満ちていた。
悠人はその光景を眺めながら、心の中で静かに思った。

――篤さんがこんな風にみんなと一緒にいるのは、もしかしたら初めてなんじゃないか。

ほんの小さなきっかけだった。
けれど、今日の買い物と料理は確かに彼を動かした。
その変化を傍らで見られたことが、悠人には何より嬉しかった。
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