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第6章 緋色の龍宮(龍墜)
6-8.崩壊の前触れ
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ドローンに襲われたあと、サラは、島を時計回りに泳ぎ、家の前のビーチに辿り着いた。
そして、潮の香りを纏ったまま、裏手の勝手口から滑り込むように自宅に入った。
リビングの隅、デスクに広げられた複数のモニターに向かっていた黒崎が、キーボードを叩く手を止めて振り返った。
彼は、サラの少し乱れた呼吸と、濡れた髪から滴る水滴が床に小さな染みを作っているのを見て、怪訝そうに眉を寄せた。
「お帰り。……どうした、随分と慌てた様子だな。サメにでも襲われたのか?」
サラはバスタオルを肩にかけ、そのまま黒崎のデスクの隣にある椅子に深く腰を下ろした。まだ心臓の鼓動が耳の奥で鳴っている。
「……エドワード、信じられないことが起きたわ。海底で、殺されかけた」
黒崎の目が鋭く細まった。彼は椅子の向きを変え、完全にサラと向き合った。
「殺されかけた? だれに?」
「機械よ。水中ドローン、それも8機も。岩影から突然現れて、網で私を絡めとったの。龍宮の近くにある深い溝に引き摺り込まれて……身動きが取れなくなった」
サラの話を聞くにつれ、黒崎の表情から余裕が消えていった。
「ドローン……? どこのメーカーだ。龍宮の警備か?」
「わからない。でも、あんな攻撃的な動き、普通の警備用じゃない。それに、溝の底で私を押し込めたまま、急に全てのドローンが停止したの。まるで誰かが糸を切ったみたいに。おかげで逃げ出せたけど……」
サラはそこまで一気に話すと、思い出したように自分の目を指先で押さえた。
「それと、もう一つ。溝の底でドローンが止まる直前、目が焼けるように沁みたの。パニックになりそうなくらい激痛で……。でも、昔誰かに聞いたことがあるわ。火山性ガスとかメタンが噴出してる海域では、目が沁みることがあるって。あの辺り、ガスが噴き出してるのかしら?」
黒崎は黙ってサラの言葉を咀嚼するように、しばらく顎に手を当てて考え込んだ。
モニターには複雑な数式やデータが並んでいるが、彼の意識は今、サラが語った海底の光景に向けられていた。
「ガスか……。地質調査の結果では、あの海域に活発な噴出孔があるという報告はなかった。だが、龍宮の建設による大規模な掘削が、地殻の深部に干渉した可能性は否定できないな。メタンハイドレートの層を突いたのかもしれん」
黒崎の声は低く、慎重だった。
「ドローンの突然の停止も不可解だ。システムエラーか、あるいは……」
彼は何かを言いかけて、言葉を飲み込んだ。
そして、サラの肩を優しく叩いた。
「まずはシャワーを浴びて落ち着け。その間に、俺の方でも最近の龍宮周辺のドローン稼働ログを洗ってみる。……サラ、悪いが今日はもう海には近づくな。何かが動いている」
サラは小さく頷き、立ち上がった。温かいシャワーを浴びれば、あの深淵の冷たさと目の痛みの残像を洗い流せるだろうか。
しかし、黒崎の厳しい横顔を見た彼女の胸には、拭いきれない不安が澱のように沈んでいた。
そして、潮の香りを纏ったまま、裏手の勝手口から滑り込むように自宅に入った。
リビングの隅、デスクに広げられた複数のモニターに向かっていた黒崎が、キーボードを叩く手を止めて振り返った。
彼は、サラの少し乱れた呼吸と、濡れた髪から滴る水滴が床に小さな染みを作っているのを見て、怪訝そうに眉を寄せた。
「お帰り。……どうした、随分と慌てた様子だな。サメにでも襲われたのか?」
サラはバスタオルを肩にかけ、そのまま黒崎のデスクの隣にある椅子に深く腰を下ろした。まだ心臓の鼓動が耳の奥で鳴っている。
「……エドワード、信じられないことが起きたわ。海底で、殺されかけた」
黒崎の目が鋭く細まった。彼は椅子の向きを変え、完全にサラと向き合った。
「殺されかけた? だれに?」
「機械よ。水中ドローン、それも8機も。岩影から突然現れて、網で私を絡めとったの。龍宮の近くにある深い溝に引き摺り込まれて……身動きが取れなくなった」
サラの話を聞くにつれ、黒崎の表情から余裕が消えていった。
「ドローン……? どこのメーカーだ。龍宮の警備か?」
「わからない。でも、あんな攻撃的な動き、普通の警備用じゃない。それに、溝の底で私を押し込めたまま、急に全てのドローンが停止したの。まるで誰かが糸を切ったみたいに。おかげで逃げ出せたけど……」
サラはそこまで一気に話すと、思い出したように自分の目を指先で押さえた。
「それと、もう一つ。溝の底でドローンが止まる直前、目が焼けるように沁みたの。パニックになりそうなくらい激痛で……。でも、昔誰かに聞いたことがあるわ。火山性ガスとかメタンが噴出してる海域では、目が沁みることがあるって。あの辺り、ガスが噴き出してるのかしら?」
黒崎は黙ってサラの言葉を咀嚼するように、しばらく顎に手を当てて考え込んだ。
モニターには複雑な数式やデータが並んでいるが、彼の意識は今、サラが語った海底の光景に向けられていた。
「ガスか……。地質調査の結果では、あの海域に活発な噴出孔があるという報告はなかった。だが、龍宮の建設による大規模な掘削が、地殻の深部に干渉した可能性は否定できないな。メタンハイドレートの層を突いたのかもしれん」
黒崎の声は低く、慎重だった。
「ドローンの突然の停止も不可解だ。システムエラーか、あるいは……」
彼は何かを言いかけて、言葉を飲み込んだ。
そして、サラの肩を優しく叩いた。
「まずはシャワーを浴びて落ち着け。その間に、俺の方でも最近の龍宮周辺のドローン稼働ログを洗ってみる。……サラ、悪いが今日はもう海には近づくな。何かが動いている」
サラは小さく頷き、立ち上がった。温かいシャワーを浴びれば、あの深淵の冷たさと目の痛みの残像を洗い流せるだろうか。
しかし、黒崎の厳しい横顔を見た彼女の胸には、拭いきれない不安が澱のように沈んでいた。
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