『「嘘つき令嬢」と婚約破棄された私、真実しか言えない「呪いの首輪」のせいで聖女だとバレて冷徹公爵に執着されています』

恋守あい

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「……いいですか、リタ。昨日までの私は、少し守りに入りすぎていましたわ。今日こそは、今日こそはヴァルハイト公爵家の権威を失墜させ、私、稀代の悪女として君臨してみせますわ!」


私は婚礼用のメニューを前に、キリリと眉を吊り上げて宣言しました。


ドレス選びでは、あろうことか「シンプルが一番」などという清廉潔白な本音を晒してしまいました。
ですが、披露宴の料理となれば話は別です。
ここで私が、とんでもない贅沢と、参列者を困惑させるような悪趣味なメニューを強行すれば、公爵家の評判はガタ落ちになるはずですわ!


「お嬢様、またそうやって悪いお顔を……。でも、今日はお料理の試食会ですからね。楽しみですね!」


「楽しみなんてとんでもありませんわ! 私はあの方の舌を、私の強欲さで麻痺させてやるんですのよ!」


私は鼻息も荒く、最高級の銀食器が並ぶダイニングルームへと乗り込みました。


そこには、アッシュ様がすでに座っており、料理長と何やら真剣な顔で打ち合わせをしていました。
そして、その片隅には……なぜか、視察という名目でやってきたジュリアン殿下の姿もありました。


「……来たか、クロエル。さあ、座ってくれ。君の望む料理なら、海の向こうから魔獣の肉を取り寄せてでも用意させよう」


アッシュ様が、私の席を引いてくれました。
その瞳には、「君が毒を食えと言うなら、私は喜んで飲み干そう」という、狂気すら感じる献身が宿っています。


「あら、アッシュ様。ご機嫌よう。……殿下も、相変わらずお暇ですのね。……料理長! 私、婚礼のメインディッシュには、金粉をこれでもかと振りかけた、一皿一千万ルクもするような、成金趣味の極みのようなステーキを希望しますわ!」


(よしっ、掴みは完璧ですわ! 金粉なんて味もしませんし、ただの無駄遣い。殿下の前で、私がどれだけ『お金のかかる嫌な女』かを見せつけてやるんですの!)


料理長が驚いたように目を丸くしました。
ジュリアン殿下が、悲しげに目を伏せます。


「……金粉のステーキ、ですか。それはまた、派手な……」


「ええ、そうですわ! 私は宝石を食べるのが趣味なんですの! さあ、今すぐ……っ」


喉の奥が、カッと熱くなりました。
首元のチョーカーが、執務室の窓から差し込む陽光を受けて、眩いばかりの光を放ちます。


「……さあ、今すぐ……っ、……なんて、本当は、そんな贅沢な一皿を私一人が食べるよりも、その予算で街の広場に特大の炊き出し会場を作ってちょうだい!! 婚礼の日は、この街の誰一人としてお腹を空かせた子がいないように、お肉たっぷりのシチューを全員に振る舞うんですのよ!! 私、自分だけが贅沢をするなんて、一口食べるごとに罪悪感で喉が詰まってしまいますわ!!」


「「「…………っ!!」」」


ダイニングルームに、聖なる沈黙が流れました。


(あああああ! また! また、いじらしいほどに慈愛に満ちた本音を!! なんで私は、自分の腹を満たすことより、民衆の胃袋を心配しているのよ!!)


料理長が、震える手でメニュー表を握りしめました。
その瞳には、一人の料理人としての深い尊敬の涙が浮かんでいます。


「……素晴らしい。なんという博愛の精神……! 『自分だけが贅沢をすると喉が詰まる』……。お嬢様、あなたこそ真の国母となられるお方だ! 分かりました、私、持てる技術のすべてを注いで、王都中の人間が腰を抜かすほど美味い『祝福のシチュー』を作ってみせます!」


「違いますわ、料理長! 私は金粉を食べたいんですの! 今の言葉は……っ」


(本当は、もっとこう、他人が羨むような……っ!)


――ググッ。


「……本当は、もっとこう、……他人が幸せそうに笑っている姿を、アッシュ様の隣で眺めていたいんですのよ!! アッシュ様、私、あなたが稼いだお金は、二人を祝福してくれる人たちの笑顔のために使いたいんですの。それが私にとって、何よりの贅沢なんですのよ!!」


私は、自分の口を両手で力いっぱい塞ぎました。
ですが、もう遅いのです。
ジュリアン殿下が、ガタッと椅子を立ち上がり、震える声で呟きました。


「……クロエル……。君は、君という女性は……。あんなに私に冷たくされながら、最後まで民のことを、他人の幸せを考えていたのか……っ」


「で、殿下? どうして泣いていらっしゃるの?」


「……私は、私はなんて愚かだったんだ!! こんな聖女を捨てて、あんな……あんな……っ!!」


(あ、あんな……マリエル様のことは愛しているはずでしょうに! なんでそんなに絶望しているのよ!)


ジュリアン殿下は、そのまま顔を覆って部屋を飛び出していきました。
完全なる「ざまぁ」の瞬間でしたが、私の心はちっとも晴れません。
だって、本意じゃないんですもの!


アッシュ様が、ゆっくりと私の元へ歩み寄り、私の手を優しく取りました。


「……クロエル。君のその『強欲』さ……。全人類を幸せにしたいという、神のような傲慢さ。……私は、そんな君を誇りに思うよ」


「ア、アッシュ様……。違いますの。私はただ、あなたの財布を……っ」


(あなたの財布を、空っぽにしたかっただけ……っ!)


――ググッ。


「……あなたの財布を、……空っぽにしてでも、この国から悲しみを消し去りたかっただけなんですのよ!! ああ、アッシュ様! 私、あなたの愛に包まれていると、世界中を幸せにできるような気がして、力が湧いてくるんですの……!!」


「…………っ、……よし。料理長、予算は十倍だ。この国の全土で炊き出しを行え。……彼女の願いだ、すべて叶えてやれ」


「ははっ! 承知いたしました!」


料理長は、爽やかな笑顔で厨房へと走っていきました。


(終わりましたわ……。私の『破産計画』、またしても公爵家の『好感度を天元突破させる』結果になってしまいましたわーーー!!)


私の悪女への返り咲きは、またしても華麗な「博愛」によって阻止され。
代償として、アッシュ様という名の「甘すぎる愛の海」で、深い、深い教育(抱擁)を受けることになったのでした。
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