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第5章 緋色の龍宮(饗宴)
5-9.龍宮の頭脳
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黒崎は手元の携帯電話を手に取ると、島の病院の一角にある事務室を本拠地にしているヘンリーへ電話を入れた。
「……ヘンリー、おれだ。さっきリーがそっちへ行っただろう。どう思った?」
少しの沈黙の後、受話器の向こうから、22歳の若者らしい興奮を隠しきれない声が返ってきた。
「最高っす! 黒崎さん! あの人、自分の7個上なんですけど、めちゃくちゃタイプです! 近くで見たら肌も綺麗だし、もう、超いい匂いしたし……。マジで結婚したいと思いました!」
「……違う。そうじゃない」
黒崎は、思わず額を押さえた。かつて政府のサーバーを閲覧した天才の視点が、今はただの年上の美女に骨抜きにされている。
「女の好みの話じゃない。あの『龍宮』っていうプロジェクトのシステム構築について、エンジニアとしてどう思ったかを聞いているんだ」
「あ、そっちっすか。えっと、彼女が言ってたのは、施設のインフラ、監視カメラの死角のない配置、あとはサーバーの徹底した暗号化セキュリティですね。それに海中の自走ドローンによるパトロール……。とにかく『サラさんの能力を解放する素晴らしいショーをやりたい、黒崎さんも前向きに検討してくれている』って、かなり熱く語ってましたよ」
ヘンリーのところには、黒崎のところに来る前に行ってるはずなのに、「黒崎は前向きだ」と言ったようだ。
「……全然前向きじゃないけどな……うそばっかりだな、あの女」
ヘンリーにとっては腕のなるオファーが来たと張り切っているようだ。
「……あ、そうだったんですか。でも、こんな大金が動く仕事、久しぶりだから、なんか楽しみしかないですけどね」
「そうか。まあ、お前がついてくれるなら、インフラ面は大丈夫そうだな」
「任せてください。俺が組むんですから、ペンタゴン並みの城塞にして見せますよ。……にして、あんな美人に頼まれたら、おれ、どんなに給料安くても働きますよ!」
「バカなことを言うな。……切るぞ」
電話を切ると、黒崎は再び海を見た。
ヘンリーが全力を尽くすなら、デジタル上の防壁に隙はなくなる。そして、いまや幻となった動画プラットフォーム「VANTABLACK(ヴァンタブラック)」、そしてサラの存在が守られるのであれば、この危うい契約に乗る価値はある。
黒崎は、机の上のチェス駒を一つ進めた。
「1時間1億円の影武者……か。リー、お前の狂気がどこまで通用するか、見届けさせてもらう」
島を包む夕闇は、まるでこれから始まる巨大な欲望を飲み込むように、深く、重く沈んでいった。
「……ヘンリー、おれだ。さっきリーがそっちへ行っただろう。どう思った?」
少しの沈黙の後、受話器の向こうから、22歳の若者らしい興奮を隠しきれない声が返ってきた。
「最高っす! 黒崎さん! あの人、自分の7個上なんですけど、めちゃくちゃタイプです! 近くで見たら肌も綺麗だし、もう、超いい匂いしたし……。マジで結婚したいと思いました!」
「……違う。そうじゃない」
黒崎は、思わず額を押さえた。かつて政府のサーバーを閲覧した天才の視点が、今はただの年上の美女に骨抜きにされている。
「女の好みの話じゃない。あの『龍宮』っていうプロジェクトのシステム構築について、エンジニアとしてどう思ったかを聞いているんだ」
「あ、そっちっすか。えっと、彼女が言ってたのは、施設のインフラ、監視カメラの死角のない配置、あとはサーバーの徹底した暗号化セキュリティですね。それに海中の自走ドローンによるパトロール……。とにかく『サラさんの能力を解放する素晴らしいショーをやりたい、黒崎さんも前向きに検討してくれている』って、かなり熱く語ってましたよ」
ヘンリーのところには、黒崎のところに来る前に行ってるはずなのに、「黒崎は前向きだ」と言ったようだ。
「……全然前向きじゃないけどな……うそばっかりだな、あの女」
ヘンリーにとっては腕のなるオファーが来たと張り切っているようだ。
「……あ、そうだったんですか。でも、こんな大金が動く仕事、久しぶりだから、なんか楽しみしかないですけどね」
「そうか。まあ、お前がついてくれるなら、インフラ面は大丈夫そうだな」
「任せてください。俺が組むんですから、ペンタゴン並みの城塞にして見せますよ。……にして、あんな美人に頼まれたら、おれ、どんなに給料安くても働きますよ!」
「バカなことを言うな。……切るぞ」
電話を切ると、黒崎は再び海を見た。
ヘンリーが全力を尽くすなら、デジタル上の防壁に隙はなくなる。そして、いまや幻となった動画プラットフォーム「VANTABLACK(ヴァンタブラック)」、そしてサラの存在が守られるのであれば、この危うい契約に乗る価値はある。
黒崎は、机の上のチェス駒を一つ進めた。
「1時間1億円の影武者……か。リー、お前の狂気がどこまで通用するか、見届けさせてもらう」
島を包む夕闇は、まるでこれから始まる巨大な欲望を飲み込むように、深く、重く沈んでいった。
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