雑多な短編

八紘一宇

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不死者の話。

不死者と記憶

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記憶とは時間の剥製である。


薬に漬けられ、ラベルを貼られ、その中身は抜き取られ柔い綿が詰められる。

とすれば夢はなんだろうか、特別展のようなものだろうか。
様々な私の中の時間の剥製が無作為のような作為によって一堂に会してなにか意味を持たせようとしているように感じる。


先日海に行く夢を見た。

長く生きていれば海に行くことなど幾千万もあるが、明確に海に行こうとして実際に赴いた経験は少ない。

剥製となった海の記憶は、その時の私の心情や背景というものを内包していない。

私は感傷的な人間であるため、わざわざ海に行ったのであればなにか浸りたいことがあったはずなのだがそんなことすら思い出せない。

ただひたすらに、波の打ち寄せる音と風景にえも言われぬ満足を覚えた。

ただそれだけの話。
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