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【外伝】Episode-ゼロ 真珠の起源 第3章 王の奪還
3-2.英雄の代償、レジェンドへのチケット
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ニューカレドニアのアール島を去る日は、黒崎が帰還を宣言してから3日後に訪れた。
朝の海は驚くほど穏やかで、薄い雲が水平線の上をゆっくりと漂っていた。
島を包む静寂は、美しくもあり、同時に何かが終わる気配をはらんでいた。
数百メートル離れた駐車場にはパトカーが2台、また、上空からは黒崎を迎えにきた政府の救助ヘリのローター音が低く響き、静かな島に、文明の唸りが戻ってくる。
サラは波打ち際に立ち、白い砂に素足を埋めたまま、2機のヘリを見比べていた。
ジャン医師は遠くからも分かるほど疲れた顔で、それでも穏やかな微笑みを向けてくれる。
そんな再会の喜びの裏で、ただひとり、冷たい現実を突きつけられる者がいた。
政府の捜査官たちが、濃紺の制服に陽光を跳ね返しながらヘンリーの前へ歩み寄る。
「ヘンリー・西谷。オーストラリア国防サーバーへの不正アクセス、および複数の国際サイバー法違反の容疑で逮捕する。」
読み上げる声は機械のように無感情だった。
国家の根幹を揺るがす罪は重い。
手錠がカチリと音を立て、金属の輪がヘンリーの両手を縛る。
サラが息を呑み、黒崎は言葉を失い、ジャン医師は目を閉じて祈るようにうつむいた。
しかし当のヘンリーだけは、少しも怯えた様子を見せず、黒崎の方を振り向くと、不敵な笑みを浮かべた。
「いいんですよ、黒崎さん。IT界のレジェンドを救ったチケットで逮捕なんて、あとでみんなに自慢できますよ」
海風に髪を揺らしながら、軽く肩をすくめる。
軽口のようでいて、その目はどこか澄んでいた。
黒崎の胸の奥に、鋭い痛みが走る。
「……ヘンリー。本当にありがとう。君がいなかったら、俺たちは全員ここで終わっていた」
ようやく絞り出したその声は、かすかに震えていた。
「感謝してもしきれない。出所したら -- 必ず迎えに行く。これは約束だ」
ヘンリーは、ほんの一瞬、少年のように柔らかく笑った。
「その言葉、ログに残しときます」
捜査官たちに両脇を抱えられると、
彼は振り返ることなく、パトカーの待つ駐車場へと連行されていった。
サラが寂しそうに見つめている。
「ありがとう、サラ。あの時、海に飛び込んでくれなかったら……」
黒崎が言いかけると、サラは静かにキスをしてきた。
「あなたを海で失うなんて、想像もしたくなかったわ」
ジャン医師にも深く頭を下げ、黒崎の肩にそっと手を置いた。
その目は、深い海を思わせるように静かだった。
「また会いましょう、黒崎さん。あなたは——まだ物語の途中にいる人です」
ヘンリーを乗せたヘリが上昇し、黒崎はそれを追うように目で追った。
機影が点のように小さくなるまで。
そして黒崎は、自分を迎えにきた空港行きの機体へと歩き出す。
タラップを上がる足取りは静かだが、胸の内には、終わりと始まりが混ざり合うようなざわめきが確かにあった。
アール島を照らす光が、最後に機体の腹を黄金色に染めた。
それは、ひとつの神話の終わりであり、同時に -- 新たな「狂気」の始まりを告げる離陸だった。
朝の海は驚くほど穏やかで、薄い雲が水平線の上をゆっくりと漂っていた。
島を包む静寂は、美しくもあり、同時に何かが終わる気配をはらんでいた。
数百メートル離れた駐車場にはパトカーが2台、また、上空からは黒崎を迎えにきた政府の救助ヘリのローター音が低く響き、静かな島に、文明の唸りが戻ってくる。
サラは波打ち際に立ち、白い砂に素足を埋めたまま、2機のヘリを見比べていた。
ジャン医師は遠くからも分かるほど疲れた顔で、それでも穏やかな微笑みを向けてくれる。
そんな再会の喜びの裏で、ただひとり、冷たい現実を突きつけられる者がいた。
政府の捜査官たちが、濃紺の制服に陽光を跳ね返しながらヘンリーの前へ歩み寄る。
「ヘンリー・西谷。オーストラリア国防サーバーへの不正アクセス、および複数の国際サイバー法違反の容疑で逮捕する。」
読み上げる声は機械のように無感情だった。
国家の根幹を揺るがす罪は重い。
手錠がカチリと音を立て、金属の輪がヘンリーの両手を縛る。
サラが息を呑み、黒崎は言葉を失い、ジャン医師は目を閉じて祈るようにうつむいた。
しかし当のヘンリーだけは、少しも怯えた様子を見せず、黒崎の方を振り向くと、不敵な笑みを浮かべた。
「いいんですよ、黒崎さん。IT界のレジェンドを救ったチケットで逮捕なんて、あとでみんなに自慢できますよ」
海風に髪を揺らしながら、軽く肩をすくめる。
軽口のようでいて、その目はどこか澄んでいた。
黒崎の胸の奥に、鋭い痛みが走る。
「……ヘンリー。本当にありがとう。君がいなかったら、俺たちは全員ここで終わっていた」
ようやく絞り出したその声は、かすかに震えていた。
「感謝してもしきれない。出所したら -- 必ず迎えに行く。これは約束だ」
ヘンリーは、ほんの一瞬、少年のように柔らかく笑った。
「その言葉、ログに残しときます」
捜査官たちに両脇を抱えられると、
彼は振り返ることなく、パトカーの待つ駐車場へと連行されていった。
サラが寂しそうに見つめている。
「ありがとう、サラ。あの時、海に飛び込んでくれなかったら……」
黒崎が言いかけると、サラは静かにキスをしてきた。
「あなたを海で失うなんて、想像もしたくなかったわ」
ジャン医師にも深く頭を下げ、黒崎の肩にそっと手を置いた。
その目は、深い海を思わせるように静かだった。
「また会いましょう、黒崎さん。あなたは——まだ物語の途中にいる人です」
ヘンリーを乗せたヘリが上昇し、黒崎はそれを追うように目で追った。
機影が点のように小さくなるまで。
そして黒崎は、自分を迎えにきた空港行きの機体へと歩き出す。
タラップを上がる足取りは静かだが、胸の内には、終わりと始まりが混ざり合うようなざわめきが確かにあった。
アール島を照らす光が、最後に機体の腹を黄金色に染めた。
それは、ひとつの神話の終わりであり、同時に -- 新たな「狂気」の始まりを告げる離陸だった。
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