「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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【外伝】Episode-α 氷華の女王 第7章 最期の孤独

7-2.漆黒の死刑台

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太陽が傾きかける時刻、海面が深い群青色に染まり始める頃、黒崎の最新鋭ボートは指定された座標へと到達した。

水平線の彼方から、巨大な鉄のクジラが波を割って姿を現す。
ロシア連邦の誇る原子力潜水艦「カムチャッカ」だ。
その鈍く光る船体は、周囲の熱帯の海を拒絶するように冷淡にそびえ立っていた。

黒崎はエンジンの回転を落とし、ゆっくりと潜水艦の横腹へとボートを寄せた。

艦橋(ブリッジ)の上には、数人の人影がある。
中央に立つ冷酷な眼差しの男がイワン・ヴォルコフだろう。
その傍らには、見るに忍びない姿のコナミがいた。

彼女は、昼間の入り江でサラと笑い合っていた時のまま、黄色い極小の紐ビキニ一丁だった。
しかし、その白い肌は潜水艦内部の冷気に晒されたせいか青白く、両脇を屈強なロシア兵に万力のような力で掴まれている。

さらに、彼女の細い足首には無骨なロープが幾重にも巻き付けられ、その先は潜水艦の外装にある係留用のクリートへと堅固に結ばれていた。
ヴォルコフが合図一つ下せば、彼女はそのまま海中へと引きずり込まれる運命にある。

黒崎はボートのデッキに立ち、艦橋を見上げた。

「約束のものを持ってきたか?」 

ヴォルコフの声が、拡声器を通さずとも潮風に乗って低く響く。
黒崎は懐から、鈍い銀色の光を放つ特注の通信デバイスを取り出し、それを高く掲げた。

「『The Genesis Obsidian Pass』……これがあれば、世界中のVANTABLACKサーバーに分散された100時間以上の動画、そのすべてにアクセスが可能になる。だがな、ヴォルコフ。これほどのデータ量はテラバイトを遥かに超える。物理的なディスクやチップで渡せるような代物じゃないんだ」

黒崎の声は、エンジンのアイドリング音を突き抜けて冷徹に響いた。

「このデバイスをすぐにこの船のPCに繋ぐんだ。俺のバイタルデータと直結している。俺が今、この場でクラウドの所有権を移転させ、お前の指定する秘匿サーバーへ全データを流し込む。データ移行には時間がかるが、それが唯一の譲渡方法だ。……ただし、条件がある」

黒崎は、足首を縛られたまま震えるコナミを鋭く見据えた。

「先にそのロープを解け。彼女をこのボートに乗せろ。データ転送のプログレスバーが100%になった瞬間、彼女の自由と、お前の50億ドルの権利を交換だ」

ヴォルコフは鼻で笑い、コナミの髪を乱暴に掴み上げた。

「交渉の主導権がどちらにあるか、まだ理解していないようだな、黒崎。……デバイスを物理的に回収する。細工ができないように、まずはその端末をこちらへよこせ」

一触即発の緊張が、南緯19度の海上に張り詰めた。
ヴォルコフの顔に、サディスティックな歪んだ笑みが浮かんだ。

「うむ、だが気が変わった。交渉は決裂だ。お前は自分の『帝国』と、この女の重さを量り間違えたようだな」

言うが早いか、ヴォルコフはコナミの細い肩を乱暴に突き飛ばした。

「きゃーっ!」

短い悲鳴を残し、黄色いビキニを纏ったコナミの体が艦橋から空を舞い、海面へと叩きつけられた。
バシャー! と大きな水飛沫が上がり、彼女の姿が紺碧の海に消える。
足首に結ばれたロープが潜水艦の鋼鉄の縁で嫌な音を立てて鳴り、彼女を艦の側面に繋ぎ止めた。

「コナミ!!」 

黒崎が身を乗り出して叫んだ、その瞬間だった。
ボートの背後から音もなく這い上がっていたウェットスーツ姿のダイバーが、手にしていた特殊合金の棒を振り下ろした。

 鈍い衝撃が黒崎の延髄を直撃する。
視界が急速にブラックアウトし、彼は甲板に崩れ落ちた。
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