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第3章 死線の抱擁
3-5.ポール・白石という男③
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星条旗の人魚
2021年8月。白石はAI開発企業の視察という名目で、単身シリコンバレーへ飛んだ。
カリフォルニアの強烈な陽光が降り注ぐサンノゼ。高層ビルの狭間にある「Jack in the Box」で、彼は1人、ジャンクなハンバーガーを頬張っていた。
「たまには、こういう庶民の味も悪くない……」
油ぎったポテトを口に運んだ、その時だった。
「お客様、申し訳ありません。ポテトにケチャップを付け忘れてしまいました。これ、お使いください」
凛とした声と共に、1人の女性店員がトレイに小さなケチャップの袋を置いていった。
白石の動きが止まった。
栗色の長い髪が、店内の冷房の風に揺れる。端正な顔立ちに、吸い込まれそうなほど大きな瞳。そして、制服越しにも分かる、発達した広背筋が生み出す広い肩幅。そこから伸びる腕と脚は、しなやかな筋肉の筋が浮き出た、彫刻のような機能美を湛えていた。
「おねえさん」
白石は口元の油をナプキンで拭い、最高の微笑みを浮かべた。
「少し話さないか? 当ててあげよう。君、もしかしてシンクロ(アーティスティックスイミング)の選手じゃないかな?」
女性は目を見開いた。
「……え? なぜそれを? どこかでお会いしましたっけ?」
直感が、白石の脳内で勝利の鐘を鳴らした。
何を隠そう、白石は重度の「水中フェチ」だった。
水に濡れた肌、無呼吸の中で蠢く肉体、その機能性に何よりも官能を感じる男だ。彼はその日のうちに彼女を口説き落とし、最高級のディナーへと誘い出した。
彼女の名はエリザベス・テイラー。元アーティスティックスイミング・アメリカ代表。しかし、肩の怪我によって夢を断たれ、この街で燻っていたのだ。
数日後、視察を終え、ホワイトキャットの本社があるケアンズへと向かうプライベートジェット。その豪華なキャビンには、白石の隣でシャンパングラスを傾けるエリザベスの姿があった。
彼女は、白石にとっての「正解」だった。
ある日、ケアンズ郊外の、観光客も寄り付かない秘密の入江。
エリザベスはそこで、自らの真価を解放した。
白石が見守る中、彼女はアメリカ国旗を上下にセパレートした極小の紐ビキニに着替え、遠くの岩場から、指先まで神経の通った完璧なフォームでダイブした。
水しぶきすら立てず、彼女はそのまま青の奥深くへと消える。一度も水面に顔を出さず、潜水だけで80メートルを泳ぎ切るその肺活量。
再び浮上した彼女は、次に、垂直に脚を突き出し、空を切り裂くようなシンクロの脚技を披露した。水面に咲く肉体の花。白石はその光景に、言葉を失った。
エリザベスの能力解放
しばらく経ってから
「どうせ誰にもバレないわ」
エリザベスは不敵に微笑み、水着を脱ぎ捨てて全裸になった。
2人は沖合まで泳ぎ、エメラルドグリーンの海水の中で、獣のように求め合った。
「エリザベス、潜るんだ」
白石の命令に従い、彼女は肺いっぱいに空気を詰め込むと、一気に水深15メートルの海底へと潜り込んだ。一糸纏わぬ肢体。平泳ぎで局部を惜しげもなく晒した。
その後、無酸素の静寂の中で2分間、海底に寝そべり、時折り笑みを浮かべて静止してみせる。
白石は水面に顔を出し、太陽の光を浴びながら、彼女が浮上してくるのを待った。やがて、水底から弾丸のように突き上げてきたエリザベスが、そのまま白石の太ももを掴み、彼の欲望を口に含んだ。無呼吸の余韻で震える舌使いに、白石は頭が真っ白になるほどの衝撃を受ける。
それだけでは終わらない。
