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第7章 緋色の龍宮(深絆)
7-2.ヘンリーの「最後の日課」
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地下のプレミアム・ダイブのプールサイド。
リーは独り、機械的なカウントダウンの声を聞いていた。
(……せっかくサラという女を神格化し、私自身も神になれる聖域を作ったのに。壊さなきゃいけないなんて)
彼女の頬を、一筋の雫が伝う。だが、その瞳には狂気にも似た決意が宿っていた。
(なら、私はこの施設と一緒に、海に沈むわ)
アール島西側の沖合――
正午の海は目が眩むほどのコバルトブルーに輝き、砕ける波頭は真っ白な飛沫となって光を撒き散らしていた。
その海面を裂くように、一隻のモーターボートが疾走していた。
舵を握るのは黒崎。鋭い横顔に、海風が容赦なく叩きつけられている。
爆破まで、あと4分を切った。
計器類の赤いランプが、警告音を鳴らし続けていた。
この先は「龍宮」施設の防衛システムが作動する完全な侵入禁止エリア――
だが黒崎は、一切減速しなかった。
「……間に合え」
彼の声は風に消えたが、指先には迷いがない。
アクセルを押し込むと、エンジンが唸り、船体が跳ねるように海面を叩く。
波を切り裂く衝撃が全身を揺らす。
防衛網の境界を越えた瞬間、複数の警告ビーコンが遠くで赤く点滅し始めた。
まるで海の底から巨大な目がこちらを睨みつけているかのようだ。
それでも黒崎は一歩も引かない。
「サラがいる限り、誰にも好き勝手はさせん」
低く呟き、操舵輪をさらに切った。
モーターボートは“龍宮”の外郭へと突き進む。
潮煙が弾け、黒崎の視界を白く染めた。
爆破まで――あと、3分22秒。
海の鼓動と、自分の鼓動が同じリズムで高鳴っている。
黒崎は海面を睨みつけたまま、決して瞬きをしなかった。
その時、隣にいた全裸の金髪美女――サラが、迷いなく海へ飛び込んだ。
海中へ滑り込み、潜水を始める。10メートル……、20メートル……、そのとき、サラの前に、一台の水中ドローンが静かに現れた。
ここ数ヶ月、執拗に自分を追い回していたヘンリーの「愛の結晶」だ。サラはそのレンズを真っ直ぐに見据え、心の中で叫んだ。
(ヘンリー、私をリーのところに案内して!)
龍宮から離れ、海が見える丘で、ヘンリーは2つの端末を見ながら、2つのコントローラーを使い、ドローンを操作していた。
彼の指先が、ドローンのスラスターを唸らせる。
これは彼にしかできない、愛したサラへの最後の手助け。
小型ドローンはライトを点火し、彗星のような軌跡を描いて深海へと潜った。
サラはその光だけを信じ、暗黒の海底へと突き進む。
ヘンリーが見つめる端末の中で、彼女を導く「希望の灯」が深い深い底へと沈んでいった。
リーは独り、機械的なカウントダウンの声を聞いていた。
(……せっかくサラという女を神格化し、私自身も神になれる聖域を作ったのに。壊さなきゃいけないなんて)
彼女の頬を、一筋の雫が伝う。だが、その瞳には狂気にも似た決意が宿っていた。
(なら、私はこの施設と一緒に、海に沈むわ)
アール島西側の沖合――
正午の海は目が眩むほどのコバルトブルーに輝き、砕ける波頭は真っ白な飛沫となって光を撒き散らしていた。
その海面を裂くように、一隻のモーターボートが疾走していた。
舵を握るのは黒崎。鋭い横顔に、海風が容赦なく叩きつけられている。
爆破まで、あと4分を切った。
計器類の赤いランプが、警告音を鳴らし続けていた。
この先は「龍宮」施設の防衛システムが作動する完全な侵入禁止エリア――
だが黒崎は、一切減速しなかった。
「……間に合え」
彼の声は風に消えたが、指先には迷いがない。
アクセルを押し込むと、エンジンが唸り、船体が跳ねるように海面を叩く。
波を切り裂く衝撃が全身を揺らす。
防衛網の境界を越えた瞬間、複数の警告ビーコンが遠くで赤く点滅し始めた。
まるで海の底から巨大な目がこちらを睨みつけているかのようだ。
それでも黒崎は一歩も引かない。
「サラがいる限り、誰にも好き勝手はさせん」
低く呟き、操舵輪をさらに切った。
モーターボートは“龍宮”の外郭へと突き進む。
潮煙が弾け、黒崎の視界を白く染めた。
爆破まで――あと、3分22秒。
海の鼓動と、自分の鼓動が同じリズムで高鳴っている。
黒崎は海面を睨みつけたまま、決して瞬きをしなかった。
その時、隣にいた全裸の金髪美女――サラが、迷いなく海へ飛び込んだ。
海中へ滑り込み、潜水を始める。10メートル……、20メートル……、そのとき、サラの前に、一台の水中ドローンが静かに現れた。
ここ数ヶ月、執拗に自分を追い回していたヘンリーの「愛の結晶」だ。サラはそのレンズを真っ直ぐに見据え、心の中で叫んだ。
(ヘンリー、私をリーのところに案内して!)
龍宮から離れ、海が見える丘で、ヘンリーは2つの端末を見ながら、2つのコントローラーを使い、ドローンを操作していた。
彼の指先が、ドローンのスラスターを唸らせる。
これは彼にしかできない、愛したサラへの最後の手助け。
小型ドローンはライトを点火し、彗星のような軌跡を描いて深海へと潜った。
サラはその光だけを信じ、暗黒の海底へと突き進む。
ヘンリーが見つめる端末の中で、彼女を導く「希望の灯」が深い深い底へと沈んでいった。
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