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「……いいですか、リタ。今日こそは『ざまぁ』の仕上げですわ! あのお二人を、私の邪悪な言葉で完膚なきまでに叩きのめして差し上げますの!」
私は執務室の大きな窓から、中庭に馬車が到着するのを見下ろして、不敵な笑みを浮かべました。
昨日の「予算横領(という名の寄付)」の失敗は、もはや過去のこと。
今日、この屋敷を訪れるのは、王太子ジュリアン様とマリエル様です。
二人は「クロエルを正式に赦免し、名誉を回復させるための書類」を持ってくるのだとか。
(名誉回復なんてお断りですわ! 私は『浮気者の悪女』として、一生後ろ指を指されながら、アッシュ様の贅沢な監獄でひっそりと……いえ、堂々と暮らしたいんですの!)
私は深呼吸をして、あえて冷徹な表情を作り、客間へと向かいました。
客間には、正装したジュリアン様と、王太子妃教育の成果か、一段と気品を増したマリエル様が座っていました。
二人の顔は、申し訳なさと敬意で、見ていて痛々しいほどに歪んでいます。
「……クロエル。忙しいところ、済まない。今日は……」
「殿下、ご挨拶は結構ですわ。書類を置いて、さっさと帰ってくださらない? 私、これからアッシュ様と、公爵家の資産をどれだけ浪費するか相談しなければならないんですの」
私は鼻を鳴らし、わざとらしくマリエル様の方を睨みつけました。
(よし、ここで『あなたの顔を見ているだけで吐き気がしますわ、慰謝料としてダイヤモンドを100個よこしなさい!』と言ってやるのよ!)
「マリエル様、あなた……っ」
喉が、ボッと熱い塊を吐き出そうとします。
チョーカーの紫色の宝石が、かつてないほど激しく、まるでオーロラのように輝き始めました。
「……マリエル様、あなた……っ、……あなた、なんて、なんて立派になられて……! 王太子妃としての重圧に耐え、あんなに細かった肩が、今では国を背負う覚悟に満ち溢れていますわ……! ああ、私の親友が、こんなにも誇らしい……! 慰謝料なんていりませんわ、私の全財産をあなたの将来のために使ってほしいくらいですのよ!!」
「「…………っ!!」」
二人が、揃って目を見開いて絶句しました。
(あああああ! また! また聖母のようなセリフを!! 誰か私の喉を、この高そうなハーブティーで塞いでくださいまし!!)
「クロエル様……。そんな……、あんなに酷いことをした私に、そんな慈愛に満ちたお言葉を……っ」
マリエル様が、ボロボロと真珠のような涙を流し始めました。
「違います! 今の言葉は、ただの皮肉ですわ! 私はあなたのことが大嫌いで……っ」
(大嫌いで、……顔も見たくなかったんですのよ!)
――ググッ。
「……大嫌いで、……なんて、本当は、あなたが私のいないところで寂しくて泣いていないか、毎日心配でたまらなかったんですのよ! あなたのその涙、私が全部吸い取って、代わりに幸せな思い出で満たしてあげたい……! 殿下、この子を泣かせたら、私が地獄の果てまであなたを呪い殺しに行きますわよ!!」
「……ああ。……分かっている。……クロエル、本当に済まなかった」
ジュリアン様が、ガバッと床に膝をつき、そのまま頭を下げました。
王太子が臣下に、しかも二度までも。
「私は……、私は君のその『嘘』に甘えていた。君が自分のすべてを捨ててまで、私たちの幸せを守ろうとしてくれたことに気づかず……、君にこの呪いのチョーカーを嵌めるという暴挙に出た。……私は、一生この罪を背負って生きていく」
(そうですわ! 一生後悔して、私の尊さを噛み締めながら、マリエル様と幸せになればいいんですのよ!)
「……その通りですわ。あなたは……っ」
(あなたは、世界一の愚か者ですわ!)
――ググッ。
「……その通りですわ。あなたは……っ、……あなたは、世界一の『優しすぎる正直者』ですわ! あなたがマリエル様を愛していると知ったとき、私、悔しさなんて微塵もありませんでしたの。……ああ、この不器用な二人が結ばれるなら、私の未来なんて安いものだわ、って……。私は、あなたのその真っ直ぐな心が大好きだったんですのよ……!!」
「………………クロエル……!!」
ジュリアン様が、子供のように声を上げて泣き出しました。
会場……いえ、客間の空気は、もはや「ざまぁ」ではなく「聖女による救済」の場と化しています。
(終わりましたわ……。私がどんなに罵倒しようとしても、この首輪がすべてを『特大の祝福』に書き換えてしまいますわ……)
私は、天を仰いで白旗を上げました。
そこへ、後ろで腕を組んで見ていたアッシュ様が、静かに歩み寄ってきました。
「……殿下、マリエル嬢。彼女の『真実』、十分にお聞きいただけたでしょう。……これ以上、私の婚約者を泣かせる(?)のはやめていただきたい」
アッシュ様が私の肩を抱き寄せ、冷徹な視線を二人に向けました。
「彼女の名誉回復の書類は、私が預かりましょう。……ですが、彼女を王宮に戻すことだけは、絶対に認めません。……彼女のこの『あまりにも美しすぎる魂』を独占する権利は、世界で私一人だけにあるのですから」
「……ああ。……アッシュ。……君に、彼女を託す。……君なら、彼女のこの眩しすぎる光に、耐えられるだろう」
ジュリアン様は、マリエル様の手を引き、清々しい……けれど深い自責の念を刻んだ顔で、去っていきました。
一人残された私は、アッシュ様の腕の中で、ガックリと力を抜きました。
「……アッシュ様。……私、もう疲れましたわ」
「お疲れ様、クロエル。……君のその『嘘』の正体が、ようやく本人たちに伝わってよかったじゃないか」
アッシュ様が、私の耳元で低く囁きました。
「……君は、自分を犠牲にする悪女になろうとした。……だが、今日、君は正式に『誰からも愛される聖女』になったんだ。……そして、私の『愛しい所有物』だ」
「所有物なんて……。私は……っ」
(私は、あなたのことも、いつか……っ)
――ググッ。
「……私は、あなたのことも、いつか……っ、……いつかじゃなくて、今この瞬間も、あなたがいないと生きていけないくらい、狂おしいほど愛していますわ!! 殿下たちのことなんて、もうどうでもいいの。早く私を寝室に連れて行って、……もっと、もっと激しく、あなたの愛を刻み込んでくださいまし!!」
「…………っ、……ああ、承知した。……今夜は、君を寝かせないぞ、クロエル」
アッシュ様の瞳が、トロリとした独占欲で真っ黒に染まりました。
(あああああ! 私の『ざまぁ』の結末が、またしても公爵様の『終わらない溺愛モード』を起動させてしまいましたわーーー!!)
元婚約者を「自責の念」という名の地獄へ突き落とした代償は、公爵様という名の「甘い甘い監獄」への永住権だったのでした。
私は執務室の大きな窓から、中庭に馬車が到着するのを見下ろして、不敵な笑みを浮かべました。
昨日の「予算横領(という名の寄付)」の失敗は、もはや過去のこと。
今日、この屋敷を訪れるのは、王太子ジュリアン様とマリエル様です。
二人は「クロエルを正式に赦免し、名誉を回復させるための書類」を持ってくるのだとか。
(名誉回復なんてお断りですわ! 私は『浮気者の悪女』として、一生後ろ指を指されながら、アッシュ様の贅沢な監獄でひっそりと……いえ、堂々と暮らしたいんですの!)
私は深呼吸をして、あえて冷徹な表情を作り、客間へと向かいました。
客間には、正装したジュリアン様と、王太子妃教育の成果か、一段と気品を増したマリエル様が座っていました。
二人の顔は、申し訳なさと敬意で、見ていて痛々しいほどに歪んでいます。
「……クロエル。忙しいところ、済まない。今日は……」
「殿下、ご挨拶は結構ですわ。書類を置いて、さっさと帰ってくださらない? 私、これからアッシュ様と、公爵家の資産をどれだけ浪費するか相談しなければならないんですの」
私は鼻を鳴らし、わざとらしくマリエル様の方を睨みつけました。
(よし、ここで『あなたの顔を見ているだけで吐き気がしますわ、慰謝料としてダイヤモンドを100個よこしなさい!』と言ってやるのよ!)
「マリエル様、あなた……っ」
喉が、ボッと熱い塊を吐き出そうとします。
チョーカーの紫色の宝石が、かつてないほど激しく、まるでオーロラのように輝き始めました。
「……マリエル様、あなた……っ、……あなた、なんて、なんて立派になられて……! 王太子妃としての重圧に耐え、あんなに細かった肩が、今では国を背負う覚悟に満ち溢れていますわ……! ああ、私の親友が、こんなにも誇らしい……! 慰謝料なんていりませんわ、私の全財産をあなたの将来のために使ってほしいくらいですのよ!!」
「「…………っ!!」」
二人が、揃って目を見開いて絶句しました。
(あああああ! また! また聖母のようなセリフを!! 誰か私の喉を、この高そうなハーブティーで塞いでくださいまし!!)
