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第5章 緋色の龍宮(饗宴)
5-12.サラの決心と黒崎の覚悟
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リーが去ったその夜、静まり返ったリビングには、彼女が残した重厚で官能的な残り香と、海底から戻ったばかりのサラが纏う野性的で清冽な潮の香りが、濃密に混ざり合っていた。
「いいわ、エドワード。その『龍宮』、私が本当の深淵を教えてあげる」
サラは、黒崎の逞しい背中に背後からしがみついた。濡れた指先で彼の硬い胸板をなぞり、耳元で熱い吐息を漏らす。
「エドワード……先週、リーと一緒に潜ってわかったの。あの女の本気度が、肌を通じて伝わってきたわ。私の身体はもう、今の浅瀬じゃ満足できない。本当の深淵が、私を呼んでいるのよ」
黒崎は苦い表情を浮かべた。水深20メートルを超えれば、水圧は未知の領域に達する。そこでセックスという激しい運動を行うことは、心肺停止や失神のリスクと隣り合わせだ。
「……30メートルは死の領域だ。お前を失うわけにはいかない」
「リーとの契約は、私次第なんでしょ? 私が決心すれば『龍宮』は動き出す。あなたの新しいビジネスを、私が助けたいの。プロジェクトが私次第ならば、やってみようと思うわ」
サラは彼の前に回り込み、頬を両手で包み込んだ。
「あなたは、何かに没頭しているときが一番輝いている。何もしないままのアール島で、あなたが死んだように枯れていくのを見たくない。そうなったら、私は生きていけないわ」
サラは震える唇を黒崎の胸に押し当てた。
「私と一緒に来て……。あなたという深淵に、もっと深く触れたいの。勇気を出して」
黒崎は、サラの献身的な愛と覚悟、そして自分への懸念を真っ向から受け止めた。
「……わかった。明日は今までにない深度を目指す。俺が生還できたら、リーとの契約を結ぼう。明日、島の西側の海溝へ行く」
翌朝、霧が乳白色のカーテンのように立ち込め、視界を曖昧に塗りつぶす夜明け。
家を飛び出した二人の肢体は、湿り気を帯びた朝の大気にさらされ、野生そのものの輝きを放っていた。
(帰りは島を時計回りに泳いで戻る)
その単純な思考を道標に、彼らは鬱蒼としたジャングルを疾走する。
シダの葉が肌を打ち、露が肉体を濡らすが、サラの脚部は迷いなく地を捉えていた。たどり着いたのは、島の西端。そこは、世界が唐突に途切れたかのような切り立った断崖だった。
《15メートルの飛翔》
足下から海面まで、垂直に切り落ちること15メートル。
眼下には、光を拒絶するような濃紺の海が、底知れぬ質量を持って横たわっている。
視界の左前方には、巨大プロジェクト「龍宮」の建設予定地が、静かな入江となって広がっていた。
2人は視線を交わした。
普段は冷静沈着で、どんな窮地でも不敵な笑みを崩さない黒崎が、その時ばかりは喉を鳴らし、わずかに重心を後ろに引いた。
本能的な拒絶――高所への恐怖が、彼の精悍な顔を強張らせている。
しかし、サラに躊躇はなかった。
彼女は力強く地を蹴った。しなやかな両腕を先頭に、空中で美しい弧を描く。
鍛え上げられた広背筋が翼のように広がり、無駄のない筋肉の連動が彼女を一本の鋭い矢へと変える。
「パフッ」 という鋭く短い音と共に、彼女は頭から一点の飛沫も上げず、吸い込まれるように海中へと消えた。
驚異の身体能力
入水の瞬間、サラの肉体には凄まじい衝撃が加わる。
