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「……いいですか、リタ。今日は社交界の『毒婦』たちが集まるお茶会ですわ。ここで私が彼女たちを冷酷に罵倒すれば、私の悪女としての評判も再燃するはずですの!」
私は鏡の前で、不敵な笑みを浮かべました。
正式な婚約式を前に、アッシュ様のこれまでの婚約者候補だった令嬢たちが、私を「品定め」するために茶会を開くというのです。
普通なら恐怖で震える場面ですが、私にとっては千載一遇のチャンス。
(アッシュ様に執着される『聖女』なんて、もうこりごりですわ。ここで彼女たちに『泥棒猫!』と罵声を浴びせて、社交界から爪弾きにされてみせますわ!)
「お嬢様、またそうやって悪いことを考えて……。でも、そのお顔、なんだか楽しそうですね」
リタが呆れたように髪を整えてくれましたが、私は意に介しません。
私は意気揚々と、戦場という名の茶会会場――王都の高級サロンへと向かいました。
会場に入ると、そこには扇をパチパチと鳴らしながら、私を蛇のような目で見つめる令嬢たちが五人、待ち構えていました。
中心に座るのは、侯爵令嬢のベアトリクス様。彼女はアッシュ様の親戚筋で、最も有力な花嫁候補だった女性です。
「あら、お見えになったのね。王太子殿下に捨てられ、呪いの首輪を嵌められた『嘘つき令嬢』さん?」
ベアトリクス様が、嘲るような笑みを浮かべて口を開きました。
「ええ、そうですわ。私が稀代の嘘つき、クロエルですわ。ベアトリクス様、わざわざお招きいただき、感謝の言葉もございませんわ。……さあ、冷え切った紅茶でも出してくださらない?」
(よし、まずは嫌味から! さあ、ここからが本番よ。彼女たちの容姿や家柄を、ボロクソに言ってやるんですの!)
「ベアトリクス様。あなたのそのドレス、センスが欠片もありませんわね。まるで……っ」
喉が、ボッと熱い塊を吐き出そうとします。
チョーカーの紫色の宝石が、サロンの照明を反射して、神々しいまでに輝きました。
「……まるで、……なんて、なんて素晴らしい、色彩の調和かしら! ベアトリクス様、その深い深緑のシルクは、あなたの瞳の輝きを最大限に引き立てていますわ。あなたの洗練された美学に、私、思わず見惚れてしまいましたのよ……!!」
「…………は?」
ベアトリクス様の扇が、動きを止めました。
(違う! 違うのよ! 私は『苔みたいね』と言いたかったのに、なんで絶賛しているのよ!!)
他の令嬢たちも、あっけにとられています。
一人の令嬢が、助け舟を出すように口を出しました。
「な、何を言っているの!? この首輪は、あなたが嘘をついている証拠でしょう? そんな汚らわしいものを身につけて、アッシュ様の隣に立つなんて……!」
「汚らわしい? ええ、その通りですわ。私はこの首輪がお似合いの、汚れた女ですの。あなたたちのような清らかな方々には……っ」
(あなたたちのような清らかな方々には、到底理解できない、醜い本性が詰まっているんですのよ!)
――ググッ。
「……あなたたちのような清らかな方々には、……到底理解できないほど、私の心はあなたたちへの尊敬で満ち溢れているんですの! あなたたちのその、アッシュ様を想う一途な心。私を敵視してまで愛を貫こうとするその誇り高さ! ああ、なんて眩しいのかしら。私、あなたたちのような熱い友情に、心から憧れてしまいますわ……!!」
「……ゆ、友情……?」
令嬢たちが、互いに顔を見合わせ、頬を赤らめ始めました。
(あああああ! なんで私の口は、敵対する彼女たちを『高潔な乙女』に仕立て上げているのよ!!)
「……っ! 騙されないわよ! あなたはそうやって、言葉巧みに人を惑わすのね! 殿下の時だって、本当は裏でどんな悪巧みを……っ!」
「悪巧みなんて、当たり前ですわ。私は自分の利益のために、親友さえも……っ」
(親友さえも、利用する女なんですのよ!)
