シェアハウスの片隅で~無口な同居人と恋をしてみた~

もにもに子

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篤はしばらく何も言わなかった。
悠人の投げやりな言葉を受け止めるでもなく、ただじっと見ている。
その沈黙が怖くて、悠人は思わず目を逸らし、シーツをぎゅっと握りしめた。
――なにやってるんだ、俺。
恥ずかしさに耐えきれず俯いていると、不意にベッドが沈む。

篤が隣に腰を下ろしたのだ。
すぐそばに感じる体温と重み。
気配が近すぎて、悠人の喉はひゅっと詰まった。

「……っ」

声にならない息を飲み込んだ瞬間、篤の影が迫る。
気づけば距離はゼロで、唇が触れ合っていた。
それは淡々としていながらも迷いのない、自然なキスだった。

熱が一気に顔へとのぼる。
心臓が乱打のように鳴り、全身の神経がその一点に集中していく。
短い時間だったのに、息が詰まりそうになる。

離れた篤が低く呟いた。

「……変な気分だ」

「へ、変な気分って……なに、それ……!」

悠人は慌てて声を上げる。
頬は真っ赤に染まり、胸は苦しいほどに高鳴っている。

「自分からキスしておいて……変な気分って、どういう……」

篤はほんの少しだけ視線を伏せ、言葉を選ぶように続けた。

「……飛びつきたくなるような衝動が、胸の中にあふれている」

悠人は息を呑んだ。
理解が追いつかず、頭の中が真っ白になる。
口を開いても言葉が出ず、ただぱくぱくと魚のように動くだけだった。

「嫌か」

落ち着いた声が耳に届く。
その声音は驚くほど静かで、逃げ場を失わせる。

「……いやじゃ、ないけど……」

掠れた声でやっと答えると、篤の瞳にわずかな光が差した。
そのまままた顔を寄せ、悠人の頭に手を添えて何度も口づけてくる。

「ん……っ」

声が漏れそうになり、悠人は必死に耐える。
だが繰り返されるキスに、身体は熱に溶かされるようだった。
指先が震え、ベッドシーツを必死に掴む。

篤の手が肩に置かれ、軽く押される。
抵抗する間もなく背中がベッドに沈み込み、自然と押し倒された形になる。

「ちょ、ちょっと……待って……!」

悠人は慌てて篤の胸を押した。
息が乱れ、頭が回らない。

「こ、ここじゃ……! 他の部屋に聞こえちゃう!」

篤は動きを止めた。
目を細め、静かに問い返す。

「……聞こえなければいいのか」

「そ、そうじゃなくて……!」

悠人は顔を真っ赤にして叫ぶ。
心臓はとっくに限界を越え、恥ずかしさでどうにかなりそうだった。

篤は一瞬だけ黙り、それからふっと笑った。
その笑みは珍しく柔らかで、どこか楽しげでもある。

「……変なの」

「な、なにが……」

「すっごく、可愛いって思ってる」

その言葉に、悠人の頭は完全に真っ白になった。
胸の奥で爆発するような熱と鼓動。
恥ずかしさに押し潰されそうになりながら、ただ呆然と口をぱくぱく動かすしかなかった。
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