『「嘘つき令嬢」と婚約破棄された私、真実しか言えない「呪いの首輪」のせいで聖女だとバレて冷徹公爵に執着されています』

恋守あい

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王宮からの帰り道、揺れる馬車の中で私は燃え尽きた灰のようになっていました。


(……終わりましたわ。私の『完璧な悪女追放計画』が、跡形もなく粉砕されましたわ……)


本来なら、今頃は「なんて破廉恥な女だ!」と罵られながら、国境付近のボロ小屋に放り込まれているはずだったのです。
それなのに、現実はどうでしょう。


マリエル様は私の手を取って「一生の恩人ですわ!」と泣き崩れ、ジュリアン殿下は「私が愚かだった」と反省し、会場中の貴族たちは私を「愛の聖女」として称賛の眼差しで送り出しました。


おまけに、隣に座るこの銀髪の「冷徹」公爵は……。


「……クロエル。さっきの言葉、忘れていないぞ」


アッシュ様が、獲物を狙う鷹のような鋭い、それでいて熱を帯びた瞳で私を見つめています。


「さっきの言葉……? 何のことかしら。私、興奮しすぎて何も覚えておりませんわ」


(そうよ、しらばっくれるのよ! あんな『朝まで可愛がって』なんて破廉恥な告白、首輪の誤作動だと言い張ればいいんだわ!)


「……ほう。ならば、思い出させてやろうか。君は確かに『宇宙で一番愛している』と言い、私に『朝まで――』」


「わぁああああ! 言わないで! それ以上は言わないでくださいまし!!」


私は真っ赤になって耳を塞ぎました。
ですが、アッシュ様は私の手首を優しく、けれど逃げられない強さで掴んで引き寄せました。


「……逃がさないと言ったはずだ。君のその『真実』、一つ残らず私が受け止めてやる」


「ひぃっ……! アッシュ様、近いですわ! あなた、冷徹公爵という肩書きはどうしたんですの!? もっと氷のように冷たく、私を蔑んでくださいまし!」


――ググッ。


喉の奥に、沸騰したお湯のような熱い塊がせり上がってきます。
チョーカーの紫色の光が、馬車の中を妖しく照らしました。


「……もっと氷のように冷たく、私を蔑んでくださいまし! ……なんて、本当は、あなたのその熱い視線に焼き尽くされたくてたまらないんですの! もっと強く抱きしめて、私の心臓の音を直接あなたの肌で感じてほしい……。ああ、私、あなたに愛されるためなら、悪女なんて看板、今すぐ暖炉に投げ捨ててしまいますわ……!!」


「…………っ」


アッシュ様の喉仏が、大きく上下しました。
彼はガバッと私の肩に顔を埋め、深く、重いため息をつきました。


「……君という女は……。これ以上、私を試さないでくれ。私の理性が、もう、保てない……」


「試してなんていませんわ! 私はただ、本当のことを……ああっ、また本当のことが……!!」


馬車が屋敷に到着したとき、私はすでに羞恥心で精神が霧散しそうになっていました。
車輪が止まるなり、私はアッシュ様の手を振り払って、ドレスの裾を翻して走り出しました。


(逃げるのよ! このままでは、私の本音がアッシュ様を『完食』してしまうわ!)


「お嬢様! おかえりなさいませ!」


玄関ホールでは、リタやセバスさん、そして全使用人たちが整列して出迎えてくれました。
彼らの顔は、なぜか一様に晴れやかで、誇らしげです。


「クロエルお嬢様! 王宮でのご活躍、すでに聞き及んでおります! まさか、マリエル様のためにあえて悪役を演じていらしたなんて……!」


リタが目を潤ませて詰め寄ってきました。


「……お、お黙りなさい! 私はただ、マリエル様を弄んで……っ」


(弄んで、彼女が困る顔を見て楽しんでいた……と言いたいのに!)


「……私はただ、マリエル様を弄んで……っ、……弄んでなんていられなかったんですの! 彼女のあの健気な涙を見たら、もう、自分の身を削ってでも助けずにはいられなかった……! 私、自分が嫌われることよりも、大切な人が傷つくことの方が、何億倍も耐えられなかったんですもの……!!」


「「「お嬢様……!!」」」


使用人たちの間に、感動の嗚咽が広がりました。
年配のメイドさんはハンカチを噛み締め、護衛の騎士たちは「俺たちが、この尊いお嬢様を一生守るぞ!」と拳を握りしめています。


「違います! 皆さんのその『いい人を見る目』が、私には一番の毒なんですのよ! もっとこう、冷ややかな、蔑んだ目で私を見てちょうだい……!」


――ググッ。


「……もっとこう、冷ややかな、蔑んだ目で私を見てちょうだい……! ……なんて、本当は、皆さんのその温かい眼差しに包まれて、私、初めて『自分の居場所』を見つけたような気がして、嬉しくてたまらないんですの……! ああ、もう、大好きよ皆! この屋敷ごと抱きしめてあげたいくらいだわ……!!」


「「「お嬢様ぁああああ!!」」」


ホール全体が、熱狂的な「クロエル信者」の集会所のようになってしまいました。
もはや、どこを向いても「愛」と「真実」しかありません。


私はふらふらと、逃げ場を失って階段の踊り場まで後退しました。
そこに、ゆっくりと階段を上がってきたアッシュ様が、私の前に立ちはだかりました。


「……終わったか? 愛の告白は」


アッシュ様の声は、低く、どこか危うい響きを含んでいました。


「……アッシュ様……。もう、勘弁してくださいまし。私はもう、一言も喋りたくありませんわ」


「そうか。ならば、君の口がこれ以上余計な『愛の言葉』を紡げないように、私が塞いでやろう」


「え……っ?」


アッシュ様の大きな手が私の後頭部を支え、強引に引き寄せられました。
至近距離で、彼の瞳の中に、逃げ場のない情熱が渦巻いているのが見えました。


「……クロエル。君が吐く『真実』は、あまりに綺麗すぎて、毒のようだ。……私はもう、この毒なしでは、一分一秒も生きていられそうにない」


「あ……、あぁ……っ」


(……嫌ですわ。そんなこと言われたら、私、もっともっと、恥ずかしい本音を……っ)


「……っ……、……して……、……愛して、……もっと、めちゃくちゃに愛して、アッシュ様……!!」


私の本音が、最後の一線を越えて溢れ出しました。


アッシュ様の理性が、ついに完全に崩壊した音が聞こえた気がしました。
彼は、周囲の視線も、首輪の光も、すべてを無視して、深く、深く、私の唇を奪ったのです。


それは「監禁」という名の「溺愛」が、第二段階へと突入した瞬間でした。


(あああ、私の悪女計画は、この銀髪公爵の『執着』によって、完膚なきまでに食い尽くされてしまったのですわ……!!)
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