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トウシューズは宝物

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 ちなみにこのトウシューズを今、はくわけではない。

 なぜかというと、毎回のレッスンはいきなりトウシューズではじまるわけではないからだ。

 はじめにバレエシューズをはいて、体を慣らしてから、トウシューズのレッスンへ入る。

 それを初めて知ったとき、このCクラスに入って、同じクラスの先にトウシューズをもらっていた子たちがそうするのを見て知ったときだが、莉瀬は思ったものだ。

『プロは練習をやめない』ってこのことだ、と。

 いくら上手になっても、それこそ乙津先生レベルになってもそれは同じなのだという。

 そう聞いたので、こつこつがんばれた部分は確かにあった。


 なので今日も最初にはいたのは、一緒に入っているバレエシューズであった。

 これはもうすっかり足になじんだもの。

 トウシューズはそのまま、布の袋に入れて手に持って行き、使う時間になるまでスタジオのすみに置いておくのである。

 ほかには一枚のタオルを持って、莉瀬はフロアに出た。

 そろそろほかの子たちも集まりはじめている。

 乙津先生もフロアのはしにあるテーブルの前に座って、なにか作業をしているようだ。


「こんにちはー」

 莉瀬は、今日初めて会う乙津先生にもあいさつをした。

 レオタードではなく、ぴたりとした黒のロングパンツと、短いシャツを着た乙津先生はふり返って「莉瀬さん、こんにちは」と微笑んでくれる。

 先生はほんの小さな子ども以外の生徒は、「〇〇さん」と呼ぶのだ。

 名字だとかぶることが多いし、かといって大きくなってからちゃん付けというわけにもいかないのだろう。

 莉瀬のはじめに入ったひよこクラスでは「〇〇ちゃん」であったが、Dクラスからは「〇〇さん」になるようだ。

 ひよこクラスとはいえ莉瀬は入ったときすでに小学四年生だったので、いきなり「莉瀬さん」であったが。

 その呼び方もひよこクラスではちょっと、浮いていて、居心地悪かったものだ。
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