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手の中に、本
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「手元に置いておきたくて」
美雪の言葉に、司は息を呑んだ顔をする。
それは、司が以前自分で言ったことだ。意味は少々違えど。
『気に入ったものは、手元に置いておきたい』
それは、本を買って、棚を圧迫しないためにすぐに売ってしまうのは嫌なので、電子版でいいから手元に置いておきたい。そういう意味だったけれど、美雪の言ったのは同じ類で、しかしもう一段階、上のことなのだ。
「大事な詩、なんでしょう?」
続けた。
これが核心である。
遠回しではあるけれど、気持ちの欠片くらいは伝わってくれただろう。
大事な詩。
司の気持ちがこもった詩。
文字に気持ちを込めるのは、なにも作者だけではない。読んだひともそれぞれ、自分の中に吸収して自分の感情を紛れ込ませていくものなのだ。
そして今は、その一番あたたかい感情が、この詩の中にある。
「……ああ。そうなんだ」
数秒して、司は肯定してくれた。笑みに変わる。
それは、どこかはにかんだようなもので、美雪は初めて見る表情だった。
とくりと心臓が高鳴る。
飛び出しそうなものではなく、速くも、穏やかである感覚で鳴っていった。
そして司は本棚に向き合って、手を伸ばした。
そこには、抜きだして美雪に渡してくれたものとは別に、もう一冊ある。有名な一冊だから、複数入っていたのだろう。
「実は俺も欲しくなったんだ」
それは呟くようだったけれど、隣にいるのだ。当たり前のように、しっかり聞こえた。
まるで美雪だけに聞かせてくれるような、そういうもののように感じてしまう。
そのもう一冊を抜き出して、手に取った。両手で支えて、開くことはなく見つめる。やはり、今ここで気軽に開けるものではないだろうから。
「大事なものは、形あるもので欲しいなって」
本を数秒見つめて、そのあと美雪のほうへ顔を振り向けた。
今度ははっきりとした笑みが浮かんでいた。
それは本に対する想いだけではないだろう。
自分の、あの詩に託した想い。
それを表情にしたら、きっとこんな優しい笑顔になる。
「それは小さくて薄い、本を模したものじゃなくて、本物の本がいい」
笑みと同じ、はっきりとした、その言葉。
美雪が思って、この本を探しに来た理由と同じだった。
電子の本もいい。プラスチックの本だっていい。
けれど、紙の本の、しっかりとした質量。
大事なときには、きっとそれが必要になってくる。
そしてずっと形としてそばに在ってくれるのだ。
「私もそう思う。……だから、……感想、言っていいかな」
自分も同じだから。
しっかりと、ここにあるものとして。
今度は『言葉』として。
伝えるのだ。
そんな美雪に、司は笑った。花のほころぶような、やさしい笑顔で。
「ああ。聞かせてほしい」
美雪の言葉に、司は息を呑んだ顔をする。
それは、司が以前自分で言ったことだ。意味は少々違えど。
『気に入ったものは、手元に置いておきたい』
それは、本を買って、棚を圧迫しないためにすぐに売ってしまうのは嫌なので、電子版でいいから手元に置いておきたい。そういう意味だったけれど、美雪の言ったのは同じ類で、しかしもう一段階、上のことなのだ。
「大事な詩、なんでしょう?」
続けた。
これが核心である。
遠回しではあるけれど、気持ちの欠片くらいは伝わってくれただろう。
大事な詩。
司の気持ちがこもった詩。
文字に気持ちを込めるのは、なにも作者だけではない。読んだひともそれぞれ、自分の中に吸収して自分の感情を紛れ込ませていくものなのだ。
そして今は、その一番あたたかい感情が、この詩の中にある。
「……ああ。そうなんだ」
数秒して、司は肯定してくれた。笑みに変わる。
それは、どこかはにかんだようなもので、美雪は初めて見る表情だった。
とくりと心臓が高鳴る。
飛び出しそうなものではなく、速くも、穏やかである感覚で鳴っていった。
そして司は本棚に向き合って、手を伸ばした。
そこには、抜きだして美雪に渡してくれたものとは別に、もう一冊ある。有名な一冊だから、複数入っていたのだろう。
「実は俺も欲しくなったんだ」
それは呟くようだったけれど、隣にいるのだ。当たり前のように、しっかり聞こえた。
まるで美雪だけに聞かせてくれるような、そういうもののように感じてしまう。
そのもう一冊を抜き出して、手に取った。両手で支えて、開くことはなく見つめる。やはり、今ここで気軽に開けるものではないだろうから。
「大事なものは、形あるもので欲しいなって」
本を数秒見つめて、そのあと美雪のほうへ顔を振り向けた。
今度ははっきりとした笑みが浮かんでいた。
それは本に対する想いだけではないだろう。
自分の、あの詩に託した想い。
それを表情にしたら、きっとこんな優しい笑顔になる。
「それは小さくて薄い、本を模したものじゃなくて、本物の本がいい」
笑みと同じ、はっきりとした、その言葉。
美雪が思って、この本を探しに来た理由と同じだった。
電子の本もいい。プラスチックの本だっていい。
けれど、紙の本の、しっかりとした質量。
大事なときには、きっとそれが必要になってくる。
そしてずっと形としてそばに在ってくれるのだ。
「私もそう思う。……だから、……感想、言っていいかな」
自分も同じだから。
しっかりと、ここにあるものとして。
今度は『言葉』として。
伝えるのだ。
そんな美雪に、司は笑った。花のほころぶような、やさしい笑顔で。
「ああ。聞かせてほしい」
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