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「クロエル、様……っ。ああ、クロエル様……!!」
マリエル様が、周囲の視線も構わずに私に飛びついてきました。
純白のドレスが、私の紺色のドレスと重なり、美しいコントラストを描きます。
(ちょっと待って、マリエル様! 離れてくださいまし! 私はあなたを裏切った悪女なんですのよ! そんなふうに泣きつかれたら、私の計画が台無しですわ!)
私は必死に彼女を突き放そうと、両手を彼女の肩に添えました。
「……離れてちょうだい、マリエル様! 汚らわしい……っ」
(汚らわしい悪女の私に触れないで! あなたの清らかな魂が汚れてしまうわ!)
――ググッ。
喉の奥に、鉄を溶かしたような熱い真実がせり上がってきます。
チョーカーが、かつてないほど眩い紫色の閃光を放ちました。
「……離れてちょうだい、マリエル様! ……なんて、本当は片時も離したくないほど、あなたのことが愛おしくてたまりませんの! ああ、その柔らかな肌の感触、懐かしいお花の香り……。私、あなたと離れている間、寂しくて寂しくて、夜な夜な枕を濡らしていたんですのよ……!!」
「クロエル様……! 私も、私もですわ! あなたが急に『浮気をした』なんておっしゃって、殿下と私を無理やり結びつけようとなさるから……。私、本当は分かっていましたの。あなたがどれほどお優しい方か……っ」
「……何をおっしゃるの!? 私は本当に、不実な女ですのよ! 殿下のことなんて、これっぽっちも愛していなかったのは事実ですわ……っ」
(……ええ、愛していなかったのは事実よ。だって、殿下は私にとって『守るべき弟』みたいな存在だったんですもの。マリエル様とお似合いだと思って、仲を取り持ったのは私なんだから!)
「……殿下のことなんて、これっぽっちも愛していなかったのは事実ですわ! ……だって、私にとって殿下は、ただの『恋愛に疎い、手のかかる残念な幼馴染』でしかありませんでしたもの! そんな方より、あなたの幸せの方が、私にとっては一兆倍も大事なんですのよ!!」
「…………っ」
会場に、冷ややかな、しかしどこか納得したような沈黙が広がりました。
その沈黙を破ったのは、呆然と立ち尽くしていた王太子、ジュリアン様でした。
「……クロエル。今、私のことを『残念な幼馴染』と言ったか?」
「あら、聞こえていらしたの? 失礼いたしましたわ。……ええ、そうですわ。あなたは……っ」
(あなたは、もっとしっかりしていただかないと、マリエル様を幸せにできませんわよ!)
「……あなたは、もっとしっかりしていただかないと、マリエル様を幸せにできませんわよ! 本当は、あなたの真っ直ぐで馬鹿正直なところ、少しだけ評価してあげていたんですの。だからこそ、私という『泥を被る役』を演じて、あなたたちに道を譲ったんですからね! 感謝してちょうだい!」
「……泥を、被る役……?」
ジュリアン様が、震える声で繰り返しました。
周囲の貴族たちからも、ざわめきが起こります。
「まさか、ピエリス令嬢のあの不祥事は……すべて嘘だったのか?」
「王太子殿下とマリエル様を結ばせるために、あえて自分が悪役を……?」
(まずいわ。まずいわよ。隠しておきたかった真相が、このお喋りな首輪のせいで、ボロボロと溢れ出しているわ!)
私は顔を真っ赤にして、アッシュ様の背中に隠れようとしました。
ですが、アッシュ様は逃がしてくれません。
彼は私の腰をがっしりと抱き寄せ、勝ち誇ったような笑みを浮かべて会場を見渡しました。
「諸君、聞いた通りだ。私の婚約者……クロエルは、稀代の嘘つきなどではない。……誰よりも自己犠牲を厭わない、愚かなほどに慈悲深い聖女だ」
「あ、アッシュ様……! 勝手なことを言わないでくださいまし!」
「本当のことだろう? クロエル。君は今、マリエルの幸せを見て、心から喜んでいる……。そうだろ?」
アッシュ様が、私の耳元で優しく、けれど逃げ場のない声で囁きました。
「……っ……。ええ、そうですわ……」
(ええ、そうですわ。マリエル様の笑顔が、私にとっての救いなんですもの。……でも、それを本人の前で認めるなんて、恥ずかしくて死にそうですわ……!)
