「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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第5章 緋色の龍宮(饗宴)

5-20.忠実なる観測者

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アール島西側。
「龍宮」建設予定地に隣接している赤龍エンタープライズ・アール島オフィス。

「龍宮」の心臓部を司るシステムエンジニア、ヘンリーの朝は、他の誰よりも早い。

まだ人のまばらなオフィスに入ると、彼はメインモニターではなく、デスクの影に隠された、自分専用のプライベート端末に指を滑らせる。

ヘンリーには、サラが水深60メートルのトンネルを日課とするように、そしてリーが地下で150メートルの無呼吸潜水に耽るように、欠かすことのできない「儀式」があった。

彼の日課。
それは、愛してやまない「サラ」の水中映像を、隅々まで鑑賞することだった。

元々はリーから水中ドローンによる監視を指示されて始めたのだが、「あなたにしかできない、もっと高度なことをやってもらう」という理由で、監視役は別の人の仕事になった。

しかし、ヘンリーは給料のすべてを注ぎ込み、赤龍の備品よりも遥かに高感度な水中ドローンを自費で購入していた。

しかも、そのドローンは、サラの生体信号を個体識別し、彼女が海へ入れば即座に、影のように追尾するようプログラミングされている。

「おはよう、サラ……。昨夜も、美しかった」

ヘンリーがモニターを叩くと、昨夜から今朝にかけてのログが、鮮明な4K映像で流れ始めた。
暗黒の海を切り裂く、黄金の髪と白い肢体。

サラが水深30メートルの底で、岩場に手をつき、肺を押し潰されながらも悦びに身を震わせる。その隣には、常に黒崎という「不純物」がいた。

「まあ、黒崎さんがいるからサラは諦めるしかないが、見るだけなら別にいいでしょ」

ヘンリーにとって、黒崎は尊敬すべき存在ではあったが、同時に不可欠な「トリガー」でもあった。

画面の中で、サラの背中が弓なりに反り、彼女の喉から吐き出された気泡が、断末魔のような激しさで上昇していく。

彼女の瞳が快楽と酸欠で混濁し、絶頂を迎えた瞬間。
ヘンリーは、静まり返ったオフィスで、自らのスラックスの中に手を忍ばせた。

「……あ、あぁ……サラ……」

サラが深い海の底で身体をピクピクと痙攣させる。
その動きと完全に同期するように、ヘンリーもまた、冷徹な眼鏡の奥の瞳を剥き、机の下で激しく自身を追い込んだ。

サラがフィニッシュを迎え、水底で力を抜くその刹那、ヘンリーもまた、デスクの裏側で激しい迸りを感じていた。

一瞬の空白。
画面の中のサラは、黒崎の腕の中で安らいでいる。
ヘンリーは、荒い息をつきながら、慣れた手つきでティッシュを丸め、証拠を抹消した。

「……やはり、今朝のデータにはノイズが混じっているな」

賢者タイムに浸る間もなく、ヘンリーの目は再び、冷酷なエンジニアのものへと戻った。

映像の端に、蒼溟重工のものと思われる低周波ノイズの波形が記録されている。
リーの仕掛けたチップとは別に、自らのドローンが捉えた「他者」の影。

「サラ様を汚す鼠が、また一匹……」

ヘンリーは、射精の余韻が残る指先でキーボードを叩き、蒼溟のドローンを物理的に排除するためのプログラムを構築し始めた。

彼にとって、サラを観測することは、信仰そのものだ。
この美しい「人魚」が、いつか海の重圧に耐えかねて壊れるその瞬間まで、自分はそのすべてを記録し、誰よりも深く、その「液体の時間」を共有し続けるのだ。

ヘンリーの眼鏡の奥で、水中ドローンが捉えたサラの白い肌が、青白く、いつまでも輝き続けていた。
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