「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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第5章 緋色の龍宮(饗宴)

5-8.狂気の1ダイブ1億円

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「あ、そうだ。ここへ来る前に、この島に住んでいる優秀なシステムエンジニアの方に、このプロジェクトを手伝ってもらうようお願いしてきました。たしか、黒崎さんとは仲良しでしたよね?」

リーは思い出したように艶やかな声を響かせた。黒崎は、彼女の足元で鋭い光を放つ赤いハイヒールを凝視したまま、短く答える。

「ヘンリーか……。あいつに『龍宮』のセキュリティと、映像の著作権を永久に守るシステムを構築させるつもりだな」

「話が早くて助かります、代表。先行調査のダイバーも入れますわ。サラ様にも現場の味見をしてもらわないと」

リーは組んでいた足をゆっくりと解き、黒崎の方へわずかに身を乗り出した。赤の超ミニワンピースの胸元が大胆に開き、彼女の自信に満ちた鼓動が、薄い布地を押し上げている。彼女は手元のタブレットを黒崎に向け、冷徹な数字を提示した。

「予約システムと収益配分のスキームですわ。メニューは『サラ様指名』の一択。価格は1時間につき一律1億円。これ以外の選択肢は作りません。そして、サラ様が対応した場合の報酬ですが、収益の20%を彼女自身の取り分として配分します。1時間泳ぐだけで、彼女の手元には2,000万円が転がり込む……。悪くないプレゼントでしょう?」

黒崎はわずかに眉を動かした。

「……1時間で1億だと? 暴論だな。いくら世界中の富豪が相手とはいえ、これでは客の期待値が跳ね上がる。それに、指名が集中すれば、今の彼女の体力と精神状態では到底捌ききれん。彼女を壊すつもりか。その設定は認められない」

黒崎の拒絶は即座だった。サラを商品として扱うことに同意したとはいえ、彼女を疲弊させ、命を削るような真似は断じて許さない。
しかし、リーは黒崎の怒りを見透かしたように、真っ赤な唇を艶やかに吊り上げて笑った。

「代表、落ち着いて。私がそんな無策な提案をすると思います? ちゃんと解決策はありますわ。……私とサラ様、背格好は似たようなものですわよね。私の方が数センチ高いけれど、水中でつま先まで意識を伸ばせば、その程度の差は誤差にすぎない」

リーは自分の長い脚を指先でゆっくりとなぞり、挑発的に黒崎を見つめた。

「体型だって、見なさいな、このライン。……髪は私が金髪に染めるか、最高級のウィッグをつけましょう。マスクもゴーグルも、フィンもつけない。何も纏わない剥き出しの身体で、私がサラ様の替え玉として泳ぐのです。先週、私の泳ぎをご覧になったでしょう? 異次元だと仰ってくださった。私の肺と筋力なら、視界の歪む水中で、サラ様と遜色ないパフォーマンスを客に見せつけられますわ」

黒崎の脳裏に、先日目撃したリーの潜水が蘇る。
深海60メートルにある水中トンネルをサラと同じスピードで泳ぎ切った彼女の姿は、確かにサラに匹敵する「魔性」を帯びていた。

「……そんな詐欺のような真似、バレたらどうするつもりだ。1億を払うような連中は、女の肢体を見分けることに関しては病的なまでに執拗だぞ。素顔を晒して泳ぐなら、なおさらだ」

黒崎の呆れたような問いに、リーは喉を鳴らして笑い、さらに声を落として囁いた。

「もしバレたら? その時は、私がサービスで『挿入』を解禁して差し上げますわ。赤龍のトップを全裸にし、深海で好き放題に扱える……。そんな特権を餌に口を封じれば、彼らはむしろ喜んで秘密を共有する共犯者になる。バレることすら、次の欲望へのスパイスに変えてみせます。安いものですわ、ビジネスの成功に比べれば」

黒崎は絶句した。あまりに大胆で、あまりに不謹慎な提案だ。だが、冷徹な経営者としての彼の本能が、この女の言っていることの「合理性」を理解していた。リスクを最小化し、虚実を混ぜ合わせ、最大のリターンを得る。かつて彼がビジネスの戦場で勝ち抜いてきた時と同じ、狂気を孕んだ決断力。

「……呆れた女だ。だが、経営者にはこれくらい大胆な判断が必要な時もある。それは俺も経験上、知っている」

「ふふ、最高の褒め言葉として受け取っておきますわ。サラ様の美しさを守りながら、私が影で泥を被り、金を稼ぐ。素晴らしい役割分担でしょう?」

リーは満足げに立ち上がると、秘書を従えて玄関へと向かった。扉を開ける直前、彼女は振り返り、西日に照らされた横顔を見せた。

「すぐに回答を、とは言いませんわ。2週間以内にお返事いただけますか? 黒崎さん。あなたの賢明な判断を期待しています」

赤いハイヒールの音が、乾いた音を立てて遠ざかっていく。残されたのは、潮の香りと、リーが提示した「1億円の影武者」という、あまりにも危うい選択肢だけだった。
家を出たリーは、素足になると、赤いハイヒールを持ち、秘書を従えて眩しい白砂の上を悠然と歩き出した。真っ赤なワンピースの裾から覗く豊満なお尻を、弾むようにぷりぷりさせながら歩く後ろ姿は、まさに女王の凱旋だ。

ビーチの端にある駐車場に停めてあった黒塗りの高級車に乗り込み、彼女はそのまま空港へと戻っていった。
その直後、因縁の海域――かつての処刑場から戻ってきたサラが、海から戻ってきた。そして、濡れた身体のままリビングに現れた。

サラの家には、リーが残した官能的で重厚な香水と、海底から戻ってきたばかりのサラが纏う、野生的で清冽な潮の香りが濃密に混ざり合っていた。

黒崎から「1時間1億円」という狂気じみた価格設定と、自分に支払われる「2,000万円」の報酬について聞かされたサラは、濡れた金髪を無造作にかき上げ、鏡の中に立つ自分の裸身をじっと見つめた。

「1時間で2,000万……。かつて私を鎖で繋ぎ、殺そうとした男たちの年収を、わずか数分で稼いでしまうのね」

サラは少しだけ不敵に、そして妖艶に微笑んだ。その瞳には、金銭への執着ではなく、自分を安く見積もった世界への復讐心に似た光が宿っている。

黒崎は、窓の外で牙を剥くように白波を立てる青い海を見つめていた。
ヘンリーが守る完璧なシステム。
リーが作り出す巨万の富。
そして、1億円という絶対的な価値を纏ったサラ。
この島は今、世界で最も贅沢で、最も危険な「大人の遊び場」へと変貌を遂げようとしていた。



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第5章8節、いかがでしたでしょうか?
さて、本編と並行して、本日より
『Episode-ゼロ 真珠の起源』
の連載をスタートしました。
サラと黒崎がどこでどう出会い、
HADALとNUCLEUSの建設に至ったのか。
これを読むと、これからの本編の展開が、
また違った景色に見えてくるかもしれません。
毎日、本編の10分前に更新していきますので、
セットでお楽しみいただけると嬉しいです。
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