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聞いてしまった陰口

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「うわ、ひっどーい」

 まわりの子たちが、朱里のその言葉にそう言ったけれど、止める意味でないのは、はっきりわかった。

 くすくすと、いやらしい笑いかたをしている。

「でもいえてる……」

「バリエーション踊れるって調子に乗ってるけど、リゼットなんて村娘だからね」

「そうそう、白鳥はコールドでもどっかの国のお姫さまなんだから」

 あはは、と笑い声があがって、莉瀬はごくりとつばを飲んだ。

 飲みこみたかったのは、つばではなかった。

 喉の奥にある、なにか気持ちの悪いかたまりだ。

 そっと更衣室のドアを閉めて、入り口へ向かう。

 フロアでは大人クラスのレッスンがはじまっていた。

 乙津先生や大人クラスのひとにあいさつをしなくてよかったタイミングであることに、ほっとした。


 入り口のドアを開けて、階段を駆けおりた。

 教室のある建物を出て、外へ。

 外はさっきと同じ、すっかり暗かった。


 いつも歩いている道、いつもの時間なのに、なぜか今の莉瀬にはとても心細く感じた。

 莉瀬はゆっくりと、駅への道を歩いた。

 その道はなんだか、どこへ繋がっているかがわからないように感じてしまう。
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