白石は立ち泳ぎのまま、エリザベスを仰向けに寝かせ、彼女の頭だけを水中へと沈めさせた。彼女の肺は、結合の衝撃に耐えながら無酸素の限界に挑む。水面に波紋が広がり、水中では彼女の栗色の髪が海草のように揺れる。
さらに、白石は彼女の脚を自分の肩に担ぎ上げ、逆さまの状態でお互いの局部を深く愛撫し合った。水圧と重力、そして窒息の恐怖が混ざり合う極限のセックス。
「ああ……エリザベス……最高だ!」
白石は、波間で3回もの凄まじい絶頂を迎え、彼女こそが自分の終着点だと確信した。
その日のうちに、白石はそれまで付き合っていた4人の女たちに、冷徹な別れのメッセージを一斉送信した。もう他の女は必要ない。
「水の女王」との出会い
だが、その蜜月は、数ヶ月後にライバル黒崎が放った「一発の爆弾」によって、音を立てて粉々に砕け散った。
ケアンズ市街を一望するホワイトキャット本社ビル、最上階のCEO執務室。
重厚なデスクに座る白石の前には、発売と同時に高額なストリーミング料金を決済し、ダウンロードを終えたばかりの動画ファイルがあった。エドワード・黒崎の「ブラックドッグ」が、社運を賭けて世に放った動画プラットフォーム「VANTABLACK(ヴァンタブラック)」の『THE ABYSS PEARL : The Evolution SARAH』である。
「……見せてもらおうか。お前の言う『本物の深淵』とやらを」
白石が漆黒のデスクを指先で叩くと、壁一面を覆う100インチの超高精細モニターが静かに覚醒した。
画面が明転した瞬間、白石は息を呑んだ。
そこに映し出されたのは、光の届かない群青の世界。気泡一つ立てず、滑るように深海を征く一柱の女神――サラの姿だった。
カメラは、彼女の驚異的な潜行を克明に捉えていた。
水圧で肺が限界まで圧縮されているはずの深度でも、彼女の肢体には微塵の停滞もない。しなやかな背筋が躍動するたび、真珠のような光沢を放つ肌が、水の抵抗を愛撫するように受け流していく。
エリザベスが「技術」で泳ぐ元アスリートであるならば、このサラという女は、海そのものに愛された「野生」の化身だった。
エリザベスを赤子のように扱う圧倒的な潜水時間。
120メートルの暗黒の底で、事もなげに微笑んでみせる底知れぬ生命力。
そして、レギュレーターもなく、生身の肺一つで深淵の官能を貪るその表情には、白石がこれまでどんな女からも引き出せなかった「真の悦楽」が宿っていた。
「なんだ……これは……」
白石の喉が小さく鳴った。
手にしていたクリスタルのグラスが、指の震えでカチリと音を立てる。
画面の中のサラが、カメラ越しに白石の魂を凝視しているかのような錯覚に陥った。
エリザベスの完璧だと思っていたフォームが、急に色褪せた紛い物に見えてくる。
白石の端正な顔から、生気という名の光がじわじわと消えていった。
代わりに宿ったのは、ドロリとした重油のような暗い情熱。独占欲という名の狂気だ。
「黒崎……お前はこんな怪物を、その腕に抱いているのか」
モニターに映るサラの、水圧に耐え忍び、限界を超えて官能に震える肢体を見つめながら、白石の唇が歪な弧を描いた。
それは、ホワイトキャットのCEOとしてではなく、1人の狂信的な「水中フェチ」が、生涯の獲物を見定めた瞬間の笑みだった。
彼の視界にはただ1人、深淵で微笑む黄金の人魚の残像だけが、焼き付いて離れなくなったのである。
それ以来、彼はエリザベスへの態度を変えた。
「お前も8分潜れ」「おまえも200メートル潜水しろ」
不可能を強いる彼の言葉は、もはや愛ではなく、サラへの対抗心に満ちた命令へと変わっていった。
毎週土曜日、ライバル社が運営する「Abyss Cathedral」に通うようになった。
エリザベスの心は、次第に離れていく。
