「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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【外伝】Episode-α 氷華の女王 第7章 最期の孤独

7-1.氷の着信

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時刻は16時ちょうど。

(コナミは無事に潜水艦にたどりついたかしら……)

東向きのテラスは、すでに建物の影に入り、しっとりとした落ち着きを見せていた。

サラは、先ほどまでの白の紐ビキニから清潔感のある白Tシャツに着替え、BBQの片付けに取りかかる。

手元では、頑固にこびりついた焼網の焦げを金たわしが削る、規則正しい音が響く。

隣では黒崎が手際よくコンロやテーブルを畳み、少し離れた場所ではヘンリーが大型水中ドローンの複雑なメカニズムと向き合っていた。

直射日光が消え、海から吹き抜ける風が少しだけ温度を下げる。
そんな穏やかな静寂を切り裂くように、黒崎のポケットで携帯電話が不吉な振動を繰り返した。

ディスプレイに表示されたのは、「非通知設定」の無機質な文字。

「……黒崎だ」

『……よく聞こえるな、資本主義のブタ。機体墜落でやられた鼓膜は、もう完治したのか?』

「……誰だ。何の電話だ、イタズラならよせ」

黒崎は不快感を露わにして通話を切ろうとした。その時、受話器の向こうから聞き慣れた、魂を切り裂くような悲鳴が響いた。

『エドワード、来ちゃだめ……! 罠よ、全部バレて……!』

「コナミ!?」

黒崎の顔から一気に血の気が引いた。その声に驚いたサラが、洗っていた焼網を落とし、足元に転がった。
再び、低く湿った男の声が戻る。

『……今のを聞けば、イタズラでないことは理解できたはずだ。私はSVRのイワン・ヴォルコフだ。女は預かった。……取引だ。お前が持つ「VANTABLACK」の全権掌握キー、「The Genesis Obsidian Pass(ジェネシス・オブシディアン・パス)」。それと、この女の命を引き換えてやる』

電話は一方的に切れた。
黒崎は表情を険しくさせ、スマートフォンの筐体が軋むほど握りしめたまま、隣で手を止めたサラとヘンリーにすべてを告げた。

「コナミが捕まった。座標は、南緯19.6310585、東経163.5318878。17時までにhe Genesis Obsidian Passを持ってこいと言っている。さもなければ、彼女を潜水艦の外装に縛り付けて、生きたままウラジオストックまで運ぶそうだ」

「そんな……!」

サラが絶句し、その透き通った瞳に激しい動揺が広がる。

「……行ってあげて、エドワード」

サラは震える手で黒崎の逞しい腕を掴み、真っ直ぐに彼の目を見つめた。
その瞳には涙が溜まっていたが、声には揺るぎない覚悟があった。

「命が金で済むなら、そんなの安いものだわ」

黒崎は沈黙し、一瞬だけ燃えるような水平線の先を睨んだ後、サラの手を優しく、しかし確実に解いた。

「……サラ、少し待っていてくれ」

16時30分。
黒崎は迷いのない足取りで最新鋭のモーターボートに飛び乗ると、イグニッションを回した。
直後、猛獣が咆哮を上げたかのような爆発的なエンジン音がアール島の静寂を粉砕した。

彼はコックピットのタッチパネルを指先で弾き、ヴォルコフが告げた運命の座標

南緯19.6310585、東経163.5318878

を素早く入力した。

「……待っていろ、コナミ」

黒崎は単身、まだ高い位置にある太陽が海面を白く焼き付ける沖合へ、ボートを鋭く加速させた。

時計の針はもうすぐ17時。
空の青は深みを増し始め、水平線の彼方にはわずかな黄金色の予兆が滲みつつあるが、世界はいまだ眩い光の支配下にある。

白い航跡が、ぎらつく水面を切り裂く刃のようにまっすぐ伸びていく。 

潮風を受けるたび、ジャケットの内側にしまい込んだ“帝国の鍵”──50億の価値を持つ冷たい金属が、彼の胸元でわずかに揺れ、存在を強く主張した。

日の入りまでは、まだ2時間弱ある。
だが、確実に角度を変え始めた陽光は、黒崎の影を海の上でじわじわと長く引き伸ばしていた。

彼は視線を前方に固定し、白銀に輝く大海原が、やがて来る橙の刻限へと移ろいゆく気配の中、迷いなくボートを走らせ続けた。
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