28 / 38
28
しおりを挟む
「……ふふ、ふふふ。リタ、見ていなさい。今日こそ私は、ヴァルハイト公爵家を破産に追い込むほどの『浪費家悪女』になってみせますわ!」
私は鏡の前で、邪悪(自称)な笑みを浮かべて拳を握りしめました。
これまでの失敗は、すべて私の「お人よし」な本音が漏れてしまったせい。
ならば、今度は物理的な「欲」に訴えかける作戦ですわ!
今日は婚礼衣装のデザイナー、マルコ様をお招きしての打ち合わせ。
ここで私が、あえて悪趣味で、かつ天文学的な金額のドレスを要求すれば、いくらアッシュ様でも「この女はただの金食い虫だ」と正気に戻ってくださるはずです!
「お嬢様、またそうやって悪いお顔を……。でも、今日はいよいよドレス選びですからね。楽しみですね!」
「楽しみなんてとんでもありませんわ! 私はあの方の財布を空っぽにするための、冷酷なマシーンになるんですのよ!」
私は鼻息も荒く、最高級の布見本が並ぶサロンへと乗り込みました。
そこには、王宮御用達のデザイナー、マルコ様が、まるで芸術家のような鋭い眼光で待ち構えていました。
そしてその隣には、当然のようにアッシュ様が、優雅にソファに腰掛けて私を待っています。
「来たか、クロエル。さあ、好きなだけ君の『欲望』を彼にぶつけてくれ。私は君が望むものなら、星だって買い取ってドレスに縫い付けさせるつもりだ」
「あら、アッシュ様。ご機嫌よう。……ふん、後悔なさっても知りませんわよ? マルコ様! 私、世界で一番重くて、一番高価で、一番悪趣味な黒いダイヤモンドを散りばめた、漆黒のドレスを希望しますわ!」
(よしっ、掴みは完璧ですわ! 黒いドレスなんて婚礼には不謹慎の極み。しかも重すぎて歩けないほどの宝石を要求すれば、公爵家の財政も私の評判もガタガタですわ!)
マルコ様が驚いたように目を丸くしました。
アッシュ様の眉が、ピクリと動きます。
「……漆黒に黒ダイヤ、ですか。それはまた、大胆な……」
「ええ、そうですわ! 私は闇に生きる悪女なんですもの! さあ、今すぐ……っ」
喉の奥が、カッと熱くなりました。
首元のチョーカーが、窓から差し込む陽光を受けて、かつてないほど激しく紫色の光を放ちます。
「……さあ、今すぐ……っ、……なんて、本当は、真っ白で、雲のように軽やかで、あなたが私を抱きしめた時に、あなたの温もりがダイレクトに伝わるような、世界一シンプルなドレスにしてちょうだい!! 宝石なんていりませんわ! アッシュ様の瞳に映る私自身が、何よりの宝石なんですもの!! 私、豪華な飾りであなたの視線を邪魔したくないんですのよーーー!!」
「「「…………っ!!」」」
サロン全体が、甘ったるい沈黙に包まれました。
(あああああ! また! また、いじらしいほどにピュアな本音を!! しかも今、私は公爵様に抱きしめられる前提で話をしましたわよね!?)
マルコ様が、震える手でスケッチブックを握りしめました。
その瞳には、芸術家としての深い感動の涙が浮かんでいます。
「……素晴らしい。なんという純真な愛……! 『宝石は邪魔』……。こんなにも深く旦那様を愛していらっしゃるとは! 分かりました、私、持てる技術のすべてを注いで、あなたのその『透明な真実』を形にしてみせます!」
「違いますわ、マルコ様! 私は浪費したいんですの! 今のは首輪の誤作動で……っ」
(本当は、もっとこう、ギラギラした……っ!)
