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第4章 人魚の弔鐘
4-12.深海に沈む罠
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安藤の指令船が、牙を剥く獣のように岩陰へ滑り込み、水中トンネルの出口を視界に捉えた。
船底のハッチが音もなく開き、16機の水中ドローンが、10メートル四方の巨大な透明アクリル板を曳航して深淵へと降下していく。
それは、逃亡者を絶望の淵へと追い込む、目に見えない死の境界線(デッドライン)だった。
計画は冷酷を極める。
封鎖された出口に突き当たり、酸素と理性を失って引き返してきたサラを、入口で待ち構えるエリザベスが捕獲する。
極限深度での格闘、そして頸動脈を断つ無慈悲な脚技。
それはサラを失神させるための儀式だが、同時に、仕掛ける側の命をも削る、死神とのダンスだった。
エリザベスは、安藤の眼光の奥に潜む「放棄」の意図を察していた。
「捨て駒ね……」
唇が自嘲気味に歪む。
彼女は作戦開始前、トイレに隠れて安藤への定時連絡を済ませると、密かに持ち込んだ小型高濃度酸素缶を喉の奥まで突き刺した。
肺胞の隅々にまで酸素を叩き込む。それはサラを仕留めるためのアドバンテージであると同時に、自分を使い捨てようとする飼い主への、静かな反逆の咆哮でもあった。
午前10時10分。
運命の秒針が重なった。
モーターボートの縁を蹴り、サラが蒼い鏡面を切り裂いて飛び込んだ。
日課であるはずの潜水。
しかし、今日の水はいつもより重く、静謐だった。
サラの四肢がしなやかに水を捉える。
広背筋は水圧を押し返すように波打ち、大腿部の筋肉は強靭なバネとなって彼女を暗黒の深淵へと加速させていく。
皮膚の下で躍動する筋肉の筋(すじ)は、計算し尽くされた機械のような機能美を湛えていた。
何も知らない。
行く先に待ち構える「透明な壁」も、背後に迫る「裏切りの刺客」も。
サラは一条の光に導かれるように、死の横穴(トラップ)へとその美しい身を投じた。
そのわずか数秒後、エリザベスもまた、獲物を追う冷徹な影となって潜行を開始した。
船底のハッチが音もなく開き、16機の水中ドローンが、10メートル四方の巨大な透明アクリル板を曳航して深淵へと降下していく。
それは、逃亡者を絶望の淵へと追い込む、目に見えない死の境界線(デッドライン)だった。
計画は冷酷を極める。
封鎖された出口に突き当たり、酸素と理性を失って引き返してきたサラを、入口で待ち構えるエリザベスが捕獲する。
極限深度での格闘、そして頸動脈を断つ無慈悲な脚技。
それはサラを失神させるための儀式だが、同時に、仕掛ける側の命をも削る、死神とのダンスだった。
エリザベスは、安藤の眼光の奥に潜む「放棄」の意図を察していた。
「捨て駒ね……」
唇が自嘲気味に歪む。
彼女は作戦開始前、トイレに隠れて安藤への定時連絡を済ませると、密かに持ち込んだ小型高濃度酸素缶を喉の奥まで突き刺した。
肺胞の隅々にまで酸素を叩き込む。それはサラを仕留めるためのアドバンテージであると同時に、自分を使い捨てようとする飼い主への、静かな反逆の咆哮でもあった。
午前10時10分。
運命の秒針が重なった。
モーターボートの縁を蹴り、サラが蒼い鏡面を切り裂いて飛び込んだ。
日課であるはずの潜水。
しかし、今日の水はいつもより重く、静謐だった。
サラの四肢がしなやかに水を捉える。
広背筋は水圧を押し返すように波打ち、大腿部の筋肉は強靭なバネとなって彼女を暗黒の深淵へと加速させていく。
皮膚の下で躍動する筋肉の筋(すじ)は、計算し尽くされた機械のような機能美を湛えていた。
何も知らない。
行く先に待ち構える「透明な壁」も、背後に迫る「裏切りの刺客」も。
サラは一条の光に導かれるように、死の横穴(トラップ)へとその美しい身を投じた。
そのわずか数秒後、エリザベスもまた、獲物を追う冷徹な影となって潜行を開始した。
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