――ググッ。
「……親友さえも、……利用して幸せにしてあげたいと、命を懸ける女なんですのよ! 私が悪役になれば、みんなが幸せになれる。そんな当たり前の計算もできないほど、私、あなたたちのことが、……この国のすべての女性たちのことが、大切でたまらないんですのよ!!」
「「「…………っ!!」」」
サロンに、感動のすすり泣きが漏れ始めました。
「……なんてこと。……私たちは、こんなに慈愛に満ちた方を、虐めていたというの……?」
「……クロエル様。私たち、間違っていたわ。あなたのその首輪は、嘘つきの証なんかじゃない……。あまりにも純粋すぎて、自分を愛せないあなたの心を、無理やり暴くための『天の加護』だったのね……!!」
ベアトリクス様が、ついに立ち上がり、私の手を取りました。
「クロエル様。私、あなたを誤解していたわ。アッシュ様があなたに執着する理由、今なら分かるわ。あなたこそ、真の公爵夫人に相応しいお方よ……!」
「ち、違いますわ! 私は……っ」
(私は、もっと最低なことを……っ!)
――ググッ。
「……私は、……もっとあなたたちと仲良くなって、女子会を開いて、一晩中恋バナを語り明かしたいんですのよ!!」
「「「お姉様ーーー!!」」」
私は、五人の令嬢たちに揉みくちゃにされ、抱きしめられ、いつのまにか「社交界の女神」として崇められる羽目になってしまいました。
(終わりましたわ……。私の悪女としての評判、またしても木っ端微塵ですわ……)
そこへ、心配して様子を見に来たアッシュ様が、サロンの扉を勢いよく開けました。
「クロエル! 無事か!? 彼女たちに何か……」
アッシュ様が見たのは、令嬢たちに囲まれて涙ながらに感謝されている、光り輝く笑顔(という名の絶望顔)の私の姿でした。
「……ほう。君は、数時間で敵を全員『妹分』にしたのか」
「アッシュ様……。助けてくださいまし。私は……っ」
(私は、彼女たちを……っ!)
――ググッ。
「……私は、……彼女たちを愛しすぎて、もう公爵家になんて帰りたくありませんわ!!」
「…………。連れて帰るぞ。一秒でも早くな」
(あああああ! 私の『嫌われ作戦』が、またしても『公爵様の独占欲』と『令嬢たちの心酔』を加速させてしまいましたわーーー!!)
私の悪女への道は、もはや宇宙の彼方へと消え去り、代わりに「全人類から愛される」という、逃げ場のない聖女の道がどこまでも続いていくのでした。
私は鏡の前で、不敵な笑みを浮かべました。
正式な婚約式を前に、アッシュ様のこれまでの婚約者候補だった令嬢たちが、私を「品定め」するために茶会を開くというのです。
普通なら恐怖で震える場面ですが、私にとっては千載一遇のチャンス。
(アッシュ様に執着される『聖女』なんて、もうこりごりですわ。ここで彼女たちに『泥棒猫!』と罵声を浴びせて、社交界から爪弾きにされてみせますわ!)
「お嬢様、またそうやって悪いことを考えて……。でも、そのお顔、なんだか楽しそうですね」
リタが呆れたように髪を整えてくれましたが、私は意に介しません。
私は意気揚々と、戦場という名の茶会会場――王都の高級サロンへと向かいました。
会場に入ると、そこには扇をパチパチと鳴らしながら、私を蛇のような目で見つめる令嬢たちが五人、待ち構えていました。
中心に座るのは、侯爵令嬢のベアトリクス様。彼女はアッシュ様の親戚筋で、最も有力な花嫁候補だった女性です。
「あら、お見えになったのね。王太子殿下に捨てられ、呪いの首輪を嵌められた『嘘つき令嬢』さん?」
ベアトリクス様が、嘲るような笑みを浮かべて口を開きました。
「ええ、そうですわ。私が稀代の嘘つき、クロエルですわ。ベアトリクス様、わざわざお招きいただき、感謝の言葉もございませんわ。……さあ、冷え切った紅茶でも出してくださらない?」
(よし、まずは嫌味から! さあ、ここからが本番よ。彼女たちの容姿や家柄を、ボロクソに言ってやるんですの!)
「ベアトリクス様。あなたのそのドレス、センスが欠片もありませんわね。まるで……っ」
喉が、ボッと熱い塊を吐き出そうとします。
チョーカーの紫色の宝石が、サロンの照明を反射して、神々しいまでに輝きました。
「……まるで、……なんて、なんて素晴らしい、色彩の調和かしら! ベアトリクス様、その深い深緑のシルクは、あなたの瞳の輝きを最大限に引き立てていますわ。あなたの洗練された美学に、私、思わず見惚れてしまいましたのよ……!!」
「…………は?」
ベアトリクス様の扇が、動きを止めました。
(違う! 違うのよ! 私は『苔みたいね』と言いたかったのに、なんで絶賛しているのよ!!)
