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第6章 緋色の龍宮(龍墜)
6-11.赤の暴露からの戦慄
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サラがドローンによって襲撃されてから一夜明けた、翌日のお昼前。
サラの自宅のリビングには、張り詰めた空気と、それとは対照的な弛緩した空気が奇妙に混ざり合っていた。
リーはいつもの勝負服である真っ赤な超ミニワンピースに身を包み、同じ色のハイヒールを鳴らしている。
隣には秘書のフランク。
対するサラは、白の紐ビキニ姿だ。
長年、この家では全裸で過ごすのが彼女のスタイルだったが、黒崎と暮らすようになってからは「男の客人が来るときはせめてこれを」という彼の懇願を受け入れ、この最小限の布を纏うのがルールになっていた。
「要件なんてメールで済ませてくれれば、もっと早く会議も終わるのに」
リーが退屈そうに唇を尖らせる。その不満げな態度に、黒崎が低い声で応じた。
「……サラが殺されかけたんだぞ。メール1本で済む話か」
黒崎の視線は鋭い。彼はさらに言葉を継いだ。
「それに、あの海域の海底からガスが噴出している可能性があるんだ」
「ガス? サラさんが襲われた件はヘンリーから聞いたけど、急に何の話よ」
「サラは深海で、目も開けられないほどの激痛を感じたと言っている」
隣でサラが静かに、しかし重々しく頷いた。
「考えすぎよ。目が沁みたからって、即座にガスのせいだと決めつけるのはどうかと思うわ」
「たとえ可能性が低くても、不確定要素はすべて潰しておくべきだ。至急、あの海域の調査を回してくれ」
リーは
「はいはい、わかったわよ」
と肩をすくめると、背後に控えていた秘書のフランクに顔を向けた。
「フランク、誰か適当なのを手配しておいて」
言い終えるやいなや、リーは
「さて、仕事の話は終わりね」
とばかりに、ワンピースの裾を掴んで脱ぎ捨てようと立ち上がる。
「待て、まだ話は終わっていない」
黒崎の制止に、リーは「ちぇっ」と舌打ちを漏らして再びソファに腰を下ろした。
「……おれたちを監視している理由を教えてもらおうか。あの盗聴器、そして毎日海底で執拗にサラを追い回しているドローン。そろそろ白状してくれ」
リーは一瞬、視線を泳がせた。
「はー、そうね。悪かったわよ、あれは……。サラさんのバイタルデータが欲しかったの」
リーが申し訳なさそうに続ける。
「だってね、私はサラさんの影武者になろうとしてるんだもの。少しでも彼女の身体に近づきたくて、影武者をやるからには、とことんサラさんに近づけないと、サラさんに失礼じゃない?だから、どうしたらいいか、泳ぎ方とか歩き方、呼吸、脈拍とかをこっそり見させてもらってたのよ」
黒崎は、半ばホッとしたような表情で、
「だったら、はじめにそう言ってくれれば、おれだって協力したさ、なにをこそこそ……」
その瞬間、静まり返ったリビングにフランクの携帯の着信音が鳴り響いた。
慌てて電話に出たフランクの顔が、みるみるうちに蒼白になっていく。
「はい……。はい、ただちに伝えます」
電話を切ったフランクの声は震えていた。
「社長……王会長からお電話です。『至急、上海の本社に戻れ』と」
「えええーっ! せっかく明日の昼まで予定を空けて、今日はここに泊まるつもりだったのに! ほら、中にはビキニだって着てるのよ?」
リーは抗議するようにワンピースの裾をまくり上げて見せたが、フランクの表情はぴくりとも動かない。冗談が通じる状況ではないことを察し、リーは大きなため息をついた。
「わかったわよ、戻ればいいんでしょ。……ごめんなさい、今日はここまで。また今度ゆっくり話しましょう」
嵐のような慌ただしさで、リーとフランクは部屋を去っていった。
静まり返ったリビングで、黒崎が吐き捨てるように言った。
「あー、全く……あいつは何なんだ」
「何をそんなに怒ってるのよ」
サラが穏やかな声でなだめる。
「ヘンリーのドローンが見張ってくれていたから、私は助かったのよ。悪いことばかりじゃないわ」
「いや、あいつは……」
黒崎は苛立ちを隠せない様子で、窓の外を見やった。
「社長なんてやるより、その辺の道端でホットドッグでも売ってる方が、よっぽど幸せな人生を送れるんじゃねえか? 仕事は隙だらけのくせに、遊ぶことばかり考えやがって」
