「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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【外伝】Episode-α 氷華の女王 第7章 最期の孤独

7-4.幻想の大陸棚

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アール島の西の海上、乗り捨てられたモーターボート周辺に、ヘンリーの操作するモーターボートが猛烈な爆音とともに航跡を描いていた。

「まずい、タッチの差だったな。潜航しちゃった……!」

ヘンリーの膝の上にある防塵PCのモニターには、奪われたデバイスのGPSを追尾して表示された「カムチャッカ」の位置を示す赤い点が、ゆっくりと深海へと沈んでいく様子が映し出されていた。

「以前、ヘリを巻いた時みたいに、何かできないの?」

隣でモニターを覗き込むサラが、焦燥を滲ませて問いかける。
潮風にたなびく彼女の金髪は、先ほどコナミが見つけたテヴァリエ家伝来のエパングルによって美しくまとめられていた。

「なるほど!その手があったか。よし……偽の大陸棚をお見舞いしてやる!」

ヘンリーの指が、鍵盤の上を狂ったように踊り始めた。
かつてオーストラリア政府の眼を盗んだその天才的なハッキング・スキルが、衛星通信を経由して潜水艦のソナー・システムへと侵入を開始する。

「ソナーの音響ライブラリに偽の地形データを上書きする。奴らの目には、すぐ目の前に巨大な岩礁が現れたように見えるはずだ!」

ヘンリーの指が、キーボードを鍵盤楽器のように叩き続ける。
モニターには「カムチャッカ」の潜行ベクトルと、水深が出ている。浮上し始めた!

「サラ、いまだ! 水中ドローンより君の方が潜るのが速い。最短コースを計算したこの真下に来るはずだ。誘導のために水中ドローンで下をライトで照らすぞ!」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、サラは迷いのない動作で着ていた白いTシャツを脱ぎ捨てた。
傾いた太陽の光を浴びて輝く、一点の曇りもない全裸の肢体。

彼女はそのまま、吸い込まれるような碧い海へと、矢のようなフォームで飛び込んだ。
ヘンリーは水中ドローンを放った。
その光の柱は、暗く濁り始めた深海を切り裂く「命の道標」となった。

潜水艦のハッチに繋がれたロープが、死の牽引索となってサラとコナミを深海へと引きずり込んでいく。
水深60メートル、意識が朦朧とし、人形のように揺れる黒崎。

その傍らで、コナミは黒崎を抱きしめ自らの運命を悟り、凍てつく水の中で瞳を閉じた。
潜行を続ける「カムチャッカ」が水深70メートルに達したその時、艦内に異変が起きた。

潜水艦カムチャッカの艦内。
突然、真っ赤な警告灯が回転し、耳を劈くような警報音が鳴り響いた。

「前方、至近距離に障害物! 大陸棚の隆起です! 回避不能!」

「馬鹿な、海図には何もないはずだぞ!」

ヴォルコフがモニターに駆け寄る。
ソナーの画面には、突如として巨大な壁のような地形が映し出されていた。

「ベント開け! 急浮上だ! 衝撃に備え!」

艦内がパニックに陥り、水深60メートル……50メートル……40メートル。 
周囲がわずかに明るさを取り戻し始めた
その束の間の猶予。

コナミは気を失いかけた黒崎の唇を奪い、自らの肺に残された貴重な空気を送り込む。

「……生きて、エドワード」

その時、進行方向の頭上の暗い藍色の空から、サーチライトの光を背負った「黄金の影」が降りてきた。
全裸のサラだ。

彼女は、水の抵抗を一切感じさせない完璧な流線型を描き、急浮上する巨大な潜水艦の速度を、まるでもどかしい歩みであるかのように軽々と追い越していく。

半年間の特訓を経て、黒崎も常人離れした潜水時間を手に入れていたが、サラのそれは次元が違った。
彼女の肺は、水深40メートルの高圧下にあっても、酸素を細胞の隅々まで完璧に配分し、乳酸の蓄積を許さない。鍛え抜かれた大腿四頭筋と背筋が、魚の尾鰭のようなしなやかさで海水を捉え、推進力へと変換していた。

潜水艦から繋がれた2人の元へ、サラが到達する。
彼女は泡一つ立てず、コナミと視線を交わした。

その瞳には「お待たせ」という、深淵の女神だけが持ち得る静かな微笑みがあった。
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