「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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第5章 緋色の龍宮(饗宴)

5-16.聖域の汚染

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林と秘書の靴音が床板を叩きながら遠ざかり、最後に玄関のドアが乾いた音を立てて閉まった。
その一瞬、家全体の空気がふっと沈み込むように静まり返った。
静寂が戻った居間で、黒崎は膝の上で硬く握りしめていた拳を、ゆっくりとほどいた。

だが、その背中にそっと添えられているサラの手だけはちがった。
さっきまでとは明らかに強い力で、彼のバスローブを掴みしめ、布地に皺が深く刻まれるほど、食い込んでいる。

「……盗聴器……」

サラが、秘書の去り際の言葉を反芻するように呟いた。
声は低く湿り、空気の中に溶けていく。

サラはこの家で生まれ、11歳になるまでここで育った。
海の匂いと木造の軋む音が、幼い日の記憶のすべてを形づくっている。

ハイスクールの頃はニューカレドニア本土の寮に預けられたが、
卒業すると迷うことなくこの家へ戻ってきた。
今は21歳。

外の世界を知ったうえで、それでも帰る場所として選んだこの家は、もはや彼女の人生そのものと言ってよかった。
質素だが、彼女の人生の輪郭を縁取ってきた居場所だった。
過去と現在がすべてここに積み重なっている。

「盗聴器?なんのことだ」

黒崎が静かに尋ねる。

「さっきの秘書が教えてくれたの。それと……」

サラは視線を落とし、ためらいがちに言葉をつなぐ。

「フェアリーって呼ばれたのよ……」

黒崎は息を整え、立ち上がろうとする。しかし、足に力が入らず、ソファへふたたび沈み込んだ。
今朝の30メートル潜行の負荷が身体の奥にこびりついており、立ちあがるたびに視界が白い閃光で満たされる。

「エドワード、あなたは動かないで。私が見てくる」

サラは黒崎の肩にそっと触れ、ゆっくりと立ち上がった。
彼女の視線が鋭くなる。
リビングの隅々へ、獲物を探す獣のように目を走らせる。

長年住み慣れた家だ。
壁紙の継ぎ目、木目の歪み、光の反射――
染みのひとつひとつまで記憶している。

だからこそ、違和感は即座に“異物”として浮かび上がった。
古びたサイドボードの裏。

壁とのわずか数センチの隙間。
そこに指を伸ばした瞬間、サラの表情が凍りつく。

「……あったわ」

その声は震えてはいなかった。
だが、居間の空気を氷のように締めつけるほどの重みを帯びていた。
彼女の指先には、確かに“仕掛けられた何か”の感触があった。

それは、外から覗き込むドローンとは異質の、
もっと深く、もっと悪意の濃い侵入の痕跡だった。

彼女が引き抜いたのは、名刺の半分ほどのサイズの、極薄の電子チップだった。
それは単なる盗聴器ではない。
この家の電源系統に直接割り込み、内部のすべての情報を外部へ送信するブロードバンド・デバイスだ。
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