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「……見苦しいわね、レオンハルト。その震える膝で、よくもまあ玉座に座り続けられたものだわ」
玉座の間。重厚な扉を蹴破るようにして現れたロザリエに、レオンハルトは悲鳴に近い声を上げた。
かつての威光は見る影もない。整えられていたはずの金髪は乱れ、瞳は恐怖に濁っている。
「こ、来い! 近衛兵! この女を切り刻め! 王への反逆だぞ!」
レオンハルトの叫びに、数人の騎士が剣を抜こうとした。だが、ロザリエの背後から現れた父・アトラス公爵の一喝が、それを止めた。
「……剣を引け。お前たちが守ろうとしているのは、王ではない。禁忌を犯した大罪人だ」
「お、お父様……!? なぜあなたがここに……!」
「当たり前でしょう。わたくしが根回ししておいたのよ。わたくしが下町で泥を啜っている間、お父様には王宮内の『掃除』をお願いしていたの」
ロザリエは冷笑を浮かべ、一歩ずつレオンハルトへと歩み寄った。
「殿下……、私をお守りください! ロザリエ様が、私を……私を殺そうとしていますわ!」
カトリーヌが震える声でレオンハルトに縋り付く。だが、ロザリエはその腕を掴み、強引に引き剥がした。
「離しなさい。あんたのその汚い手で、これ以上この男を堕落させるのは見ていて反吐が出るわ。……カトリーヌ、あんたが聖女のフリをして、ダルメシアンに呪いの薬を盛った証拠も、すべて上がっているのよ」
「な、何を……、証拠なんてあるはずが……!」
「あるわよ。あんたが『奇跡の薬』と称して配っていたものの成分……。下町の薬師たちが、すべて解析してくれたわ。それは人を狂わせ、魂を損なう禁忌の毒よ」
ロザリエが突きつけた鑑定書を前に、カトリーヌは顔を真っ青にしてその場にへたり込んだ。
「……そんな……。私はただ、殿下の愛を……王妃の座が欲しかっただけなのに……」
「愛、ですって? 笑わせないで。あんたが愛したのは、玉座という名の椅子だけでしょう。……レオンハルト、あんたもよ。自分の無能を隠すために、わたくしを追い出し、ダルメシアンを呪った。その代償は、あんたの首一つじゃ足りないわ」
ロザリエは玉座の階段を登り、レオンハルトの目の前に立った。
「……どきなさい。そこは、あんたのような卑怯者が座っていい場所じゃない」
「う、うああ……! 嫌だ、私は王だ! 私が法だ!」
「いいえ。法は民のためにある。……そして、今のあんたを裁くのは、あんたが蔑んできたその民たちよ」
ロザリエが窓の外を指差すと、地鳴りのような民衆の怒号が王宮を震わせた。
「……レオンハルト・ヴァン・クリストバル。王太子位の剥奪、および禁忌呪術使用の罪により、終身監禁を言い渡すわ。……地獄へ行くにはまだ早すぎるけれど、その腐った魂が枯れ果てるまで、暗い牢獄で後悔なさい」
騎士たちの手によって、レオンハルトとカトリーヌは引き立てられていった。
「離せ! 私は王だ! ロザリエ、貴様……呪ってやる! 末代まで呪ってやるぞ!」
レオンハルトの叫びが遠ざかり、玉座の間には静寂が戻った。
「……終わりましたわね、お嬢様」
カミーユが涙を拭いながら歩み寄る。アトラス公爵も、娘の成長に圧倒されたように立ち尽くしていた。
だか、ロザリエの表情は晴れなかった。
彼女は、空っぽになった玉座を見つめ、それから自分の手のひらに残る「銀の首輪」を握りしめた。
「……いいえ。まだ終わっていないわ。わたくしの本当の戦いは、ここからよ」
「……ロザリエ。どこへ行くつもりだ。これからはお前がこの国を支えていかねばならないというのに」
父の問いに、ロザリエは振り返らずに応えた。
「……そんなこと、勝手にやってちょうだい。わたくしには、もっと大事な『所有物』がいるのよ。……あの大馬鹿に、まだ借りを返してもらっていないわ」
ロザリエはドレスの裾を翻し、王宮を飛び出した。
権力も、名誉も、今の彼女にはどうでもよかった。
