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第4章 人魚の弔鐘
4-15.偽の死(フェイクデス)
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エリザベスの泣き声がこだまする海。
その直後、エリザベスの背後から、水しぶきの音と共に、聞き慣れた、鈴を転がすような笑い声が届いた。
「ふぅ……、あら、わたしが死んだと思って泣いてくれてるの?」
振り返ると、そこには黒崎のモーターボートの梯子に全裸で腰掛け、濡れた金髪をかき上げる満面の笑みのサラがいた。
――前日の夜。
ヘンリー・西谷による**「ホワイトキャット本社」**へのハッキングは、単なるデータ奪取の域を超えていた。
伝説のハッカーである彼は、安藤のプライベートサーバーを蹂躙し、そこにある「サラ抹殺計画」の全容のみならず、エリザベスの私用タブレットにまで深く侵入していたのだ。
黒崎のもとにヘンリーから届いたログには、安藤への殺害報告案と共に、サラとエリザベスの生々しいメールのやり取りが残されていた。
サラ:『エドワード(黒崎)が潜水後、肩で息をぜいぜいして、体力がすぐに回復しないの。年齢のせいかな』
エリ:『それなら、酸素缶で酸素を補給してあげれば、すぐに体力も回復するよ』
サラは黒崎のために、言われた通り、酸素缶を5本購入した。
エリザベスは昨晩、テーブルに無造作に置かれた酸素缶のうちの1本をトイレの棚に隠した。
安藤に見捨てられた際、自分だけが生き残るための「保険」として――。
午前10時。
トイレの中から安藤へ「移動開始」を報告したエリザベスは、隠していた酸素缶の空気を限界まで肺に流し込み、桟橋へと向かった。
だが、黒崎はすべてを見抜いていた。
テーブルの酸素缶が1本減り4本になっていたからだ。そのとき、瞬時に計画の全貌を悟る。
そして、先ほど、彼は桟橋にいるサラを呼び戻し、家の中で、エリザベスの見えないところで、特製の高濃度酸素缶からたっぷりと空気を吸わせた。
サラはこの危機を前日に黒崎からの情報で知っていた。朝から「具合が悪いフリ」をしていたのは、水中で失神を装っても、安藤やエリザベスに怪しまれないための完璧な演技だったのだ。
水深60メートル、水中トンネル。
出口を塞ぐ10メートル四方の透明なアクリル板。裏切りの決意を固めたエリザベスが指し示した「斜め上」の退路。
しかし、そこでサラは計画通りに失神を演じ、股を開き、局部を全開にした無防備な姿で深海90メートルへと沈んでいった。
必死にサラの脚を掴み、共に沈みゆくエリザベス。
彼女の肺を支えていた酸素も尽きかけ、死を覚悟した瞬間、黒崎が現れた。
黒崎は、昔から「ズル」を嫌い、酸素缶もフィンも毛嫌いしていた。
だが今回は違った。エリザベスを救うため、自らも酸素缶を使い、マスクとフィンを装着して深淵に降り立ったのだ。
彼はエリザベスをサラから引き剥がし、彼女だけを抱いて強引に浮上を開始した。
一方、深海へ沈んだサラは、海底付近で意識を「覚醒」させた。
彼女は、黒崎がエリザベスを救出し、自分を見捨てて浮上する姿を底から見届けた。
それこそが、安藤の監視ドローンに「サラ死亡」を確信させるために必要な演技だった。
サラを驚きの表情で見つめるエリザベスの背後では、既に警察の巡視船が安藤の指令船を包囲していた。
ヘンリーが特定した水中ドローンの通信記録、そして殺害を指示するログ。
ホワイトキャット本社から押収されたデータにより、安藤は殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。
「ねえねえ、死んだと思った?私のこと」
「……え……!? 14分も経つのに、どうして……」
黒崎が静かに告げた。
「種明かしは酸素缶だ。俺はズルが嫌いだが、1人を救い出し、悪党を欺くため、今回は全員で使わせてもらった」
潜水時間はそれぞれ、
・サラ:14分06秒
・エリザベス:10分25秒
・黒崎:6分43秒
すべては「酸素缶」という文明の利器を戦略的に利用した参考記録。
サラは海底で2人の浮上を見送った後、反転し、自らの脚で水面まで泳ぎ切ったのだ。
サラは全裸のままボートの上でエリザベスを抱きしめた。
「最後、私を助けようとしてあっち(退路)を指差したわね。そのあとも、自分が死ぬのを恐れず、海底に沈む私の脚を必死に掴んで・・・嬉しかった、ほんとにありがとう。合格よ、エリザベス。これで私たちは本当の共犯者ね」
エリザベスはサラの肌の温もりを感じながら、再び号泣した。