「……ええ、そうですわ。マリエル様の笑顔が見られるなら、私、公爵夫人としての地位も、自分の名誉も、全部ゴミ箱に捨てても構わないって思っているんですのよ! マリエル様、愛しているわ! 殿下、マリエル様を泣かせたら、私が地獄の果てまで追いかけて、あなたをコテンパンにして差し上げますからね!」
私は、ついにマリエル様を抱きしめ返して、わんわんと泣き出してしまいました。
嘘をつき続けるのは、本当はとても苦しかった。
親友に嫌われる覚悟で、一人で悪役を演じるのは、夜が怖くなるほど寂しかった。
「クロエル様……、ありがとうございます。私、あなたを一生、お守りしますわ……!」
「……ふん。守られるのは、私の方ですわ」
アッシュ様が、私の涙を親指でそっと拭いました。
「これ以上の『真実の吐露』は、彼女の心臓が持たないようだ。ジュリアン殿下。……これで、彼女の身の潔白は証明された。異論はありませんな?」
「……ああ。……すまなかった、クロエル。私は、君の優しさに甘えていただけだったのだな」
ジュリアン様が、深々と頭を下げました。
王太子が臣下に頭を下げるなど、前代未聞の出来事です。
会場中から、非難の視線ではなく、温かな……そして、どこか崇めるような拍手が沸き起こりました。
(違うの。私は悪女なの。不実な、最低の女として追放されたかったのに……!)
私の魂の叫びは、またしても華麗にスルーされ、私は「愛の聖女」として、一躍社交界のヒロインへと祭り上げられてしまったのでした。
アッシュ様の腕の中で、私は「もうどうにでもなれ」と、半ばやけくそで彼の胸に顔を埋めました。
「……アッシュ様、……あなたのこと、……本当は……」
(本当は、……世界で一番、頼りにしていますわ……)
「……本当は、……宇宙で一番、愛していますわ! 今すぐ私を、誰もいないところへ連れ去って、朝まで可愛がってちょうだい……!」
「…………。善処しよう」
アッシュ様の理性が、再び音を立てて崩壊する音が聞こえた気がしました。
マリエル様が、周囲の視線も構わずに私に飛びついてきました。
純白のドレスが、私の紺色のドレスと重なり、美しいコントラストを描きます。
(ちょっと待って、マリエル様! 離れてくださいまし! 私はあなたを裏切った悪女なんですのよ! そんなふうに泣きつかれたら、私の計画が台無しですわ!)
私は必死に彼女を突き放そうと、両手を彼女の肩に添えました。
「……離れてちょうだい、マリエル様! 汚らわしい……っ」
(汚らわしい悪女の私に触れないで! あなたの清らかな魂が汚れてしまうわ!)
――ググッ。
喉の奥に、鉄を溶かしたような熱い真実がせり上がってきます。
チョーカーが、かつてないほど眩い紫色の閃光を放ちました。
「……離れてちょうだい、マリエル様! ……なんて、本当は片時も離したくないほど、あなたのことが愛おしくてたまりませんの! ああ、その柔らかな肌の感触、懐かしいお花の香り……。私、あなたと離れている間、寂しくて寂しくて、夜な夜な枕を濡らしていたんですのよ……!!」
「クロエル様……! 私も、私もですわ! あなたが急に『浮気をした』なんておっしゃって、殿下と私を無理やり結びつけようとなさるから……。私、本当は分かっていましたの。あなたがどれほどお優しい方か……っ」
「……何をおっしゃるの!? 私は本当に、不実な女ですのよ! 殿下のことなんて、これっぽっちも愛していなかったのは事実ですわ……っ」
(……ええ、愛していなかったのは事実よ。だって、殿下は私にとって『守るべき弟』みたいな存在だったんですもの。マリエル様とお似合いだと思って、仲を取り持ったのは私なんだから!)