ただ、あの潮風が吹く墓地で、自分を待っているはずの「一匹の犬」に会いたかった。
玉座の間。重厚な扉を蹴破るようにして現れたロザリエに、レオンハルトは悲鳴に近い声を上げた。
かつての威光は見る影もない。整えられていたはずの金髪は乱れ、瞳は恐怖に濁っている。
「こ、来い! 近衛兵! この女を切り刻め! 王への反逆だぞ!」
レオンハルトの叫びに、数人の騎士が剣を抜こうとした。だが、ロザリエの背後から現れた父・アトラス公爵の一喝が、それを止めた。
「……剣を引け。お前たちが守ろうとしているのは、王ではない。禁忌を犯した大罪人だ」
「お、お父様……!? なぜあなたがここに……!」
「当たり前でしょう。わたくしが根回ししておいたのよ。わたくしが下町で泥を啜っている間、お父様には王宮内の『掃除』をお願いしていたの」
ロザリエは冷笑を浮かべ、一歩ずつレオンハルトへと歩み寄った。
「殿下……、私をお守りください! ロザリエ様が、私を……私を殺そうとしていますわ!」
カトリーヌが震える声でレオンハルトに縋り付く。だが、ロザリエはその腕を掴み、強引に引き剥がした。
「離しなさい。あんたのその汚い手で、これ以上この男を堕落させるのは見ていて反吐が出るわ。……カトリーヌ、あんたが聖女のフリをして、ダルメシアンに呪いの薬を盛った証拠も、すべて上がっているのよ」
「な、何を……、証拠なんてあるはずが……!」
「あるわよ。あんたが『奇跡の薬』と称して配っていたものの成分……。下町の薬師たちが、すべて解析してくれたわ。それは人を狂わせ、魂を損なう禁忌の毒よ」
ロザリエが突きつけた鑑定書を前に、カトリーヌは顔を真っ青にしてその場にへたり込んだ。
「……そんな……。私はただ、殿下の愛を……王妃の座が欲しかっただけなのに……」
「愛、ですって? 笑わせないで。あんたが愛したのは、玉座という名の椅子だけでしょう。……レオンハルト、あんたもよ。自分の無能を隠すために、わたくしを追い出し、ダルメシアンを呪った。その代償は、あんたの首一つじゃ足りないわ」
ロザリエは玉座の階段を登り、レオンハルトの目の前に立った。
「……どきなさい。そこは、あんたのような卑怯者が座っていい場所じゃない」
「う、うああ……! 嫌だ、私は王だ! 私が法だ!」
「いいえ。法は民のためにある。……そして、今のあんたを裁くのは、あんたが蔑んできたその民たちよ」
ロザリエが窓の外を指差すと、地鳴りのような民衆の怒号が王宮を震わせた。
「……レオンハルト・ヴァン・クリストバル。王太子位の剥奪、および禁忌呪術使用の罪により、終身監禁を言い渡すわ。……地獄へ行くにはまだ早すぎるけれど、その腐った魂が枯れ果てるまで、暗い牢獄で後悔なさい」
騎士たちの手によって、レオンハルトとカトリーヌは引き立てられていった。
「離せ! 私は王だ! ロザリエ、貴様……呪ってやる! 末代まで呪ってやるぞ!」
レオンハルトの叫びが遠ざかり、玉座の間には静寂が戻った。
「……終わりましたわね、お嬢様」
カミーユが涙を拭いながら歩み寄る。アトラス公爵も、娘の成長に圧倒されたように立ち尽くしていた。
だか、ロザリエの表情は晴れなかった。
彼女は、空っぽになった玉座を見つめ、それから自分の手のひらに残る「銀の首輪」を握りしめた。
「……いいえ。まだ終わっていないわ。わたくしの本当の戦いは、ここからよ」
「……ロザリエ。どこへ行くつもりだ。これからはお前がこの国を支えていかねばならないというのに」
父の問いに、ロザリエは振り返らずに応えた。
「……そんなこと、勝手にやってちょうだい。わたくしには、もっと大事な『所有物』がいるのよ。……あの大馬鹿に、まだ借りを返してもらっていないわ」
ロザリエはドレスの裾を翻し、王宮を飛び出した。
権力も、名誉も、今の彼女にはどうでもよかった。
ただ、あの潮風が吹く墓地で、自分を待っているはずの「一匹の犬」に会いたかった。
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