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春間近③
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「とてもかわいらしいわ」
「ありがとうございます」
金香の前で珠子は手を合わせて喜んでくれて、金香もお礼を言う。鏡の前でくるりと回ると、すかーとがふわりと広がった。
すっかり春になったので、珠子が新しい洋服を仕立ててくれる、という話になったのだ。
今度のすかーとは黄緑色だった。若草のような、春を表している色。
冬のものとは違って膝くらいの丈が良いと、はじめ珠子に提案されたときは躊躇った。
脚を出すのは慣れていない。膝より上はもってのほかだが、膝が見えるのもちょっと恥ずかしい。
が、珠子は譲らなかった。
「短い丈のスカートは若いうちが一番似合うのよ。今のうちにたくさん着ておかないと」
そしてまんまと押し切られてしまった。
けれど実際に着てみれば、珠子の言う通り、そう悪いものでもなかった。
靴下という、和装でいう足袋のようなものを履くことで、脚も思ったより晒されない。
鏡に映った新しい服の自分を金香は気に入った。
上は冬と同じぶらうすだが、冬着たものよりかわいらしかった。丸い襟にレェスとりぼんがついている。
冬に何度か桃色のすかーとの洋装を着たおかげで、着るのに困ることは無かった。
「これからは洋装の世になるのよ」と珠子はいつも自信ありげに言っていたし、実際に町中でもちらほらと見られるようになっている。浮くことなどない。
「今度のディトで先生にお見せするのよね」
「はい」
もう珠子にそう言われても恥じらうことは無かった。むしろ嬉しくて金香は笑って頷く。
麓乎にこの姿を早く見せたかった。きっと褒めてくれるだろう。それが極上の評価である。
「そういえば、珠子さん。来週はもう、雑誌の発売ですね」
思いついて金香は言った。
秋の新人賞の雑誌だ。奨励賞を取った珠子は雑誌に作品の掲載が決まっていた。
下の賞であったので、大賞から順繰りに載っていく以上、掲載が遅くなり春になってしまったのだ。それでもおめでたいことに変わりはない。
「そうね。とても楽しみで、今から眠れなさそうよ」
珠子はすぐに顔を輝かせた。当たり前だ、賞を取ったとき以上に嬉しいだろう。
「なにを書いたかなんてわかっているのに、まるで初めて読むような気持ちになると思うわ」
「きっとそうなると思います。私も拝読するのが楽しみです」
金香の言葉に珠子は嬉しそうに「ありがとう」と言った。
「金香さんも着実に成果をあげているじゃない。きっとすぐに賞も取れるわ」
それは冬季賞でも選評をいただけたことを示していた。実際に受賞している珠子にそう言われればきっとそう出来る気がして、金香は「頑張ります」と答える。
「むしろ私より先に賞を取られたら、やっかんでしまったかも」
からかうように言われて二人でくすくすと笑い合った。
そのあと、ふと珠子が言った。
「このお洋服には、先生から贈られた紅いりぼんをつけるのよね」
「はい。……似合いませんか?」
質問の意味がよくわからずに、金香は首をかしげた。
似合わないだろうか。自分では違和感がないので、せっかく麓乎に貰ったものなのだからそのままつけようと思っていたのだが。
珠子もそのとおりのことを言う。先程、確認するように訊いてきたというのに。
「いえ、むしろぴったりだと思うわ。絶対につけていってね。忘れては駄目よ」
珠子の言葉がなにを意味しているのかは聞けないまま。
「では金香さんのディトのあと、また逢いましょう」と珠子の屋敷でお別れとなってしまったのだった。
「ありがとうございます」
金香の前で珠子は手を合わせて喜んでくれて、金香もお礼を言う。鏡の前でくるりと回ると、すかーとがふわりと広がった。
すっかり春になったので、珠子が新しい洋服を仕立ててくれる、という話になったのだ。
今度のすかーとは黄緑色だった。若草のような、春を表している色。
冬のものとは違って膝くらいの丈が良いと、はじめ珠子に提案されたときは躊躇った。
脚を出すのは慣れていない。膝より上はもってのほかだが、膝が見えるのもちょっと恥ずかしい。
が、珠子は譲らなかった。
「短い丈のスカートは若いうちが一番似合うのよ。今のうちにたくさん着ておかないと」
そしてまんまと押し切られてしまった。
けれど実際に着てみれば、珠子の言う通り、そう悪いものでもなかった。
靴下という、和装でいう足袋のようなものを履くことで、脚も思ったより晒されない。
鏡に映った新しい服の自分を金香は気に入った。
上は冬と同じぶらうすだが、冬着たものよりかわいらしかった。丸い襟にレェスとりぼんがついている。
冬に何度か桃色のすかーとの洋装を着たおかげで、着るのに困ることは無かった。
「これからは洋装の世になるのよ」と珠子はいつも自信ありげに言っていたし、実際に町中でもちらほらと見られるようになっている。浮くことなどない。
「今度のディトで先生にお見せするのよね」
「はい」
もう珠子にそう言われても恥じらうことは無かった。むしろ嬉しくて金香は笑って頷く。
麓乎にこの姿を早く見せたかった。きっと褒めてくれるだろう。それが極上の評価である。
「そういえば、珠子さん。来週はもう、雑誌の発売ですね」
思いついて金香は言った。
秋の新人賞の雑誌だ。奨励賞を取った珠子は雑誌に作品の掲載が決まっていた。
下の賞であったので、大賞から順繰りに載っていく以上、掲載が遅くなり春になってしまったのだ。それでもおめでたいことに変わりはない。
「そうね。とても楽しみで、今から眠れなさそうよ」
珠子はすぐに顔を輝かせた。当たり前だ、賞を取ったとき以上に嬉しいだろう。
「なにを書いたかなんてわかっているのに、まるで初めて読むような気持ちになると思うわ」
「きっとそうなると思います。私も拝読するのが楽しみです」
金香の言葉に珠子は嬉しそうに「ありがとう」と言った。
「金香さんも着実に成果をあげているじゃない。きっとすぐに賞も取れるわ」
それは冬季賞でも選評をいただけたことを示していた。実際に受賞している珠子にそう言われればきっとそう出来る気がして、金香は「頑張ります」と答える。
「むしろ私より先に賞を取られたら、やっかんでしまったかも」
からかうように言われて二人でくすくすと笑い合った。
そのあと、ふと珠子が言った。
「このお洋服には、先生から贈られた紅いりぼんをつけるのよね」
「はい。……似合いませんか?」
質問の意味がよくわからずに、金香は首をかしげた。
似合わないだろうか。自分では違和感がないので、せっかく麓乎に貰ったものなのだからそのままつけようと思っていたのだが。
珠子もそのとおりのことを言う。先程、確認するように訊いてきたというのに。
「いえ、むしろぴったりだと思うわ。絶対につけていってね。忘れては駄目よ」
珠子の言葉がなにを意味しているのかは聞けないまま。
「では金香さんのディトのあと、また逢いましょう」と珠子の屋敷でお別れとなってしまったのだった。
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