そして白石の視線は、まだ見ぬ「究極の獲物」――サラという名の深淵へと、真っ直ぐに注がれていったのである。
2021年8月。白石はAI開発企業の視察という名目で、単身シリコンバレーへ飛んだ。
カリフォルニアの強烈な陽光が降り注ぐサンノゼ。高層ビルの狭間にある「Jack in the Box」で、彼は1人、ジャンクなハンバーガーを頬張っていた。
「たまには、こういう庶民の味も悪くない……」
油ぎったポテトを口に運んだ、その時だった。
「お客様、申し訳ありません。ポテトにケチャップを付け忘れてしまいました。これ、お使いください」
凛とした声と共に、1人の女性店員がトレイに小さなケチャップの袋を置いていった。
白石の動きが止まった。
栗色の長い髪が、店内の冷房の風に揺れる。端正な顔立ちに、吸い込まれそうなほど大きな瞳。そして、制服越しにも分かる、発達した広背筋が生み出す広い肩幅。そこから伸びる腕と脚は、しなやかな筋肉の筋が浮き出た、彫刻のような機能美を湛えていた。
「おねえさん」
白石は口元の油をナプキンで拭い、最高の微笑みを浮かべた。
「少し話さないか? 当ててあげよう。君、もしかしてシンクロ(アーティスティックスイミング)の選手じゃないかな?」
女性は目を見開いた。
「……え? なぜそれを? どこかでお会いしましたっけ?」
直感が、白石の脳内で勝利の鐘を鳴らした。
何を隠そう、白石は重度の「水中フェチ」だった。
水に濡れた肌、無呼吸の中で蠢く肉体、その機能性に何よりも官能を感じる男だ。彼はその日のうちに彼女を口説き落とし、最高級のディナーへと誘い出した。
彼女の名はエリザベス・テイラー。元アーティスティックスイミング・アメリカ代表。しかし、肩の怪我によって夢を断たれ、この街で燻っていたのだ。
数日後、視察を終え、ホワイトキャットの本社があるケアンズへと向かうプライベートジェット。その豪華なキャビンには、白石の隣でシャンパングラスを傾けるエリザベスの姿があった。
彼女は、白石にとっての「正解」だった。
ある日、ケアンズ郊外の、観光客も寄り付かない秘密の入江。
エリザベスはそこで、自らの真価を解放した。
白石が見守る中、彼女はアメリカ国旗を上下にセパレートした極小の紐ビキニに着替え、遠くの岩場から、指先まで神経の通った完璧なフォームでダイブした。
水しぶきすら立てず、彼女はそのまま青の奥深くへと消える。一度も水面に顔を出さず、潜水だけで80メートルを泳ぎ切るその肺活量。
再び浮上した彼女は、次に、垂直に脚を突き出し、空を切り裂くようなシンクロの脚技を披露した。水面に咲く肉体の花。白石はその光景に、言葉を失った。
エリザベスの能力解放
しばらく経ってから
「どうせ誰にもバレないわ」
エリザベスは不敵に微笑み、水着を脱ぎ捨てて全裸になった。
2人は沖合まで泳ぎ、エメラルドグリーンの海水の中で、獣のように求め合った。
「エリザベス、潜るんだ」
白石の命令に従い、彼女は肺いっぱいに空気を詰め込むと、一気に水深15メートルの海底へと潜り込んだ。一糸纏わぬ肢体。平泳ぎで局部を惜しげもなく晒した。
その後、無酸素の静寂の中で2分間、海底に寝そべり、時折り笑みを浮かべて静止してみせる。
白石は水面に顔を出し、太陽の光を浴びながら、彼女が浮上してくるのを待った。やがて、水底から弾丸のように突き上げてきたエリザベスが、そのまま白石の太ももを掴み、彼の欲望を口に含んだ。無呼吸の余韻で震える舌使いに、白石は頭が真っ白になるほどの衝撃を受ける。
それだけでは終わらない。
白石は立ち泳ぎのまま、エリザベスを仰向けに寝かせ、彼女の頭だけを水中へと沈めさせた。彼女の肺は、結合の衝撃に耐えながら無酸素の限界に挑む。水面に波紋が広がり、水中では彼女の栗色の髪が海草のように揺れる。