「まあまあ。彼女なりに一生懸命やってるんだから、許してあげて」
サラの優しい微笑みが、黒崎の尖った神経を少しだけ和らげた。
しかし、深海の異変と監視の目――未だ解決していない謎が、夕闇とともに部屋に色濃く落ちていた。
サラの自宅のリビングには、張り詰めた空気と、それとは対照的な弛緩した空気が奇妙に混ざり合っていた。
リーはいつもの勝負服である真っ赤な超ミニワンピースに身を包み、同じ色のハイヒールを鳴らしている。
隣には秘書のフランク。
対するサラは、白の紐ビキニ姿だ。
長年、この家では全裸で過ごすのが彼女のスタイルだったが、黒崎と暮らすようになってからは「男の客人が来るときはせめてこれを」という彼の懇願を受け入れ、この最小限の布を纏うのがルールになっていた。
「要件なんてメールで済ませてくれれば、もっと早く会議も終わるのに」
リーが退屈そうに唇を尖らせる。その不満げな態度に、黒崎が低い声で応じた。
「……サラが殺されかけたんだぞ。メール1本で済む話か」
黒崎の視線は鋭い。彼はさらに言葉を継いだ。
「それに、あの海域の海底からガスが噴出している可能性があるんだ」
「ガス? サラさんが襲われた件はヘンリーから聞いたけど、急に何の話よ」
「サラは深海で、目も開けられないほどの激痛を感じたと言っている」
隣でサラが静かに、しかし重々しく頷いた。
「考えすぎよ。目が沁みたからって、即座にガスのせいだと決めつけるのはどうかと思うわ」
「たとえ可能性が低くても、不確定要素はすべて潰しておくべきだ。至急、あの海域の調査を回してくれ」
リーは
「はいはい、わかったわよ」
と肩をすくめると、背後に控えていた秘書のフランクに顔を向けた。
「フランク、誰か適当なのを手配しておいて」
言い終えるやいなや、リーは
「さて、仕事の話は終わりね」
とばかりに、ワンピースの裾を掴んで脱ぎ捨てようと立ち上がる。
「待て、まだ話は終わっていない」
黒崎の制止に、リーは「ちぇっ」と舌打ちを漏らして再びソファに腰を下ろした。
「……おれたちを監視している理由を教えてもらおうか。あの盗聴器、そして毎日海底で執拗にサラを追い回しているドローン。そろそろ白状してくれ」
リーは一瞬、視線を泳がせた。
「はー、そうね。悪かったわよ、あれは……。サラさんのバイタルデータが欲しかったの」
リーが申し訳なさそうに続ける。
「だってね、私はサラさんの影武者になろうとしてるんだもの。少しでも彼女の身体に近づきたくて、影武者をやるからには、とことんサラさんに近づけないと、サラさんに失礼じゃない?だから、どうしたらいいか、泳ぎ方とか歩き方、呼吸、脈拍とかをこっそり見させてもらってたのよ」
黒崎は、半ばホッとしたような表情で、
「だったら、はじめにそう言ってくれれば、おれだって協力したさ、なにをこそこそ……」
その瞬間、静まり返ったリビングにフランクの携帯の着信音が鳴り響いた。
慌てて電話に出たフランクの顔が、みるみるうちに蒼白になっていく。
「はい……。はい、ただちに伝えます」
電話を切ったフランクの声は震えていた。
「社長……王会長からお電話です。『至急、上海の本社に戻れ』と」
「えええーっ! せっかく明日の昼まで予定を空けて、今日はここに泊まるつもりだったのに! ほら、中にはビキニだって着てるのよ?」
リーは抗議するようにワンピースの裾をまくり上げて見せたが、フランクの表情はぴくりとも動かない。冗談が通じる状況ではないことを察し、リーは大きなため息をついた。
「わかったわよ、戻ればいいんでしょ。……ごめんなさい、今日はここまで。また今度ゆっくり話しましょう」
嵐のような慌ただしさで、リーとフランクは部屋を去っていった。
静まり返ったリビングで、黒崎が吐き捨てるように言った。
「あー、全く……あいつは何なんだ」
「何をそんなに怒ってるのよ」
サラが穏やかな声でなだめる。
「ヘンリーのドローンが見張ってくれていたから、私は助かったのよ。悪いことばかりじゃないわ」
「いや、あいつは……」
黒崎は苛立ちを隠せない様子で、窓の外を見やった。
「社長なんてやるより、その辺の道端でホットドッグでも売ってる方が、よっぽど幸せな人生を送れるんじゃねえか? 仕事は隙だらけのくせに、遊ぶことばかり考えやがって」
「まあまあ。彼女なりに一生懸命やってるんだから、許してあげて」
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