2 / 125
麗人の小説家②
しおりを挟む
「皆。こちらが源清先生です。小説家をされている方です」
彼が教壇の中心に立ち、続いて校長が入ってきて隣に立つ。校長が彼を示して紹介した。
「源清麓乎(げんせい ろくや)といいます。小説や詩歌を書いております」
続いて彼が言った。先程のひとことに続く発声だったがその声もやはり低く、しかしやわらかくあたたかな響きを帯びていた。
耳から入ったその声にしばし聴き入ってしまい、金香はそこではっとした。声に聴き入ってしまうほど彼に見入ってしまっていたことに気付く。
しかしそれは男の人というよりも性別を感じさせない麗人を見たという感覚に近かった。ゆえに金香は、ほっとしていた。……大人の男性は、あまり得意ではなかったので。
「先生のご本を読んだことがある子はいるかな?」
校長が質問する。はい、と手をあげたのは一人の女の子。
来年寺子屋を卒業する、十二になったばかりの子だ。名を瑠衣(るい)という。
本が好きで、その点で金香とよく話すことがあった。
瑠衣は教室の中で自分だけが読了していたことを誇らしく思ったのだろう、「『流れゆく侭(まま)に』を読みましたっ」と、堂々と言ったのだが。
「ほう。嬉しいな。少し難しくなかったかい?」
ふっと、源清先生が笑みを浮かべて瑠衣を見た。その笑みにあてられたように、瑠衣は顔を真っ赤にして一気にしどろもどろになってしまう。
「え、えっとっ、難しかったですけど、楽しく読みました!」
ふふ、女の子らしい。
金香は自分も『年頃の女の子』に入る部類であることを棚にあげて、むしろ微笑ましく思った。
このように綺麗な男の人に笑顔と好意的な言葉を向けられたのだ。男性を意識してくるような年頃の女子には、少々刺激が強いかもしれない。
しかし自分が『年頃の女の子』であるという自覚は、金香にはあまりなかった。
むしろ『年頃の女の子』。
そういう存在であることはあまり嬉しくない事実、むしろコンプレックスともいえる事案であったために、そう思わないように無意識にしていたのかもしれない。
彼が教壇の中心に立ち、続いて校長が入ってきて隣に立つ。校長が彼を示して紹介した。
「源清麓乎(げんせい ろくや)といいます。小説や詩歌を書いております」
続いて彼が言った。先程のひとことに続く発声だったがその声もやはり低く、しかしやわらかくあたたかな響きを帯びていた。
耳から入ったその声にしばし聴き入ってしまい、金香はそこではっとした。声に聴き入ってしまうほど彼に見入ってしまっていたことに気付く。
しかしそれは男の人というよりも性別を感じさせない麗人を見たという感覚に近かった。ゆえに金香は、ほっとしていた。……大人の男性は、あまり得意ではなかったので。
「先生のご本を読んだことがある子はいるかな?」
校長が質問する。はい、と手をあげたのは一人の女の子。
来年寺子屋を卒業する、十二になったばかりの子だ。名を瑠衣(るい)という。
本が好きで、その点で金香とよく話すことがあった。
瑠衣は教室の中で自分だけが読了していたことを誇らしく思ったのだろう、「『流れゆく侭(まま)に』を読みましたっ」と、堂々と言ったのだが。
「ほう。嬉しいな。少し難しくなかったかい?」
ふっと、源清先生が笑みを浮かべて瑠衣を見た。その笑みにあてられたように、瑠衣は顔を真っ赤にして一気にしどろもどろになってしまう。
「え、えっとっ、難しかったですけど、楽しく読みました!」
ふふ、女の子らしい。
金香は自分も『年頃の女の子』に入る部類であることを棚にあげて、むしろ微笑ましく思った。
このように綺麗な男の人に笑顔と好意的な言葉を向けられたのだ。男性を意識してくるような年頃の女子には、少々刺激が強いかもしれない。
しかし自分が『年頃の女の子』であるという自覚は、金香にはあまりなかった。
むしろ『年頃の女の子』。
そういう存在であることはあまり嬉しくない事実、むしろコンプレックスともいえる事案であったために、そう思わないように無意識にしていたのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる