​断罪の場に遅刻しただけなのに皇帝陛下に溺愛されています

恋守あい

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ギニョール帝国の政務の中心地、円卓の間。
そこには帝国を支える重鎮たちが顔を揃え、重苦しい空気が漂っていた。

しかし、その中心に座るアラル皇帝の隣には、場違いなほど優雅にティーカップを傾ける少女――レティシアの姿があった。

「陛下、いくらなんでもこれは……。いくら救国の恩人候補とはいえ、このような神聖な場に、よその国の令嬢を同席させるとは」

宰相のベルンハルトが、眉間に深い皺を刻んで進言した。
彼は生真面目な性格で知られ、アラルの「溺愛」っぷりに危機感を抱いている一人だ。

「ベルンハルト。言葉を慎め。彼女は私の命の恩人であり、今日からは帝国の特別顧問だ」

「顧問、と言われましても……。失礼ながら、彼女に何ができるというのですか? エストニア王国のような小国の内政と、我が帝国の複雑な機構は別物ですぞ」

他の大臣たちも、疑いと嘲笑の混じった視線をレティシアに向ける。
だが、当の本人は、皿に盛られたマカロンをどれから食べるか、真剣に悩んでいる最中だった。

「……ん。このピスタチオのマカロン、香ばしくて最高ですわ」

「そうか。ならば職人に褒美をやらねばな。……それで、ベルンハルト。例の『港湾都市の赤字問題』だが、どうなった」

アラルの問いに、宰相は苦渋に満ちた表情で分厚い資料を広げた。

「難航しております。物流を増やせば関税の管理が追いつかず、不正が横行する。かといって検閲を厳しくすれば、商人が他国の港へ流れてしまう……。計算上、どうしても年間で三億ギルの損失が出る見込みです」

「三億ギルか……。頭の痛い問題だな」

アラルが溜息をついた、その時だった。
マカロンを飲み込んだレティシアが、ひょいと横から資料を覗き込んだ。

「失礼いたします。……あら、この計算、根本的な前提が間違っていませんこと?」

「……何だと?」

ベルンハルトが不快そうに声を荒らげる。
だが、レティシアは気にせず、クリームのついた指先で資料の一点を指し示した。

「ここの船舶入港税の計算ですが、季節による海流の変化を考慮していませんわね。冬の間は北側のルートが閉鎖されるのですから、南側の入港数が増えるのは当然。それなのに、一律の平均値で人員を配置しているから、無駄な残業代と、逆に人手不足による徴収漏れが発生しているのですわ」

「……え?」

「南側の職員を二割増やして、冬の間だけ関税をコンマ二パーセント下げれば、商人は喜びますし、結果として徴収総額は四億ギル増えますわよ? 差し引き一億ギルの黒字ですわ」

レティシアはそう言うと、次の獲物であるショコラのマカロンを手に取った。
円卓の間が、一瞬で凍りついたような静寂に包まれた。

ベルンハルトは慌てて手元の計算機(魔導具)を叩き始める。
数分後、彼の顔からは血の気が引き、額から大粒の汗が流れ落ちた。

「……完全に……完全に一致している。私が一ヶ月かけて導き出せなかった最適解を、彼女はマカロンを食べながら、一瞬で……!」

「どうした、ベルンハルト。顔色が悪いぞ」

アラルが口角を上げ、勝ち誇ったように笑った。

「言っただろう。彼女は至宝だと。……レティシア、追加のお菓子は何がいい? 望むなら、隣の領地からパティシエを丸ごと買い取ってこよう」

「いえ、今はこのマカロンで満足です。……あ、でも、あちらのタルトも一口いただきたいですわ」

「ああ。あーん、してやろう」

「……アラル様、皆様が見ていらっしゃいますので、それは結構です」

赤面する皇帝と、マイペースな特別顧問。
そして、文字通り腰を抜かした重鎮たち。

こうして、レティシアの「お菓子を食べながらの救国」が幕を開けた。

一方、エストニア王国では。
カイル王子が、暴徒と化した商人たちに囲まれていた。

「おい! なぜ港の利用許可が降りないんだ!」
「昨日の夜会で、レティシア様が不在だったせいで契約書が紛失したって本当か!?」

「う、うるさい! 今探している! 私を誰だと思っているんだ!」

カイルの叫びは、もはや誰の心にも響かない。
彼が切り捨てたのは、ただの令嬢ではなく、国の未来そのものだったのだ。
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