「クロエル様……。そんな……、あんなに酷いことをした私に、そんな慈愛に満ちたお言葉を……っ」
マリエル様が、ボロボロと真珠のような涙を流し始めました。
「違います! 今の言葉は、ただの皮肉ですわ! 私はあなたのことが大嫌いで……っ」
(大嫌いで、……顔も見たくなかったんですのよ!)
――ググッ。
「……大嫌いで、……なんて、本当は、あなたが私のいないところで寂しくて泣いていないか、毎日心配でたまらなかったんですのよ! あなたのその涙、私が全部吸い取って、代わりに幸せな思い出で満たしてあげたい……! 殿下、この子を泣かせたら、私が地獄の果てまであなたを呪い殺しに行きますわよ!!」
「……ああ。……分かっている。……クロエル、本当に済まなかった」
ジュリアン様が、ガバッと床に膝をつき、そのまま頭を下げました。
王太子が臣下に、しかも二度までも。
「私は……、私は君のその『嘘』に甘えていた。君が自分のすべてを捨ててまで、私たちの幸せを守ろうとしてくれたことに気づかず……、君にこの呪いのチョーカーを嵌めるという暴挙に出た。……私は、一生この罪を背負って生きていく」
(そうですわ! 一生後悔して、私の尊さを噛み締めながら、マリエル様と幸せになればいいんですのよ!)
「……その通りですわ。あなたは……っ」
(あなたは、世界一の愚か者ですわ!)
――ググッ。
「……その通りですわ。あなたは……っ、……あなたは、世界一の『優しすぎる正直者』ですわ! あなたがマリエル様を愛していると知ったとき、私、悔しさなんて微塵もありませんでしたの。……ああ、この不器用な二人が結ばれるなら、私の未来なんて安いものだわ、って……。私は、あなたのその真っ直ぐな心が大好きだったんですのよ……!!」
「………………クロエル……!!」
ジュリアン様が、子供のように声を上げて泣き出しました。
会場……いえ、客間の空気は、もはや「ざまぁ」ではなく「聖女による救済」の場と化しています。
(終わりましたわ……。私がどんなに罵倒しようとしても、この首輪がすべてを『特大の祝福』に書き換えてしまいますわ……)
私は、天を仰いで白旗を上げました。
そこへ、後ろで腕を組んで見ていたアッシュ様が、静かに歩み寄ってきました。
「……殿下、マリエル嬢。彼女の『真実』、十分にお聞きいただけたでしょう。……これ以上、私の婚約者を泣かせる(?)のはやめていただきたい」
アッシュ様が私の肩を抱き寄せ、冷徹な視線を二人に向けました。
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「……ああ。……アッシュ。……君に、彼女を託す。……君なら、彼女のこの眩しすぎる光に、耐えられるだろう」
ジュリアン様は、マリエル様の手を引き、清々しい……けれど深い自責の念を刻んだ顔で、去っていきました。
一人残された私は、アッシュ様の腕の中で、ガックリと力を抜きました。
「……アッシュ様。……私、もう疲れましたわ」
「お疲れ様、クロエル。……君のその『嘘』の正体が、ようやく本人たちに伝わってよかったじゃないか」
アッシュ様が、私の耳元で低く囁きました。
「……君は、自分を犠牲にする悪女になろうとした。……だが、今日、君は正式に『誰からも愛される聖女』になったんだ。……そして、私の『愛しい所有物』だ」
「所有物なんて……。私は……っ」
(私は、あなたのことも、いつか……っ)
――ググッ。
「……私は、あなたのことも、いつか……っ、……いつかじゃなくて、今この瞬間も、あなたがいないと生きていけないくらい、狂おしいほど愛していますわ!! 殿下たちのことなんて、もうどうでもいいの。早く私を寝室に連れて行って、……もっと、もっと激しく、あなたの愛を刻み込んでくださいまし!!」
「…………っ、……ああ、承知した。……今夜は、君を寝かせないぞ、クロエル」
アッシュ様の瞳が、トロリとした独占欲で真っ黒に染まりました。
(あああああ! 私の『ざまぁ』の結末が、またしても公爵様の『終わらない溺愛モード』を起動させてしまいましたわーーー!!)
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