他の令嬢たちも、あっけにとられています。
一人の令嬢が、助け舟を出すように口を出しました。
「な、何を言っているの!? この首輪は、あなたが嘘をついている証拠でしょう? そんな汚らわしいものを身につけて、アッシュ様の隣に立つなんて……!」
「汚らわしい? ええ、その通りですわ。私はこの首輪がお似合いの、汚れた女ですの。あなたたちのような清らかな方々には……っ」
(あなたたちのような清らかな方々には、到底理解できない、醜い本性が詰まっているんですのよ!)
――ググッ。
「……あなたたちのような清らかな方々には、……到底理解できないほど、私の心はあなたたちへの尊敬で満ち溢れているんですの! あなたたちのその、アッシュ様を想う一途な心。私を敵視してまで愛を貫こうとするその誇り高さ! ああ、なんて眩しいのかしら。私、あなたたちのような熱い友情に、心から憧れてしまいますわ……!!」
「……ゆ、友情……?」
令嬢たちが、互いに顔を見合わせ、頬を赤らめ始めました。
(あああああ! なんで私の口は、敵対する彼女たちを『高潔な乙女』に仕立て上げているのよ!!)
「……っ! 騙されないわよ! あなたはそうやって、言葉巧みに人を惑わすのね! 殿下の時だって、本当は裏でどんな悪巧みを……っ!」
「悪巧みなんて、当たり前ですわ。私は自分の利益のために、親友さえも……っ」
(親友さえも、利用する女なんですのよ!)
――ググッ。
「……親友さえも、……利用して幸せにしてあげたいと、命を懸ける女なんですのよ! 私が悪役になれば、みんなが幸せになれる。そんな当たり前の計算もできないほど、私、あなたたちのことが、……この国のすべての女性たちのことが、大切でたまらないんですのよ!!」
「「「…………っ!!」」」
サロンに、感動のすすり泣きが漏れ始めました。
「……なんてこと。……私たちは、こんなに慈愛に満ちた方を、虐めていたというの……?」
「……クロエル様。私たち、間違っていたわ。あなたのその首輪は、嘘つきの証なんかじゃない……。あまりにも純粋すぎて、自分を愛せないあなたの心を、無理やり暴くための『天の加護』だったのね……!!」
ベアトリクス様が、ついに立ち上がり、私の手を取りました。
「クロエル様。私、あなたを誤解していたわ。アッシュ様があなたに執着する理由、今なら分かるわ。あなたこそ、真の公爵夫人に相応しいお方よ……!」
「ち、違いますわ! 私は……っ」
(私は、もっと最低なことを……っ!)
――ググッ。
「……私は、……もっとあなたたちと仲良くなって、女子会を開いて、一晩中恋バナを語り明かしたいんですのよ!!」
「「「お姉様ーーー!!」」」
私は、五人の令嬢たちに揉みくちゃにされ、抱きしめられ、いつのまにか「社交界の女神」として崇められる羽目になってしまいました。
(終わりましたわ……。私の悪女としての評判、またしても木っ端微塵ですわ……)
そこへ、心配して様子を見に来たアッシュ様が、サロンの扉を勢いよく開けました。
「クロエル! 無事か!? 彼女たちに何か……」
アッシュ様が見たのは、令嬢たちに囲まれて涙ながらに感謝されている、光り輝く笑顔(という名の絶望顔)の私の姿でした。
「……ほう。君は、数時間で敵を全員『妹分』にしたのか」
「アッシュ様……。助けてくださいまし。私は……っ」
(私は、彼女たちを……っ!)
――ググッ。
「……私は、……彼女たちを愛しすぎて、もう公爵家になんて帰りたくありませんわ!!」
「…………。連れて帰るぞ。一秒でも早くな」
(あああああ! 私の『嫌われ作戦』が、またしても『公爵様の独占欲』と『令嬢たちの心酔』を加速させてしまいましたわーーー!!)
私の悪女への道は、もはや宇宙の彼方へと消え去り、代わりに「全人類から愛される」という、逃げ場のない聖女の道がどこまでも続いていくのでした。
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