トウシューズにはキャラメルひとつぶ

聞いてしまった陰口

4

　情けない、情けない。

　こんなことで泣くなんて。


　だって私は間違ってない。

　がんばってる。

　だから泣くことなんてない。


　それでもショックだったことも、悲しくなったことも、我慢できなかった。

　これまでかげでこそこそ冷たい目で見られていたことまで思い出して、涙はとまりそうになかった。


　でもこんな顔ではうちに帰れない。

　お母さんに心配される。

　ぐいっと頬を拭ったのだけど。


「お、莉瀬さん！」

　知っている声がした。

　顔をあげると、そこには隼斗くんがいる。

　隼斗くんも学校帰りなのだろう。

　制服にスクールバッグを持っていた。

　莉瀬を見て嬉しそうにしてくれたのだと、思う。


　でも今の莉瀬にはよくわからなかった。

　なにしろ泣いてしまったせいで、視界が、ぼやけているのだから。

　それになんだか、目の前がもやもやしてなにも見えないような気持ちさえ感じた。


　それでも隼斗くんは、「今、レッスン終わり？」と聞いてくれたのだけど、そのあと不思議そうな声を出した。

　莉瀬がいつもと違う様子だったことに、気づいたのだろう。

　そして泣いていたこともわかってしまったかもしれない。


　そのことに、違う意味の涙が出てきた。

　会いたくなかった、と思う。

　こんな情けない姿のときに。

　一番好きなひとになんて。

　でも、隼斗くんの言葉は優しかった。

「……どした？」

　聞かれたのは、たったそれだけ。

　でも今の莉瀬にとってはとても、とてもあたたかい言葉と声だった。

　さっき、凍りついた心に優しく届く。

　でも、さっきあまりに心が冷えてしまったせいで、優しい言葉は莉瀬の心に痛いくらいに染みた。