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「……決まりましたわ。今日こそは、今日こそはヴァルハイト公爵家の財産を私物化し、私、稀代の強欲悪女として返り咲いてみせますわ!」
市場での「聖女降臨事件」から一夜明け。
私は公爵家の豪華な執務室で、アッシュ様の向かい側に座り、鼻息を荒くしていました。
昨日の屈辱(?)は忘れません。
親切にしたつもりはないのに、口から出る言葉がすべて「徳」に変換されてしまう。
ならば、今度は形に残る「金」ですわ!
「……ほう。朝から随分と熱心だな、クロエル。家計の帳簿をそんなに睨みつけてどうした」
アッシュ様は優雅に万年筆を動かしながら、楽しげに私を盗み見ています。
その余裕のある態度が、今の私には一番の着火剤ですわ。
「アッシュ様、単刀直入に申し上げます。私、今の生活には満足しておりませんの。もっとこう、私個人の自由にできる『機密費』を、公爵家の予算から捻出していただきたいんですのよ!」
(さあ、来ましたわ! 婚約者という立場を利用して、公爵家の資産を私物化しようとする悪女の典型的なムーブですわ!)
「機密費、か。具体的にどれくらいの額を望むのだ?」
アッシュ様が、試すように片眉を上げました。
「そうですね……。とりあえず、金貨一千枚ほど、今すぐ私の個人口座に移してちょうだい! 使い道は……っ」
(使い道は、私の宝石代や、毎日バラ風呂に入るための香水代にするんですのよ!)
――ググッ。
喉の奥に、マグマのような「真実」の熱が走りました。
チョーカーの紫色の宝石が、執務室の窓から差し込む朝日に反射して、眩いばかりの光を放ちます。
「使い道は……っ、……使い道は、昨日市場で出会ったおじいさんの家を修繕するための費用と、あの子たちが通える小さな学校を建てるための設立基金にするんですのよ!! ああ、もう、あんなにボロボロの屋根の下で冬を越させるなんて、私、心配で夜も八時間しか眠れませんわ!!」
「…………」
アッシュ様の万年筆が、ピタリと止まりました。
(えっ、八時間って結構寝てますわね……。じゃなくて! なんで寄付の相談になっているのよ!!)
「……クロエル。君は、自分の宝石を一つ買うよりも、他人の家の屋根を直す方が優先なのか?」
「違いますわ! 私は自分の贅沢がしたいんですのよ! その金貨で、私は……っ」
(私は、最高級のシルクを買い占めて、自分だけのドレスを……っ!)
――ググッ。
「……私は、最高級のシルクを買い占めて、……冬の寒さに凍える孤児院の子供たちのために、一着でも多くの防寒着を縫ってあげたいんですのよ!! 私、あの子たちのあかぎれだらけの手を見たとき、胸が締め付けられる思いでしたわ……! 私が着飾るよりも、あの子たちが温かい服で笑っている方が、私の心は百万倍も輝くんですのよ!!」
私は、自分の口を両手で力いっぱい塞ぎました。
ですが、もう遅いのです。
アッシュ様の表情が、見たこともないほど深く、慈愛と……そして、底なしの独占欲に満ちたものに変わっていきました。
「……セバス。今すぐ彼女に、金貨一千枚……いや、一万枚を用意しろ」
「畏まりました、旦那様。お嬢様の『機密費(チャリティー基金)』、早急に手配いたしましょう」
影のように控えていたセバスさんが、聖母のような微笑みを浮かべて退出していきました。
「ち、ちょっと待ってください! 一万枚なんて多すぎますわ! 私はそんなに……っ」
「足りないならいくらでも出そう。……君が、他人の幸せを自分のことのように願うその『強欲』さ……。私は心から愛しているよ、クロエル」
アッシュ様が立ち上がり、デスクを回り込んで私の前に跪きました。
私の手を取り、その甲に深く、熱い口づけを落とします。
「あ、アッシュ様……っ。……恥ずかしいですわ、やめてくださいまし……」
「……やめない。君がどれほど自分を貶めようとしても、君の魂はこうして光り輝いている。……そんな君を、私が独占できる喜びを噛みしめているんだ」
アッシュ様の瞳が、トロリとした情熱で私を絡め取ります。
逃げようとしても、腰に回された彼の腕がそれを許しません。
「……っ。……アッシュ様、あなたは……っ」
(あなたは、本当に人が良すぎますわ。私のような女に騙されていることに、いつ気づくのかしら……)
――ググッ。
「……あなたは、……本当に、私のすべてを理解してくださる、世界で唯一の理解者ですわ……! 私、あなたに愛されるたびに、自分が本物の聖女になれたような気がして、嬉しくて涙が出そうですの……。ああ、もう、アッシュ様……。一万枚なんて言わず、あなたの愛を全部私に投資してちょうだい……!!」
「…………っ!!」
アッシュ様の理性が、再び音を立てて決壊したのが分かりました。
「……投資、か。いいだろう。……元金どころか、私のすべてを君に捧げよう。……今夜は、その『配当金』をたっぷりと支払わせてもらうぞ」
「ひ、配当金……!? 嫌ですわ、私は利息なんて……っ!」
(利息なんて……っ、……なんて、本当は、一秒でも長くあなたに抱きしめられて、利息も元金も全部溶けてしまうくらい、愛されたいですわ!!)
「…………。よし、契約成立だ」
アッシュ様は、私を軽々と横抱きにして、執務室を後にしました。
(あああああ! 私の予算横領計画が、またしても公爵様の『無限溺愛モード』を起動させてしまいましたわーーー!!)
