「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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【外伝】Episode-α 氷華の女王 第6章 カムチャッカの審判

6-1.海神の目撃

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翌朝。アール北端から、東へ沖合2km地点。 
そこは切り立った岩礁が迷宮のように連なる海域である。
複雑な潮流が岩肌を削り、海面下には熟練のダイバーですら侵入を拒む、死と隣り合わせの静寂が広がっていた。

サラは今、その紺碧の檻の最深部にいた。
水深60メートル。
届くはずの陽光は濾過され、視界は重厚なコバルトブルーに支配されている。

サラはいつものように、一糸纏わぬ全裸のまま、その肉体を深淵へと預けていた。 
この過酷な潜行こそが、彼女にとっての「聖域」だった。

肺胞は凄まじい水圧によってテニスボール大にまで圧縮され、血液は生命を維持するために四肢から脳と心臓へと集中する。
だが、サラの鼓動は驚くほど緩やかだった。
毎分わずか20回。
極限まで研ぎ澄まされた彼女の心肺機能は、一滴の酸素さえも無駄にしない「深淵の燃焼」を可能にしていた。

彼女の目の前には、長さ30メートルに及ぶ海中トンネルが、巨大な怪物の喉のように口を開けている。
サラは、しなやかな人魚のごとき動作で潜行を開始した。 

背中から臀部、そして大腿部にかけての躍動する筋肉は、水の抵抗を完璧に計算したかのように脈動し、力強いドルフィンキックが彼女を暗闇の奥へと押し出す。

トンネルの中央。
そこは一筋の光も届かない、完全なる無の世界だ。 
頼れるのは、肌で感じるわずかな水流の変化と、己の体内時計のみ。 

肺に溜めた最後の一息が、二酸化炭素の熱を帯びて喉を焼く。
生存本能が「呼吸をしろ」と脳に悲鳴を上げるが、サラはその絶望を冷ややかに踏みつけ、暗黒の水平潜水を続けた。

出口の先で、外光が揺らぎ始めた。 その幽かな光の糸を掴もうとした、その時だった。
突如として、水の分子が悲鳴を上げた。
 凄まじい低周波の振動が、サラの剥き出しの肌を、そして内臓を激しく叩き鳴らす。

――ズウゥゥゥ、という、地の底から響くような重低音。 
巨大なプロペラが水を切り裂き、キャビテーション(気泡)を発生させる異様な音が、静寂の深海を蹂躙した。

(……何!?)

サラがトンネルを抜け、反射的に岩陰に身を潜めた次の瞬間、視界を遮るように巨大な「影」が目の前を通過していった。

それは、全長100メートルを超える鋼鉄の怪物。
ロシアの最新鋭原子力潜水艦「カムチャッカ」である。
漆黒の船体は、気味の悪いほどの沈黙を湛えながら、膨大な水流を押し除け、まるで深海そのものを飲み込むように進んでいく。

その航跡によって生じた凄まじい乱気流が、サラの細い肉体を木の葉のように翻弄した。
潜水艦の背後に残された巨大な渦が、深海の砂を巻き上げ、視界を濁らせる。
サラは岩にしがみつき、その怪物が闇へと消えていくのを見送った。

1分以上そうしていただろうか。
サラは脚力を爆発させ、水面へ向けて緊急浮上を開始する。 
コバルトブルーからエメラルド、そして眩い白光の世界へ――。

海面に躍り出たサラは、大きく空気を吸い込み、肩で息をついた。
濡れた髪をかき上げたその瞳には、もはや安らぎはない。 

穏やかな楽園の底を這いずり回る、冷徹な暴力の気配。 
彼女はアール島の方角を見据え、未知の脅威に対する鋭い警戒の光を宿していた。
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