「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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【外伝】Episode-ゼロ 真珠の起源 第3章 王の奪還

3-4.王と女王の深淵契約

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2021年1月、彼は再びアール島の白い砂浜に立っていた。
 寄せては返す波の音だけが支配する夜の海岸。その静寂を切り裂くように、黒崎が手にしていた最新鋭のホログラム・プロジェクターを起動させる。

「サラ、君に捧げる城の図面だ」

彼の指先が宙を薙ぐと、虚空から青白いレーザー光が噴き出し、夜の海辺に巨大な光の建築群を構築していった。 
それは、重力を無視して浮かび上がる2つの特異な構造体。
1つは海面に咲くクリスタルの花のような円形劇場。

そしてもう一つは、海溝の底へと真っ向から突き刺さる、沈黙のシリンダーだ。
サラは、幻影のように揺らめく光の柱を、慈しむように指先でなぞった。

「……これは?」

「海底200メートルにまで達する垂直の迷宮だ。この底にある『漆黒の闇』……そこが、君の新しいステージになる」

黒崎の声は、冷たく、そして狂おしいほどに熱を帯びていた。
水圧に押し潰され、光さえも届かない絶望的な深度。
その最果てにある「無」を説明する黒崎の言葉に、サラは毒を吸い込むような恍惚とした表情で聞き入っている。

「……面白いわ。エドワード、あなたは海を切り取って、私をその中に閉じ込めるつもりなのね。永遠に解けない氷の中に、標本を閉じ込めるみたいに」

「……だが、文字通りの死地だ。引き返すなら今だ。君を失うリスクを、私は完全にコントロールできているわけではない」

「……私、いつ死んでもいいの。誰も困らない。こんな退屈な世界でただ生きていても、仕方ないんだもん」

サラは無邪気に、しかし残酷なほど美しい笑みを浮かべ、黒崎の首に細い腕を絡ませた。 
彼女にとって、その直径200メートルの垂直の筒は監獄ではない。

自分という存在が、世界の中心で最も鮮烈に輝くための、冷たくて残酷な「揺りかご」に見えた。

「本番までに、もっと深く、もっと長く……。死の淵を歩く練習をしておくわ。体も、心も……あなたの望むままに仕上げておく……」

彼女の囁きは、甘い呪文となって黒崎の鼓膜を震わせた。事故で損なわれ、再建されつつある彼の聴覚に、その声は直接脳を焼くような響きで届く。

「ところで……」

サラが不意に、いたずらっぽく小首をかしげた。

「お金は大丈夫なの? この施設作るの、島を1つ買うより高そうだけど」

(く…!まただ。時折、毒のように突き刺さる彼女の『常識人』としての発言……)

黒崎は苦笑を噛み殺した。
確かにこの狂気的なプロジェクトに、株主や社員の賛同など得られるはずもない。特に女性社員からは、サラを「死の淵に立たせて金にする」非人道的なビジネスだと猛反発を食らうだろう。

「あ、それと……」

黒崎が続ける。

「2021年1月1日付けで、サラはブラックドッグ社の特別社員ということにして、報酬と税金の両面からサポートをする」

つまり、もうすでに社員で、バイタルデータの提出や、日々の潜水トレーニングも「仕事のうち」ということになる。

黒崎の瞳には迷いはなかった。 
己の保有株を叩き売り、私財のすべてを投げ打ってでも、この「漆黒の聖域」を完成させる。サラに見透かされているその覚悟を、彼は不敵な笑みで肯定した。

「お金のことは心配ない。それよりサラ、自分の身体の心配をしてくれ。演者は君ひとりだ。君に倒れられたら終わりなんだ」

「……そうね……でも、そうなったら、私と一緒に死ねばいいの」

「まあな、おれはあの海で1回死んでるんだ。何も思い残すことはない。サラが倒れたら、おれの運もそこまでってことだ」

サラは黒崎の膝にそっと手を置く。
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