私の悪女への返り咲きは、またしても華麗な「善行」によって阻止され、代償として公爵様の熱すぎる愛の搾取を受けることになったのでした。
市場での「聖女降臨事件」から一夜明け。
私は公爵家の豪華な執務室で、アッシュ様の向かい側に座り、鼻息を荒くしていました。
昨日の屈辱(?)は忘れません。
親切にしたつもりはないのに、口から出る言葉がすべて「徳」に変換されてしまう。
ならば、今度は形に残る「金」ですわ!
「……ほう。朝から随分と熱心だな、クロエル。家計の帳簿をそんなに睨みつけてどうした」
アッシュ様は優雅に万年筆を動かしながら、楽しげに私を盗み見ています。
その余裕のある態度が、今の私には一番の着火剤ですわ。
「アッシュ様、単刀直入に申し上げます。私、今の生活には満足しておりませんの。もっとこう、私個人の自由にできる『機密費』を、公爵家の予算から捻出していただきたいんですのよ!」
(さあ、来ましたわ! 婚約者という立場を利用して、公爵家の資産を私物化しようとする悪女の典型的なムーブですわ!)
「機密費、か。具体的にどれくらいの額を望むのだ?」
アッシュ様が、試すように片眉を上げました。
「そうですね……。とりあえず、金貨一千枚ほど、今すぐ私の個人口座に移してちょうだい! 使い道は……っ」
(使い道は、私の宝石代や、毎日バラ風呂に入るための香水代にするんですのよ!)
――ググッ。
喉の奥に、マグマのような「真実」の熱が走りました。
チョーカーの紫色の宝石が、執務室の窓から差し込む朝日に反射して、眩いばかりの光を放ちます。
「使い道は……っ、……使い道は、昨日市場で出会ったおじいさんの家を修繕するための費用と、あの子たちが通える小さな学校を建てるための設立基金にするんですのよ!! ああ、もう、あんなにボロボロの屋根の下で冬を越させるなんて、私、心配で夜も八時間しか眠れませんわ!!」
「…………」
アッシュ様の万年筆が、ピタリと止まりました。
(えっ、八時間って結構寝てますわね……。じゃなくて! なんで寄付の相談になっているのよ!!)
「……クロエル。君は、自分の宝石を一つ買うよりも、他人の家の屋根を直す方が優先なのか?」
「違いますわ! 私は自分の贅沢がしたいんですのよ! その金貨で、私は……っ」
(私は、最高級のシルクを買い占めて、自分だけのドレスを……っ!)
――ググッ。
「……私は、最高級のシルクを買い占めて、……冬の寒さに凍える孤児院の子供たちのために、一着でも多くの防寒着を縫ってあげたいんですのよ!! 私、あの子たちのあかぎれだらけの手を見たとき、胸が締め付けられる思いでしたわ……! 私が着飾るよりも、あの子たちが温かい服で笑っている方が、私の心は百万倍も輝くんですのよ!!」
私は、自分の口を両手で力いっぱい塞ぎました。
ですが、もう遅いのです。
アッシュ様の表情が、見たこともないほど深く、慈愛と……そして、底なしの独占欲に満ちたものに変わっていきました。
「……セバス。今すぐ彼女に、金貨一千枚……いや、一万枚を用意しろ」
「畏まりました、旦那様。お嬢様の『機密費(チャリティー基金)』、早急に手配いたしましょう」
影のように控えていたセバスさんが、聖母のような微笑みを浮かべて退出していきました。
「ち、ちょっと待ってください! 一万枚なんて多すぎますわ! 私はそんなに……っ」
「足りないならいくらでも出そう。……君が、他人の幸せを自分のことのように願うその『強欲』さ……。私は心から愛しているよ、クロエル」
アッシュ様が立ち上がり、デスクを回り込んで私の前に跪きました。
私の手を取り、その甲に深く、熱い口づけを落とします。
「あ、アッシュ様……っ。……恥ずかしいですわ、やめてくださいまし……」
「……やめない。君がどれほど自分を貶めようとしても、君の魂はこうして光り輝いている。……そんな君を、私が独占できる喜びを噛みしめているんだ」
アッシュ様の瞳が、トロリとした情熱で私を絡め取ります。
逃げようとしても、腰に回された彼の腕がそれを許しません。
「……っ。……アッシュ様、あなたは……っ」
(あなたは、本当に人が良すぎますわ。私のような女に騙されていることに、いつ気づくのかしら……)
――ググッ。
「……あなたは、……本当に、私のすべてを理解してくださる、世界で唯一の理解者ですわ……! 私、あなたに愛されるたびに、自分が本物の聖女になれたような気がして、嬉しくて涙が出そうですの……。ああ、もう、アッシュ様……。一万枚なんて言わず、あなたの愛を全部私に投資してちょうだい……!!」
「…………っ!!」
アッシュ様の理性が、再び音を立てて決壊したのが分かりました。
「……投資、か。いいだろう。……元金どころか、私のすべてを君に捧げよう。……今夜は、その『配当金』をたっぷりと支払わせてもらうぞ」
「ひ、配当金……!? 嫌ですわ、私は利息なんて……っ!」
(利息なんて……っ、……なんて、本当は、一秒でも長くあなたに抱きしめられて、利息も元金も全部溶けてしまうくらい、愛されたいですわ!!)
「…………。よし、契約成立だ」
アッシュ様は、私を軽々と横抱きにして、執務室を後にしました。
(あああああ! 私の予算横領計画が、またしても公爵様の『無限溺愛モード』を起動させてしまいましたわーーー!!)
私の悪女への返り咲きは、またしても華麗な「善行」によって阻止され、代償として公爵様の熱すぎる愛の搾取を受けることになったのでした。
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