「……殿下のことなんて、これっぽっちも愛していなかったのは事実ですわ! ……だって、私にとって殿下は、ただの『恋愛に疎い、手のかかる残念な幼馴染』でしかありませんでしたもの! そんな方より、あなたの幸せの方が、私にとっては一兆倍も大事なんですのよ!!」
「…………っ」
会場に、冷ややかな、しかしどこか納得したような沈黙が広がりました。
その沈黙を破ったのは、呆然と立ち尽くしていた王太子、ジュリアン様でした。
「……クロエル。今、私のことを『残念な幼馴染』と言ったか?」
「あら、聞こえていらしたの? 失礼いたしましたわ。……ええ、そうですわ。あなたは……っ」
(あなたは、もっとしっかりしていただかないと、マリエル様を幸せにできませんわよ!)
「……あなたは、もっとしっかりしていただかないと、マリエル様を幸せにできませんわよ! 本当は、あなたの真っ直ぐで馬鹿正直なところ、少しだけ評価してあげていたんですの。だからこそ、私という『泥を被る役』を演じて、あなたたちに道を譲ったんですからね! 感謝してちょうだい!」
「……泥を、被る役……?」
ジュリアン様が、震える声で繰り返しました。
周囲の貴族たちからも、ざわめきが起こります。
「まさか、ピエリス令嬢のあの不祥事は……すべて嘘だったのか?」
「王太子殿下とマリエル様を結ばせるために、あえて自分が悪役を……?」
(まずいわ。まずいわよ。隠しておきたかった真相が、このお喋りな首輪のせいで、ボロボロと溢れ出しているわ!)
私は顔を真っ赤にして、アッシュ様の背中に隠れようとしました。
ですが、アッシュ様は逃がしてくれません。
彼は私の腰をがっしりと抱き寄せ、勝ち誇ったような笑みを浮かべて会場を見渡しました。
「諸君、聞いた通りだ。私の婚約者……クロエルは、稀代の嘘つきなどではない。……誰よりも自己犠牲を厭わない、愚かなほどに慈悲深い聖女だ」
「あ、アッシュ様……! 勝手なことを言わないでくださいまし!」
「本当のことだろう? クロエル。君は今、マリエルの幸せを見て、心から喜んでいる……。そうだろ?」
アッシュ様が、私の耳元で優しく、けれど逃げ場のない声で囁きました。
「……っ……。ええ、そうですわ……」
(ええ、そうですわ。マリエル様の笑顔が、私にとっての救いなんですもの。……でも、それを本人の前で認めるなんて、恥ずかしくて死にそうですわ……!)
「……ええ、そうですわ。マリエル様の笑顔が見られるなら、私、公爵夫人としての地位も、自分の名誉も、全部ゴミ箱に捨てても構わないって思っているんですのよ! マリエル様、愛しているわ! 殿下、マリエル様を泣かせたら、私が地獄の果てまで追いかけて、あなたをコテンパンにして差し上げますからね!」
私は、ついにマリエル様を抱きしめ返して、わんわんと泣き出してしまいました。
嘘をつき続けるのは、本当はとても苦しかった。
親友に嫌われる覚悟で、一人で悪役を演じるのは、夜が怖くなるほど寂しかった。
「クロエル様……、ありがとうございます。私、あなたを一生、お守りしますわ……!」
「……ふん。守られるのは、私の方ですわ」
アッシュ様が、私の涙を親指でそっと拭いました。
「これ以上の『真実の吐露』は、彼女の心臓が持たないようだ。ジュリアン殿下。……これで、彼女の身の潔白は証明された。異論はありませんな?」
「……ああ。……すまなかった、クロエル。私は、君の優しさに甘えていただけだったのだな」
ジュリアン様が、深々と頭を下げました。
王太子が臣下に頭を下げるなど、前代未聞の出来事です。
会場中から、非難の視線ではなく、温かな……そして、どこか崇めるような拍手が沸き起こりました。
(違うの。私は悪女なの。不実な、最低の女として追放されたかったのに……!)
私の魂の叫びは、またしても華麗にスルーされ、私は「愛の聖女」として、一躍社交界のヒロインへと祭り上げられてしまったのでした。
アッシュ様の腕の中で、私は「もうどうにでもなれ」と、半ばやけくそで彼の胸に顔を埋めました。
「……アッシュ様、……あなたのこと、……本当は……」
(本当は、……世界で一番、頼りにしていますわ……)
「……本当は、……宇宙で一番、愛していますわ! 今すぐ私を、誰もいないところへ連れ去って、朝まで可愛がってちょうだい……!」
「…………。善処しよう」
アッシュ様の理性が、再び音を立てて崩壊する音が聞こえた気がしました。
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