――ググッ。
「……本当は、もっとこう、……あなたの愛でギラギラに照らされたいんですのよ!! アッシュ様、私、あなたの腕の中でなら、ボロ布を纏っていたって世界で一番幸せな花嫁になれる自信がありますわ!! ああ、もう、早く当日になって、あなたの隣で永遠の誓いを交わしたい……!!」
私は、自分の口を両手で力いっぱい塞ぎました。
ですが、もう遅いのです。
アッシュ様が、ソファから立ち上がり、私の前にゆっくりと歩み寄ってきました。
その瞳は、もはや理性のタガが外れたような、とろとろの溺愛の色に染まっています。
「……クロエル。君という女性は、どこまで私を……」
アッシュ様が私の腰を引き寄せ、耳元で熱い吐息を漏らしました。
「……宝石はいらない、か。……ならば、その代わりに、君の全身を私の愛の証(キスマーク)で埋め尽くしてやろうか? それなら、誰の目にも触れず、君だけを私の色に染められる」
「ひ、ひぃいいいい! 破廉恥ですわ! デザイナーさんの前で何を……っ!」
(……なんて……っ!)
――ググッ。
「……なんて、……そんなこと言われたら、私、今すぐドレスの試着なんて放り出して、あなたと一緒に寝室へ駆け込みたくなってしまいますわ!! ああ、アッシュ様、私をあなたの愛で窒息させてちょうだい……!!」
「…………っ、……よし。マルコ、今日の打ち合わせは終わりだ。彼女をこれ以上、他人の目に晒すわけにはいかない」
アッシュ様が、私を軽々と横抱き――お姫様抱っこにして、サロンを後にしようとしました。
「ちょ、ちょっと待ってください! マルコ様! 見捨てないで! 私はまだ、悪女としての要望が……っ!」
「お幸せに、クロエル様! 最高のドレス、作らせていただきますよ!!」
マルコ様は、爽やかな笑顔で手を振って去っていきました。
(終わりましたわ……。私の『破産計画』、またしても公爵様の『終わらない溺愛モード』を爆発させてしまいましたわーーー!!)
私の悪女への返り咲きは、またしても華麗な「純愛」によって阻止され。
代償として、アッシュ様という名の「甘すぎる監獄」で、深い、深い教育を受けることになったのでした。
私は鏡の前で、邪悪(自称)な笑みを浮かべて拳を握りしめました。
これまでの失敗は、すべて私の「お人よし」な本音が漏れてしまったせい。
ならば、今度は物理的な「欲」に訴えかける作戦ですわ!
今日は婚礼衣装のデザイナー、マルコ様をお招きしての打ち合わせ。
ここで私が、あえて悪趣味で、かつ天文学的な金額のドレスを要求すれば、いくらアッシュ様でも「この女はただの金食い虫だ」と正気に戻ってくださるはずです!
「お嬢様、またそうやって悪いお顔を……。でも、今日はいよいよドレス選びですからね。楽しみですね!」
「楽しみなんてとんでもありませんわ! 私はあの方の財布を空っぽにするための、冷酷なマシーンになるんですのよ!」
私は鼻息も荒く、最高級の布見本が並ぶサロンへと乗り込みました。
そこには、王宮御用達のデザイナー、マルコ様が、まるで芸術家のような鋭い眼光で待ち構えていました。
そしてその隣には、当然のようにアッシュ様が、優雅にソファに腰掛けて私を待っています。
「来たか、クロエル。さあ、好きなだけ君の『欲望』を彼にぶつけてくれ。私は君が望むものなら、星だって買い取ってドレスに縫い付けさせるつもりだ」
「あら、アッシュ様。ご機嫌よう。……ふん、後悔なさっても知りませんわよ? マルコ様! 私、世界で一番重くて、一番高価で、一番悪趣味な黒いダイヤモンドを散りばめた、漆黒のドレスを希望しますわ!」
(よしっ、掴みは完璧ですわ! 黒いドレスなんて婚礼には不謹慎の極み。しかも重すぎて歩けないほどの宝石を要求すれば、公爵家の財政も私の評判もガタガタですわ!)
マルコ様が驚いたように目を丸くしました。
アッシュ様の眉が、ピクリと動きます。
「……漆黒に黒ダイヤ、ですか。それはまた、大胆な……」
「ええ、そうですわ! 私は闇に生きる悪女なんですもの! さあ、今すぐ……っ」
喉の奥が、カッと熱くなりました。
首元のチョーカーが、窓から差し込む陽光を受けて、かつてないほど激しく紫色の光を放ちます。
「……さあ、今すぐ……っ、……なんて、本当は、真っ白で、雲のように軽やかで、あなたが私を抱きしめた時に、あなたの温もりがダイレクトに伝わるような、世界一シンプルなドレスにしてちょうだい!! 宝石なんていりませんわ! アッシュ様の瞳に映る私自身が、何よりの宝石なんですもの!! 私、豪華な飾りであなたの視線を邪魔したくないんですのよーーー!!」
「「「…………っ!!」」」
サロン全体が、甘ったるい沈黙に包まれました。
(あああああ! また! また、いじらしいほどにピュアな本音を!! しかも今、私は公爵様に抱きしめられる前提で話をしましたわよね!?)