しかし、彼女の強靭な体幹はそれを完璧に受け流し、むしろ沈降するための推進力へと変換した。
潜水反射の覚醒で、冷たい海水が顔に触れた瞬間、彼女の心肺機能は「深海仕様」へと切り替わる。
心拍数は劇的に低下し、四肢の血管は収縮。酸素をたっぷり含んだ血液は、脳と心臓だけに優先的に送り込まれる。
深淵へ潜行すると肺の中の空気は水圧で圧縮され、彼女の浮力を奪う。
サラは力強いドルフィンキックで、垂直に闇の底を目指した。水深20メートルを超えたあたりで、サラは背後にいるはずの気配がないことに気づき、不審に思って反転・浮上した。
水面に顔を出すと、そこには情けないほど慎重な足取りで、崖の脇にある緩やかな坂を降りてくる黒崎の姿があった。
「すまん、高所恐怖症にだけは勝てん……」
岩場から申し訳なさそうに飛び込み、必死に泳いでくる彼を見て、サラは(もう……)と呆れ混じりの溜息を泡にして吐き出した。無敵の男が見せた、あまりにも人間臭い隙。
それが可笑しくもあり、愛おしくもあった。
水深30メートルの静寂
気を取り直し、2人は再び潜水を開始した。
水深20メートル。水圧は地上の3倍に達し、サラの肋骨は内側へと軋む。
鼓動が耳の奥で、鐘の音のように激しく、しかしゆっくりと響く。
サラは時折、隣を泳ぐ黒崎の目を見つめた。
窒息の恐怖と水圧に意識が混濁していないかを確認するように、細く、しかし鋼のように硬い指先で彼の胸をリズミカルに叩く。
水深30メートル。
ついに着底した海底の砂は、氷のように冷たく、肌を刺した。
潜水開始から1分20秒。
肺は極限まで潰れ、2人の脳内には二酸化炭素の蓄積による恍惚感が広がり始める。
もはや言葉も、重力も必要なかった。 青黒い闇の中、光を拒絶した海底の砂紋の上で、2人は野生の獣のごとく絡み合った。酸素を奪い合うような、それでいて互いの生命を確かめ合うような、静謐で激しい抱擁。それは死と隣り合わせの場所でしか味わえない、究極の解放だった。
深淵の「69」
まずサラが逆さまになり、黒崎の太腿の間に顔を埋めた。
無酸素状態での**「69」**。
サラは彼の昂りを深く口に含みながらも、時折顔を上げ、彼の瞳に光が宿っているかを確かめる。
黒崎もまた、サラの深淵を執拗に舐めとり、自身の存在を証明するように腰を突き出した。
背徳のバック、水圧の咆哮
潜水3分40秒。
サラは海底の砂地に膝をついた。
黒崎は背後から彼女の臀部を掴み、その最深部へと自身を一気に貫き通した。
「バック(後背位)」での激しいピストン。
3.5気圧の重圧。一突きごとに黒崎の肺が押し潰され、視界が白濁し始める。
サラは背中越しに黒崎の荒い鼓動を感じ、彼が限界を超えないよう、自身の肉体で彼を支え、導いた。
終焉の結合
潜水5分10秒。黒崎の意識が途切れかける。サラは咄嗟に身を翻し、正面から黒崎にしがみついた。
彼の唇を奪い、自分の喉の奥に残ったわずかな空気を吹き込むように深く、長く接吻する。
絶頂の瞬間、黒崎はサラの奥深くに全てを放出した。
サラは彼の首を強く抱きしめ、彼がそのまま闇に落ちないよう、自らの生命力で彼を繋ぎ止めた。
6分49秒の帰還
2人は結合を解かぬままゆっくりと浮上を開始した。
水面を割って2人が激しく空気を吸い込んだ時、ストップウォッチは**「6分49秒」**を刻んでいた。
「……エドワード、大丈夫!? 目を開けて!」
サラは必死に黒崎の顔を叩いた。黒崎は数回激しく咳き込んだ後、ゆっくりと目を開け、力強くサラを抱きしめ返した。
水面を突き破り、激しく酸素を求めた彼らの周りには、朝陽が眩しく降り注いでいた。
「……生きて、戻ったな」
「ええ。これで、私たちの新しい世界が始まるわ」
2人の愛の結束は、もはや何者にも引き裂けないほど強固なものとなった。
「いいわ、エドワード。その『龍宮』、私が本当の深淵を教えてあげる」
サラは、黒崎の逞しい背中に背後からしがみついた。濡れた指先で彼の硬い胸板をなぞり、耳元で熱い吐息を漏らす。
「エドワード……先週、リーと一緒に潜ってわかったの。あの女の本気度が、肌を通じて伝わってきたわ。私の身体はもう、今の浅瀬じゃ満足できない。本当の深淵が、私を呼んでいるのよ」
黒崎は苦い表情を浮かべた。水深20メートルを超えれば、水圧は未知の領域に達する。そこでセックスという激しい運動を行うことは、心肺停止や失神のリスクと隣り合わせだ。
「……30メートルは死の領域だ。お前を失うわけにはいかない」
「リーとの契約は、私次第なんでしょ? 私が決心すれば『龍宮』は動き出す。あなたの新しいビジネスを、私が助けたいの。プロジェクトが私次第ならば、やってみようと思うわ」
サラは彼の前に回り込み、頬を両手で包み込んだ。
「あなたは、何かに没頭しているときが一番輝いている。何もしないままのアール島で、あなたが死んだように枯れていくのを見たくない。そうなったら、私は生きていけないわ」
サラは震える唇を黒崎の胸に押し当てた。
「私と一緒に来て……。あなたという深淵に、もっと深く触れたいの。勇気を出して」
黒崎は、サラの献身的な愛と覚悟、そして自分への懸念を真っ向から受け止めた。
「……わかった。明日は今までにない深度を目指す。俺が生還できたら、リーとの契約を結ぼう。明日、島の西側の海溝へ行く」
翌朝、霧が乳白色のカーテンのように立ち込め、視界を曖昧に塗りつぶす夜明け。
家を飛び出した二人の肢体は、湿り気を帯びた朝の大気にさらされ、野生そのものの輝きを放っていた。
(帰りは島を時計回りに泳いで戻る)
その単純な思考を道標に、彼らは鬱蒼としたジャングルを疾走する。
シダの葉が肌を打ち、露が肉体を濡らすが、サラの脚部は迷いなく地を捉えていた。たどり着いたのは、島の西端。そこは、世界が唐突に途切れたかのような切り立った断崖だった。
《15メートルの飛翔》
足下から海面まで、垂直に切り落ちること15メートル。
眼下には、光を拒絶するような濃紺の海が、底知れぬ質量を持って横たわっている。
視界の左前方には、巨大プロジェクト「龍宮」の建設予定地が、静かな入江となって広がっていた。
2人は視線を交わした。
普段は冷静沈着で、どんな窮地でも不敵な笑みを崩さない黒崎が、その時ばかりは喉を鳴らし、わずかに重心を後ろに引いた。
本能的な拒絶――高所への恐怖が、彼の精悍な顔を強張らせている。
しかし、サラに躊躇はなかった。
彼女は力強く地を蹴った。しなやかな両腕を先頭に、空中で美しい弧を描く。
鍛え上げられた広背筋が翼のように広がり、無駄のない筋肉の連動が彼女を一本の鋭い矢へと変える。
「パフッ」 という鋭く短い音と共に、彼女は頭から一点の飛沫も上げず、吸い込まれるように海中へと消えた。
驚異の身体能力
入水の瞬間、サラの肉体には凄まじい衝撃が加わる。
しかし、彼女の強靭な体幹はそれを完璧に受け流し、むしろ沈降するための推進力へと変換した。
潜水反射の覚醒で、冷たい海水が顔に触れた瞬間、彼女の心肺機能は「深海仕様」へと切り替わる。
