「深淵のサラ」 〜極限の潜水パフォーマンスに挑む金髪の美姫。独占欲に溺れるCEOと、立ちはだかる女帝たち〜

Mina_Underwater

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【外伝】Episode-α 氷華の女王 第7章 最期の孤独

7-6.鋼の肉体

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水深60メートル。
そこは光が死に絶えた、紺碧の墓標だった。
凄まじい外圧がサラの全身を蹂躙し、その肺胞をテニスボールほどの大きさにまで無慈悲に押し潰す。

しかし、彼女の鍛え上げられた胸郭は、内側から爆発せんばかりの生命力を湛え、心臓を守る「不落の装甲」と化していた。

水深80メートル。 
暗黒のなか、窒素が猛毒となって彼女の神経を侵食し始める。
意識を混濁させる「窒素酔い」の魔手がサラの精神を揺さぶるが、その瞳に宿る執念の火は消えない。

「――まだだ」

サラの背中を覆う広背筋が、深海の高圧を跳ね返すように脈動する。
鋼鉄のように硬化したロープに指をかけ、大胸筋と上腕三頭筋を極限まで膨張させた。
ミシミシと肉が軋む音とともに、繊維の一本一本を力ずくで引きちぎっていく。

傍らでは、激痛の絶叫が泡となって消えていた。 
逃げ場のない水圧が黒崎の耳管を蹂躙し、ついに鼓膜が破裂。
鮮血が水中に舞う。 

だが、その隣に座すコナミは異様だった。
彼女は手を使わずに耳管を開く特殊能力を駆使し、静止画のような無表情を保ったまま、死の圧力を受け流している。
コナミの腹直筋は、わずかな酸素を効率的に循環させるため、精密機械のように規則正しく、かつ強固に固まっていた。

潜行を続ける潜水艦に引きずられ、コナミの足首に絡みついたロープは、巨大な力に引かれて鉄線のように硬く、鋭く張り詰めていた。これではエパングルの刃を差し込む隙間などどこにもない。

その絶望的な硬直を打破したのは、他ならぬコナミ自身だった。

意識が遠のく窒素酔いの霧を、彼女は強靭な精神力で切り裂く。
幸いにも自由だった両腕。

彼女は自らの腹直筋を急激に収縮させ、水圧に逆らって上体をエビのように反転させた。
広背筋が猛烈に波打ち、深海の重圧を撥ね退けながら、足首へと続く「死の索条」をその両手で掴み取る。

「――っ!」

無音の咆哮とともに、コナミは上腕二頭筋と大胸筋を爆発的に膨張させた。 潜水艦が引く張力に対し、自らの肉体をアンカー(錨)として真っ向から抗う。
彼女が渾身の力でロープを手繰り寄せた瞬間、ピンと張っていた繊維に、わずか数センチの「たるみ」が生まれた。

その刹那の余裕を、サラは見逃さなかった。 肺胞が潰れ、心臓が悲鳴を上げる極限の心肺状況下で、サラの指先が閃く。

 コナミが自らの筋肉を千切れんばかりに酷使して生み出したその僅かな「緩み」に、エパングルの先端が鋭く、正確に突き立てられた。

2人の人魚の、言葉を超えた肉体の共鳴。
互いの心肺機能が限界を告げるアラートを鳴らすなか、硬化したロープの結び目は、ついにその抵抗を止めた。

サラの指先から溢れ出した鮮血が、黒い霧となって深淵に溶けていく。
エパングルの鋭利な先端が、高圧で岩のように硬くなった結び目に食い込んだ。 
心拍数は極限を超え、毛細血管が悲鳴を上げる。

しかし、彼女の意志は肉体の限界を拒絶した。
格闘すること、わずか15秒。 
その刹那、死神の指先のように冷たかったロープが、サラの剛力によってついに屈服した。

弾けるように解かれた索条が、深海の闇へと漂い去る。 
潜水艦という巨大な鉄の怪物から切り離された3人の身体は、ついに死の牽引から解放され、母なる海へと解き放たれた。
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