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⑱
風呂場から階段を上がってくる足音がした。
リビングにいた悠人は、思わずそちらを見やる。
そして、息を呑んだ。
篤が姿を現したのだ。
肩にバスタオルをかけ、上半身は裸のまま。
濡れた黒髪から滴る雫が首筋を伝い、胸元で小さく光を弾いている。
鍛え上げたというほどではないが、余計な脂肪のない均整の取れた体つき。
腕や胸板に自然に刻まれた線が、彼の無駄のない生活を物語っていた。
「……っ」
悠人の喉がひとりでに鳴った。
胸が高鳴り、手に持っていたマグカップを思わず握りしめる。
翔はクッションを抱えたままテレビに視線を戻し、祐介はテーブルに肘をつきながら雑誌をめくっている。
まるで篤のその姿は「いつものこと」であるかのように、日常の風景に溶け込んでいた。
……当然だけど。
実際のところ、ただの日常だ。
その無防備な姿を、悠人だけがまともに直視できなかった。
胸の奥がざわつき、心臓の鼓動が速すぎる。
――なんで、俺だけ。
他の二人は全然気にしてないのに、どうして自分だけがこんなに動揺しているのだろう。
タオルが篤の髪を乱暴に拭うたび、首筋に滴る水が光る。
肩から腕へと流れ落ちる雫を、悠人の視線は追ってしまう。
それに気づいた瞬間、顔が熱くなり、慌てて目を逸らした。
マグカップに視線を落とし、湯気の向こうで必死に呼吸を整える。
けれど、耳は敏感に篤の動きを拾ってしまう。
タオルを絞る音、濡れた髪をくしゃりと掻き上げる音。
それら全てが、妙に意識にこびりつく。
「悠人、どうした?」
祐介が何気なく声をかけてきた。
「え、いや……なんでもない」
慌てて答える。
自分だけがこんなに落ち着きを失っていることに、さらに焦りが増した。
視線を横にやると、篤と目が合った。
彼は変わらず淡々とした顔でこちらを見ていた。
だが、その瞳が前髪に隠れていないせいか、妙に鋭さと深さを増しているように思えた。
――やばい。
心の奥で小さく叫び、慌てて目を逸らす。
「……髪、切ったんだね」
声が喉から勝手に漏れた。
篤は一瞬こちらを見て、短く頷いた。
「……ああ」
その瞳にまっすぐ射抜かれ、悠人は再び心臓を掴まれたように動けなくなった。
ソファに座る篤は、いつも通り静かにタオルで髪を拭くだけ。
けれど、悠人の心は静まるどころか波打ち続けていた。
――俺、ほんとにどうしちゃったんだ。
視線を逸らしても、耳を塞いでも、彼の存在が全身を支配する。
胸の中に芽生えた熱は、もう誤魔化しようがなかった。
リビングにいた悠人は、思わずそちらを見やる。
そして、息を呑んだ。
篤が姿を現したのだ。
肩にバスタオルをかけ、上半身は裸のまま。
濡れた黒髪から滴る雫が首筋を伝い、胸元で小さく光を弾いている。
鍛え上げたというほどではないが、余計な脂肪のない均整の取れた体つき。
腕や胸板に自然に刻まれた線が、彼の無駄のない生活を物語っていた。
「……っ」
悠人の喉がひとりでに鳴った。
胸が高鳴り、手に持っていたマグカップを思わず握りしめる。
翔はクッションを抱えたままテレビに視線を戻し、祐介はテーブルに肘をつきながら雑誌をめくっている。
まるで篤のその姿は「いつものこと」であるかのように、日常の風景に溶け込んでいた。
……当然だけど。
実際のところ、ただの日常だ。
その無防備な姿を、悠人だけがまともに直視できなかった。
胸の奥がざわつき、心臓の鼓動が速すぎる。
――なんで、俺だけ。
他の二人は全然気にしてないのに、どうして自分だけがこんなに動揺しているのだろう。
タオルが篤の髪を乱暴に拭うたび、首筋に滴る水が光る。
肩から腕へと流れ落ちる雫を、悠人の視線は追ってしまう。
それに気づいた瞬間、顔が熱くなり、慌てて目を逸らした。
マグカップに視線を落とし、湯気の向こうで必死に呼吸を整える。
けれど、耳は敏感に篤の動きを拾ってしまう。
タオルを絞る音、濡れた髪をくしゃりと掻き上げる音。
それら全てが、妙に意識にこびりつく。
「悠人、どうした?」
祐介が何気なく声をかけてきた。
「え、いや……なんでもない」
慌てて答える。
自分だけがこんなに落ち着きを失っていることに、さらに焦りが増した。
視線を横にやると、篤と目が合った。
彼は変わらず淡々とした顔でこちらを見ていた。
だが、その瞳が前髪に隠れていないせいか、妙に鋭さと深さを増しているように思えた。
――やばい。
心の奥で小さく叫び、慌てて目を逸らす。
「……髪、切ったんだね」
声が喉から勝手に漏れた。
篤は一瞬こちらを見て、短く頷いた。
「……ああ」
その瞳にまっすぐ射抜かれ、悠人は再び心臓を掴まれたように動けなくなった。
ソファに座る篤は、いつも通り静かにタオルで髪を拭くだけ。
けれど、悠人の心は静まるどころか波打ち続けていた。
――俺、ほんとにどうしちゃったんだ。
視線を逸らしても、耳を塞いでも、彼の存在が全身を支配する。
胸の中に芽生えた熱は、もう誤魔化しようがなかった。
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