さらに、白石は彼女の脚を自分の肩に担ぎ上げ、逆さまの状態でお互いの局部を深く愛撫し合った。水圧と重力、そして窒息の恐怖が混ざり合う極限のセックス。
「ああ……エリザベス……最高だ!」
白石は、波間で3回もの凄まじい絶頂を迎え、彼女こそが自分の終着点だと確信した。
その日のうちに、白石はそれまで付き合っていた4人の女たちに、冷徹な別れのメッセージを一斉送信した。もう他の女は必要ない。
「水の女王」との出会い
だが、その蜜月は、数ヶ月後にライバル黒崎が放った「一発の爆弾」によって、音を立てて粉々に砕け散った。
ケアンズ市街を一望するホワイトキャット本社ビル、最上階のCEO執務室。
重厚なデスクに座る白石の前には、発売と同時に高額なストリーミング料金を決済し、ダウンロードを終えたばかりの動画ファイルがあった。エドワード・黒崎の「ブラックドッグ」が、社運を賭けて世に放った動画プラットフォーム「VANTABLACK(ヴァンタブラック)」の『THE ABYSS PEARL : The Evolution SARAH』である。
「……見せてもらおうか。お前の言う『本物の深淵』とやらを」
白石が漆黒のデスクを指先で叩くと、壁一面を覆う100インチの超高精細モニターが静かに覚醒した。
画面が明転した瞬間、白石は息を呑んだ。
そこに映し出されたのは、光の届かない群青の世界。気泡一つ立てず、滑るように深海を征く一柱の女神――サラの姿だった。
カメラは、彼女の驚異的な潜行を克明に捉えていた。
水圧で肺が限界まで圧縮されているはずの深度でも、彼女の肢体には微塵の停滞もない。しなやかな背筋が躍動するたび、真珠のような光沢を放つ肌が、水の抵抗を愛撫するように受け流していく。
エリザベスが「技術」で泳ぐ元アスリートであるならば、このサラという女は、海そのものに愛された「野生」の化身だった。
エリザベスを赤子のように扱う圧倒的な潜水時間。
120メートルの暗黒の底で、事もなげに微笑んでみせる底知れぬ生命力。
そして、レギュレーターもなく、生身の肺一つで深淵の官能を貪るその表情には、白石がこれまでどんな女からも引き出せなかった「真の悦楽」が宿っていた。
「なんだ……これは……」
白石の喉が小さく鳴った。
手にしていたクリスタルのグラスが、指の震えでカチリと音を立てる。
画面の中のサラが、カメラ越しに白石の魂を凝視しているかのような錯覚に陥った。
エリザベスの完璧だと思っていたフォームが、急に色褪せた紛い物に見えてくる。
白石の端正な顔から、生気という名の光がじわじわと消えていった。
代わりに宿ったのは、ドロリとした重油のような暗い情熱。独占欲という名の狂気だ。
「黒崎……お前はこんな怪物を、その腕に抱いているのか」
モニターに映るサラの、水圧に耐え忍び、限界を超えて官能に震える肢体を見つめながら、白石の唇が歪な弧を描いた。
それは、ホワイトキャットのCEOとしてではなく、1人の狂信的な「水中フェチ」が、生涯の獲物を見定めた瞬間の笑みだった。
彼の視界にはただ1人、深淵で微笑む黄金の人魚の残像だけが、焼き付いて離れなくなったのである。
それ以来、彼はエリザベスへの態度を変えた。
「お前も8分潜れ」「おまえも200メートル潜水しろ」
不可能を強いる彼の言葉は、もはや愛ではなく、サラへの対抗心に満ちた命令へと変わっていった。
毎週土曜日、ライバル社が運営する「Abyss Cathedral」に通うようになった。
エリザベスの心は、次第に離れていく。
そして白石の視線は、まだ見ぬ「究極の獲物」――サラという名の深淵へと、真っ直ぐに注がれていったのである。
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