心拍数は劇的に低下し、四肢の血管は収縮。酸素をたっぷり含んだ血液は、脳と心臓だけに優先的に送り込まれる。
深淵へ潜行すると肺の中の空気は水圧で圧縮され、彼女の浮力を奪う。
サラは力強いドルフィンキックで、垂直に闇の底を目指した。水深20メートルを超えたあたりで、サラは背後にいるはずの気配がないことに気づき、不審に思って反転・浮上した。
水面に顔を出すと、そこには情けないほど慎重な足取りで、崖の脇にある緩やかな坂を降りてくる黒崎の姿があった。
「すまん、高所恐怖症にだけは勝てん……」
岩場から申し訳なさそうに飛び込み、必死に泳いでくる彼を見て、サラは(もう……)と呆れ混じりの溜息を泡にして吐き出した。無敵の男が見せた、あまりにも人間臭い隙。
それが可笑しくもあり、愛おしくもあった。
水深30メートルの静寂
気を取り直し、2人は再び潜水を開始した。
水深20メートル。水圧は地上の3倍に達し、サラの肋骨は内側へと軋む。
鼓動が耳の奥で、鐘の音のように激しく、しかしゆっくりと響く。
サラは時折、隣を泳ぐ黒崎の目を見つめた。
窒息の恐怖と水圧に意識が混濁していないかを確認するように、細く、しかし鋼のように硬い指先で彼の胸をリズミカルに叩く。
水深30メートル。
ついに着底した海底の砂は、氷のように冷たく、肌を刺した。
潜水開始から1分20秒。
肺は極限まで潰れ、2人の脳内には二酸化炭素の蓄積による恍惚感が広がり始める。
もはや言葉も、重力も必要なかった。 青黒い闇の中、光を拒絶した海底の砂紋の上で、2人は野生の獣のごとく絡み合った。酸素を奪い合うような、それでいて互いの生命を確かめ合うような、静謐で激しい抱擁。それは死と隣り合わせの場所でしか味わえない、究極の解放だった。
深淵の「69」
まずサラが逆さまになり、黒崎の太腿の間に顔を埋めた。
無酸素状態での**「69」**。
サラは彼の昂りを深く口に含みながらも、時折顔を上げ、彼の瞳に光が宿っているかを確かめる。
黒崎もまた、サラの深淵を執拗に舐めとり、自身の存在を証明するように腰を突き出した。
背徳のバック、水圧の咆哮
潜水3分40秒。
サラは海底の砂地に膝をついた。
黒崎は背後から彼女の臀部を掴み、その最深部へと自身を一気に貫き通した。
「バック(後背位)」での激しいピストン。
3.5気圧の重圧。一突きごとに黒崎の肺が押し潰され、視界が白濁し始める。
サラは背中越しに黒崎の荒い鼓動を感じ、彼が限界を超えないよう、自身の肉体で彼を支え、導いた。
終焉の結合
潜水5分10秒。黒崎の意識が途切れかける。サラは咄嗟に身を翻し、正面から黒崎にしがみついた。
彼の唇を奪い、自分の喉の奥に残ったわずかな空気を吹き込むように深く、長く接吻する。
絶頂の瞬間、黒崎はサラの奥深くに全てを放出した。
サラは彼の首を強く抱きしめ、彼がそのまま闇に落ちないよう、自らの生命力で彼を繋ぎ止めた。
6分49秒の帰還
2人は結合を解かぬままゆっくりと浮上を開始した。
水面を割って2人が激しく空気を吸い込んだ時、ストップウォッチは**「6分49秒」**を刻んでいた。
「……エドワード、大丈夫!? 目を開けて!」
サラは必死に黒崎の顔を叩いた。黒崎は数回激しく咳き込んだ後、ゆっくりと目を開け、力強くサラを抱きしめ返した。
水面を突き破り、激しく酸素を求めた彼らの周りには、朝陽が眩しく降り注いでいた。
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