都会の女王と深海の女王、そして彼女たちを支配し守り抜いた1人の男。
3人の絆は、誰にも壊せないほど強固なものとなっていた。
その直後、エリザベスの背後から、水しぶきの音と共に、聞き慣れた、鈴を転がすような笑い声が届いた。
「ふぅ……、あら、わたしが死んだと思って泣いてくれてるの?」
振り返ると、そこには黒崎のモーターボートの梯子に全裸で腰掛け、濡れた金髪をかき上げる満面の笑みのサラがいた。
――前日の夜。
ヘンリー・西谷による**「ホワイトキャット本社」**へのハッキングは、単なるデータ奪取の域を超えていた。
伝説のハッカーである彼は、安藤のプライベートサーバーを蹂躙し、そこにある「サラ抹殺計画」の全容のみならず、エリザベスの私用タブレットにまで深く侵入していたのだ。
黒崎のもとにヘンリーから届いたログには、安藤への殺害報告案と共に、サラとエリザベスの生々しいメールのやり取りが残されていた。
サラ:『エドワード(黒崎)が潜水後、肩で息をぜいぜいして、体力がすぐに回復しないの。年齢のせいかな』
エリ:『それなら、酸素缶で酸素を補給してあげれば、すぐに体力も回復するよ』
サラは黒崎のために、言われた通り、酸素缶を5本購入した。
エリザベスは昨晩、テーブルに無造作に置かれた酸素缶のうちの1本をトイレの棚に隠した。
安藤に見捨てられた際、自分だけが生き残るための「保険」として――。
午前10時。
トイレの中から安藤へ「移動開始」を報告したエリザベスは、隠していた酸素缶の空気を限界まで肺に流し込み、桟橋へと向かった。
だが、黒崎はすべてを見抜いていた。
テーブルの酸素缶が1本減り4本になっていたからだ。そのとき、瞬時に計画の全貌を悟る。
そして、先ほど、彼は桟橋にいるサラを呼び戻し、家の中で、エリザベスの見えないところで、特製の高濃度酸素缶からたっぷりと空気を吸わせた。
サラはこの危機を前日に黒崎からの情報で知っていた。朝から「具合が悪いフリ」をしていたのは、水中で失神を装っても、安藤やエリザベスに怪しまれないための完璧な演技だったのだ。
水深60メートル、水中トンネル。
出口を塞ぐ10メートル四方の透明なアクリル板。裏切りの決意を固めたエリザベスが指し示した「斜め上」の退路。
しかし、そこでサラは計画通りに失神を演じ、股を開き、局部を全開にした無防備な姿で深海90メートルへと沈んでいった。
必死にサラの脚を掴み、共に沈みゆくエリザベス。
彼女の肺を支えていた酸素も尽きかけ、死を覚悟した瞬間、黒崎が現れた。
黒崎は、昔から「ズル」を嫌い、酸素缶もフィンも毛嫌いしていた。
だが今回は違った。エリザベスを救うため、自らも酸素缶を使い、マスクとフィンを装着して深淵に降り立ったのだ。
彼はエリザベスをサラから引き剥がし、彼女だけを抱いて強引に浮上を開始した。
一方、深海へ沈んだサラは、海底付近で意識を「覚醒」させた。
彼女は、黒崎がエリザベスを救出し、自分を見捨てて浮上する姿を底から見届けた。
それこそが、安藤の監視ドローンに「サラ死亡」を確信させるために必要な演技だった。
サラを驚きの表情で見つめるエリザベスの背後では、既に警察の巡視船が安藤の指令船を包囲していた。
ヘンリーが特定した水中ドローンの通信記録、そして殺害を指示するログ。
ホワイトキャット本社から押収されたデータにより、安藤は殺人未遂容疑で現行犯逮捕された。
「ねえねえ、死んだと思った?私のこと」
「……え……!? 14分も経つのに、どうして……」
黒崎が静かに告げた。
「種明かしは酸素缶だ。俺はズルが嫌いだが、1人を救い出し、悪党を欺くため、今回は全員で使わせてもらった」
潜水時間はそれぞれ、
・サラ:14分06秒
・エリザベス:10分25秒
・黒崎:6分43秒
すべては「酸素缶」という文明の利器を戦略的に利用した参考記録。
サラは海底で2人の浮上を見送った後、反転し、自らの脚で水面まで泳ぎ切ったのだ。
サラは全裸のままボートの上でエリザベスを抱きしめた。
「最後、私を助けようとしてあっち(退路)を指差したわね。そのあとも、自分が死ぬのを恐れず、海底に沈む私の脚を必死に掴んで・・・嬉しかった、ほんとにありがとう。合格よ、エリザベス。これで私たちは本当の共犯者ね」
エリザベスはサラの肌の温もりを感じながら、再び号泣した。
都会の女王と深海の女王、そして彼女たちを支配し守り抜いた1人の男。
3人の絆は、誰にも壊せないほど強固なものとなっていた。
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