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【外伝】Episode-α 氷華の女王 第7章 最期の孤独
7-5.怒りの潜航
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急浮上を続ける「カムチャッカ」の艦内には、狂気的な焦燥が渦巻いていた。
「おかしい……この海域は海溝も近く、大陸棚など海図には存在しないはずだ!」
イワン・ヴォルコフは、赤く点滅する警告灯の下でソナーの不規則な波形を睨みつけた。
その時、外部監視モニターの隅に、信じがたい光景が映し出される。
暗い藍色の深淵から、一筋の黄金の閃光が、潜水艦の巨体を追い抜くスピードで降りてくる。
「な……! いつの間に! この女は……サラか!」
ヴォルコフは弾かれたように潜望鏡へと飛びつき、接眼レンズに血走った目を押し当てた。
そこに広がっていたのは、ソナーが告げる「絶壁」などではない。
どこまでも透き通った、眩いばかりのコバルトブルーの世界。
そして、その蒼光の中を、全裸の女神が重力さえ無視して優雅に舞い降りる姿だった。
「くそ、やられた! 大陸棚なんてないぞ!何が起きている?!」
ヴォルコフは怒りに任せて、手にしていたワイングラスを制御盤の角に叩きつけた。
クリスタルが砕け散り、赤い液体が計器類に飛び散る。
「全艦、騙されるな!浮上中止。両舷潜行、潜航角10度――最大戦速だ!」
現在、水深25メートル、再び、カムチャッカの推進プロペラが猛然と回転を上げ、深海へ向かってその巨大な鼻先を突き立てた。
ゴォォォ……ッ!
という不気味な水切り音が響き、周囲の光が急速に失われていく。
水深40メートル……50メートル。先程とは比べ物にならない速度だ。
サラは必死にロープにつかまる。反対の手で自身の髪に手を伸ばし、あの銀色のエパングル(かんざし)を鮮やかに抜き取った。 その瞬間、まとめられていた金髪が水中で華やかに広がり、水中ドローンのサーチライトを受けてオーロラのように揺らめいた。
「……!」
コナミは驚愕に目を見開いた。自分が海底の砂の中から拾い上げ、サラの手に戻したあのエパングルが、今、自分たちを死の呪縛から解き放つ唯一の剣となったのだ。
サラは、潜水艦の外装を滑る時速35ノットの激しい水流に、その全裸の肢体だけで抗った。
腹斜筋が岩のように固く引き締まり、水の圧力に真っ向から立ち向かう。
彼女はコナミの足首にあるロープの結び目へ、エパングルの鋭い先端を迷いなく突き立てた。
一突き、二突き。
深海の高圧によって石のように硬く締め付けられたナイロン製の結び目が、銀の穂先によって強引に抉じ開けられていく。
サラの腕の筋肉が、精密な彫刻のように浮き出し、水中で凄まじい出力を発揮した。
コナミもまた、自身の心肺の限界を超えながら、サラの動きをサポートするために体を反転させ、両手でロープを掴んだ。
「氷の女王」と「水の女王」。
2人の女王の視線が、暗く冷たい海の中、火花を散らすように重なった。
欺瞞を察知した潜水艦は、怒涛の勢いで再潜行している。
「おかしい……この海域は海溝も近く、大陸棚など海図には存在しないはずだ!」
イワン・ヴォルコフは、赤く点滅する警告灯の下でソナーの不規則な波形を睨みつけた。
その時、外部監視モニターの隅に、信じがたい光景が映し出される。
暗い藍色の深淵から、一筋の黄金の閃光が、潜水艦の巨体を追い抜くスピードで降りてくる。
「な……! いつの間に! この女は……サラか!」
ヴォルコフは弾かれたように潜望鏡へと飛びつき、接眼レンズに血走った目を押し当てた。
そこに広がっていたのは、ソナーが告げる「絶壁」などではない。
どこまでも透き通った、眩いばかりのコバルトブルーの世界。
そして、その蒼光の中を、全裸の女神が重力さえ無視して優雅に舞い降りる姿だった。
「くそ、やられた! 大陸棚なんてないぞ!何が起きている?!」
ヴォルコフは怒りに任せて、手にしていたワイングラスを制御盤の角に叩きつけた。
クリスタルが砕け散り、赤い液体が計器類に飛び散る。
「全艦、騙されるな!浮上中止。両舷潜行、潜航角10度――最大戦速だ!」
現在、水深25メートル、再び、カムチャッカの推進プロペラが猛然と回転を上げ、深海へ向かってその巨大な鼻先を突き立てた。
ゴォォォ……ッ!
という不気味な水切り音が響き、周囲の光が急速に失われていく。
水深40メートル……50メートル。先程とは比べ物にならない速度だ。
サラは必死にロープにつかまる。反対の手で自身の髪に手を伸ばし、あの銀色のエパングル(かんざし)を鮮やかに抜き取った。 その瞬間、まとめられていた金髪が水中で華やかに広がり、水中ドローンのサーチライトを受けてオーロラのように揺らめいた。
「……!」
コナミは驚愕に目を見開いた。自分が海底の砂の中から拾い上げ、サラの手に戻したあのエパングルが、今、自分たちを死の呪縛から解き放つ唯一の剣となったのだ。
サラは、潜水艦の外装を滑る時速35ノットの激しい水流に、その全裸の肢体だけで抗った。
腹斜筋が岩のように固く引き締まり、水の圧力に真っ向から立ち向かう。
彼女はコナミの足首にあるロープの結び目へ、エパングルの鋭い先端を迷いなく突き立てた。
一突き、二突き。
深海の高圧によって石のように硬く締め付けられたナイロン製の結び目が、銀の穂先によって強引に抉じ開けられていく。
サラの腕の筋肉が、精密な彫刻のように浮き出し、水中で凄まじい出力を発揮した。
コナミもまた、自身の心肺の限界を超えながら、サラの動きをサポートするために体を反転させ、両手でロープを掴んだ。
「氷の女王」と「水の女王」。
2人の女王の視線が、暗く冷たい海の中、火花を散らすように重なった。
欺瞞を察知した潜水艦は、怒涛の勢いで再潜行している。
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