マルコ様が、震える手でスケッチブックを握りしめました。
その瞳には、芸術家としての深い感動の涙が浮かんでいます。
「……素晴らしい。なんという純真な愛……! 『宝石は邪魔』……。こんなにも深く旦那様を愛していらっしゃるとは! 分かりました、私、持てる技術のすべてを注いで、あなたのその『透明な真実』を形にしてみせます!」
「違いますわ、マルコ様! 私は浪費したいんですの! 今のは首輪の誤作動で……っ」
(本当は、もっとこう、ギラギラした……っ!)
――ググッ。
「……本当は、もっとこう、……あなたの愛でギラギラに照らされたいんですのよ!! アッシュ様、私、あなたの腕の中でなら、ボロ布を纏っていたって世界で一番幸せな花嫁になれる自信がありますわ!! ああ、もう、早く当日になって、あなたの隣で永遠の誓いを交わしたい……!!」
私は、自分の口を両手で力いっぱい塞ぎました。
ですが、もう遅いのです。
アッシュ様が、ソファから立ち上がり、私の前にゆっくりと歩み寄ってきました。
その瞳は、もはや理性のタガが外れたような、とろとろの溺愛の色に染まっています。
「……クロエル。君という女性は、どこまで私を……」
アッシュ様が私の腰を引き寄せ、耳元で熱い吐息を漏らしました。
「……宝石はいらない、か。……ならば、その代わりに、君の全身を私の愛の証(キスマーク)で埋め尽くしてやろうか? それなら、誰の目にも触れず、君だけを私の色に染められる」
「ひ、ひぃいいいい! 破廉恥ですわ! デザイナーさんの前で何を……っ!」
(……なんて……っ!)
――ググッ。
「……なんて、……そんなこと言われたら、私、今すぐドレスの試着なんて放り出して、あなたと一緒に寝室へ駆け込みたくなってしまいますわ!! ああ、アッシュ様、私をあなたの愛で窒息させてちょうだい……!!」
「…………っ、……よし。マルコ、今日の打ち合わせは終わりだ。彼女をこれ以上、他人の目に晒すわけにはいかない」
アッシュ様が、私を軽々と横抱き――お姫様抱っこにして、サロンを後にしようとしました。
「ちょ、ちょっと待ってください! マルコ様! 見捨てないで! 私はまだ、悪女としての要望が……っ!」
「お幸せに、クロエル様! 最高のドレス、作らせていただきますよ!!」
マルコ様は、爽やかな笑顔で手を振って去っていきました。
(終わりましたわ……。私の『破産計画』、またしても公爵様の『終わらない溺愛モード』を爆発させてしまいましたわーーー!!)
私の悪女への返り咲きは、またしても華麗な「純愛」によって阻止され。
代償として、アッシュ様という名の「甘すぎる監獄」で、深い、深い教育を受けることになったのでした。
0
あなたにおすすめの小説
どんなあなたでも愛してる。
piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー
騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。
どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか?
※全四話+後日談一話。
※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。
※なろうにも投稿しています。
君が幸せになりたくなくても
あんど もあ
ファンタジー
来年には王立学園を卒業する伯爵家嫡男のライアンは、いい加減に婚約者を見つけないといけない。そんなライアンが新入生のクリスティナを好きになって婚約するのだが、実はクリスティナは過去の罪の贖罪のために生きていた。決して喜びや楽しさを求めず、後ろ向きに全力疾走しているクリスティナにライアンは……。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
ある公爵令嬢の死に様
鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。
まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。
だが、彼女は言った。
「私は、死にたくないの。
──悪いけど、付き合ってもらうわよ」
かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。
生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら
自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。
猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。
ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。
しかし、一年前。同じ場所での結婚式では――
見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。
「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」
確かに愛のない政略結婚だったけれど。
――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。
「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」
仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。
シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕!
――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。
※「小説家になろう」にも掲載。(異世界恋愛33位)
※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる