「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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【外伝】Episode-α 氷華の女王 第7章 最期の孤独

7-3.執行の時

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……頬を叩く冷たい飛沫と、重苦しい波の音で意識が戻った。
黒崎が薄く目を開けると、すぐ目の前にコナミの顔があった。

「エドワード……起きて、エドワード!」

2人は、海面で互いに抱きしめ合うような格好で浮いていた。
だがそれは愛の抱擁ではない。

コナミの足首を縛るロープが、そのまま黒崎の足首にも複雑に絡みつき、2人を一つの「重り」として潜水艦カムチャッカに繋ぎ止めていたのだ。

「目が覚めたか、エロ監督。……ブツ(デバイス)は頂いたよ」

艦橋の上で、ヴォルコフが黒崎のデバイスを弄びながら見下ろしていた。
その傍らには、黒崎のボートから奪い取られたばかりのシャンパングラスがあり、赤いワインが注がれている。

「安心しろ、2人の両手は自由にしておいてやった。その方が、死の間際に必死にもがき、互いを沈め合いながら苦しむ様がより美しく見えるからな。……フフフ、最高の余興だ」

サディストの極みにあるヴォルコフは、人間が水中で酸素を渇望し、愛する者さえも踏み台にして生きようとする醜い末路を、ワイン片手に見守るのが趣味だった。
ヴォルコフは続ける

「それが済んだら、あとはウラジオストックまでの長い航海、ゆっくり動画を拝見させてもらうさ」

声高らかに笑うイワン。

「ではお2人さん、あの世でお幸せに」

ヴォルコフは冷酷に言い残すと、部下たちを引き連れてハッチの中へと消えた。
重厚な金属音が響き、潜水艦は完全に密閉される。

艦内のコントロール・センター。
ヴォルコフはモニターに映し出される、海面で身を寄せ合う2人の姿を凝視しながら、冷徹な声で命じた。

「これより潜行を開始する。ベント開け。両舷潜行、潜航角10度、速度8ノット!」

ゴォォォ……という不気味な注水音が海面に響き渡る。巨大な鉄の塊が、ゆっくりと、しかし確実にその背中を沈め始めた。

「エドワード、来るわ……!」

コナミが黒崎の目を見つめた。

「ああ。……吸え、限界まで!」

2人は、足首にかかるロープがピンと張るまでの数秒間、南太平洋の湿った空気を肺の奥深くまで吸い込んだ。
そして、互いの腕を強く回し、視線を交わしたまま、酸素を止めた。

コナミの瞳には、かつてハワイの海で見せたあの野性的な光が宿っていた。
しかし、今の黒崎に10年前のような動揺はない。
この半年間、アール島北端でサラの過酷な指導に耐え、血を吐くような思いで心肺能力を鍛え上げてきたのだ。

黒崎は落ち着き払った動作で、横隔膜を押し下げるように深く、長く、南太平洋の湿気を孕んだ空気を肺胞の隅々まで送り込んだ。
サラやコナミのような「天性」の潜水能力には及ばずとも、今の彼は、一分一秒の酸素をどう管理すべきかを熟知している。

直後、荒れ狂う水流が押し寄せ、2人の体は一気に海面下へと叩き落とされた。
潜航角10度。時速8ノット。 
垂直方向への降下速度は秒速約0.7メートル。

一般人ならパニックで酸素を無駄に消費する深度変化だが、サラとの特訓を積み重ねてきた黒崎にとって、この程度の気圧変化はすでに計算の内だった。
水深10メートル、15メートル……。 

周囲は急速に光を失い、紺碧から深い藍色へと色彩を変えていく。
潜水艦の鋼鉄の肌を滑る水流が、2人の肢体を激しく叩く。
黒崎は、自身の心拍が跳ね上がるのを意志の力で抑え込んだ。

艦内のモニターを凝視するヴォルコフは、ワイングラスの縁を指でなぞりイワン、怪訝そうに眉をひそめた。

「……ほう。思っていたより余裕があるようだな」

画面の中、2人は海中で静かに抱き合っている。
コナミは水中でパッチリと目を開け、艦橋のカメラを睨みつけていた。
彼女の腕の中にある黒崎の体は、かつての弱々しさはなく、岩のように安定している。

黒崎は、彼女の柔らかな肌から伝わる冷徹な闘志を感じながら、自身の意識を研ぎ澄ませていた。

(エドワード……信じられない。あなた、サラさんのおかげでこれほど……)

水中で視線を交わしたコナミの瞳に、驚きが走る。
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