シェアハウスの片隅で~無口な同居人と恋をしてみた~

もにもに子

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一週間ほど経っても、あの日の篤の言葉が頭から離れなかった。

――俺は……おまえのことが好きだ。

リビングで、不意に告げられた一言。
その後に翔が入ってきて、何事もなかったかのように篤が平然としていたせいで、余計に真意が掴めなくなった。

あれはどういう意味?

仕事中も、電車に揺られているときも、ふとした瞬間に思い出してしまう。
そのたび胸が高鳴り、落ち着かなくなる。

その日も、残業を終えてようやく駅に着いたのは夜八時を過ぎていた。
改札を抜けた瞬間、外の景色に思わず呻く。
ざあざあと音を立てて、雨が降りしきっていた。
空気は湿って冷たく、駅前のアーケードには傘を広げた人々が溢れている。

「うわ……やっちゃったな」

悠人は小さく呟いた。
朝は晴れていたから傘を持ってこなかったのだ。
立ち尽くす人の群れに混じり、途方に暮れる。
コンビニでビニール傘を買うしかないか、と考えたときだった。

人波の向こうに、見慣れた背の高い影が見えた。
傘を片手に、静かに歩いてくる男。
篤だった。

「あ」

思わず声が漏れる。
篤もこちらに気づき、足を止めた。
雨音に包まれる駅前で、互いに小さく「あ」と声を重ねる。

ほんの一瞬、妙な気まずさが漂う。
けれど篤は何も言わず、傘をこちらに差し出した。
その仕草は前と同じ。
あのときも、こうして傘を差し出してきた。

――けれども。

篤は短く「入れ」とだけ言った。

あのときは、傘を渡してきて自分は濡れて帰ろうとしていたのに。
あたりまえのように、一緒の傘で帰ろうとしてくれている。

その傘の中に身を寄せる。
雨の冷たさから解放され、ふわりと漂う柔軟剤の香りが鼻先をかすめた。
距離が近い。
肩が触れそうで触れない微妙な間合い。
鼓動が急に大きくなり、雨音よりもはっきりと耳に届く気がした。

「……なんか、前にもこんなことありましたよね」

悠人が苦笑交じりに言うと、篤はちらりと視線を向ける。

「そうだったな」

短く答える声は落ち着いている。
だが、その瞳の奥にほんの僅かな柔らかさが見えた気がして、悠人の胸はさらに熱くなった。

駅前の喧騒の中で、二人だけの空間が生まれていた。
一本の傘に並んで立つという、ただそれだけのことなのに。
悠人はまたも、自分だけが特別な時間に取り残されたような感覚を覚えていた。

――また、同じだ。

あのときも心臓が跳ねて仕方なかった。
そして今も。

篤の告白の真意はまだわからない。
でも、こうして隣にいると、その答えがどちらであれもう抗えないような気がしていた。
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