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恋バナラズベリー
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「ごめんねぇ、無理に呼び出したみたいだったかな」
あゆに会えたのは三日後だった。待ち合わせのカフェで、あゆはお茶目な調子で軽く手を合わせた。
先に着いていたらしい。あゆの席の前には冷たい飲み物、ラテらしきものが、置いてあった。少しだけ減っている。
「ううん、久しぶりだったしちょうど良かったよ」
美雪はにこっと笑って見せる。自分もカウンターで注文してきていたラズベリージュースをテーブルに置いて、席に着いた。
実際、司との図書館の予定が被った以外は無理などしていない。今日は司と元々、約束はしていなかったし。
夏休みに入ってから、あゆとは夏期講習で学校で会う以外には会っていなかったのだ。なので遊ぶのは久しぶり。
席に着いて、少しだけ飲み物を飲んだあとに、あゆが包みを差し出した。
「これ、お土産。実はこれを渡したくて……」
「えっ、ありがとう! 嬉しい!」
それは随分、地味な包みだった。薄茶の紙に、漢字がプリントされている。和風の包み。
「お団子なんか買っちゃってさ、お店で食べたらすごくおいしくて、ついこれにしちゃったんだけど、あとから気付いた……賞味期限、めっちゃ短い、って」
「半生菓子だもんね。でも、ありがとう。期待できるなぁ」
なるほど、そういうわけでちょっと急いでいたわけか。
美雪は納得した。普段ならもう少し計画的に会うのだから、なにがあったのかと思った。
それからあゆは、鎌倉に行ってきたのだと話してくれた。
お母さんとおばさんの小旅行に同行した形で、あまり気は進まなかったのだけど、行ってみたら意外と楽しかった。
お団子だけじゃなく、海鮮とかもおいしかったし。
おしゃべりなあゆは、一日だけの小旅行の話をとても楽しそうに話してくれた。
「ちょっと渋いかもしれないけどさ、こういうデートもいいかも、とか思っちゃったな」
冷たいラテをおいしそうに飲みながら、あゆの言ったこと。美雪はちょっとどきっとしてしまった。
実は、まだ彼氏ができた……司と付き合うことになった、という話はしていなかったのだ。
司の存在は少しだけ話していた。「電車で会う、違う学校の男子とちょっと話すようになった」というくらいだが。
あゆは勿論、嬉々として「いいじゃん! かっこいい?」なんて聞いてきたけれど。
でもまだ、告白だの付き合っただのという話は。
なんとなくタイミングがなかったし、付き合ってすぐ、ぺらぺらしゃべっていいものかよくわからなかったのもある。
でも親友なのだ。
付き合ってもうすぐ二週間。そろそろ話したっていいだろう。
話したい気持ちも確かにあるし。
「あの、実は」
話題が途切れたときに、思い切って切り出した。
美雪の言葉が改まっていたからか、あゆはきょとんとした。そう構えられると恥ずかしいのだが。
「実は、あの電車の男の子、いたじゃん?」
「……ああ。いつも本読んでるひとだっけ」
美雪の言葉に、あゆはちょっと考えて、思い出したという様子で頷いた。
覚えられていたことに嬉しくなった。自分の話をしっかり聞いて覚えてくれていたことに。
あゆのこういうところが好きなのだ。親友として。
「実は……付き合うことに、なって……」
言いよどむあまり、『実は』などと三回も言ってしまった。それほどもじもじと言った美雪に、あゆは今度、違う意味だろう。目を丸くした。
けれどすぐに、笑ってくれた。満面の笑みで。
「えっ、すごいじゃん! 良かったね!」
笑みと祝福の言葉をもらって、ほっとした。
否定される理由も可能性もないと思っていたけれど、実際にこう言ってもらえれば安心する。
「なになに? 告白したの? それともされたの?」
あゆは好奇心全開、という様子で前のめりになった。
こういう性格であるし、ぐいぐいと前に前にと進んでいく様子は好きだけど、今ばかりはちょっと恥ずかしい。話したい気持ちは確かにあれど。
そこからあゆによって色々と聞き出された。どうやって仲良くなっていっただの、なにがきっかけだったのかだの、そして肝心の告白についてだの。
恥ずかしいしくすぐったかったけれど、確かに嬉しくて。おずおずとではあるが、聞かれるがままに話してしまった美雪であった。
一通り話を聞いてから、あゆは満足したように言う。
「いやぁ、青春だねぇ」
まるで年上のひとかなにかのような物言い。からかうではないが、感嘆で言われてまた恥ずかしくなってしまう。
確かにその通りだけど、この表現は。
「せ、青春って……あゆだって彼氏、いるでしょ」
よく知っていることを言ったけれど、あゆはほとんどなくなったラテを飲みながら、しれっと言う。
「それはそうだけど、もう付き合って一年経ちそうだし。そういうフレッシュさはなくなっちゃったなって思うから」
確かにそういうものかもしれないけれど。
付き合いや関係に慣れていけば、そうなるだろうけれど。
「それはそれでいいんじゃない?」
「そうだけどねー」
そこから話はそれて、あゆの話になった。
お盆には浴衣でデートに行こうとか、そういう話だ。
それを聞いて、浴衣デートというものに羨ましさを覚えてしまった美雪であった。
そしてひとつのことに思い当たる。
これからは、あゆと、今までと少し違った『恋バナ』ができるのだ。
それは嬉しくなってしまうような事実である。
あゆの、彼氏に関する話を聞いているのも楽しかった。
けれど、自分にも恋人ができたことで、「あ、こういうデートもいいな」と自分に反映させることもできる。
こういうものも、世界が広がるってことかな。
ラズベリージュースを飲みつつ、美雪はそんなふうに思う。
甘酸っぱいラズベリージュースは、夏の昼下がりと恋の話にぴったりであった。
浴衣で花火。
海やプール。
イベントは盛り沢山。
司とそういうところへ行くのもいいなぁ、とその夜、自室で過ごしながら美雪は思った。
なんとなく、スマホで花火大会や海などのページを検索してしまう。
流し見ながら、頭の中にあるのは司のこと、そしてそれに関する交際についてのことだった。
付き合ったばかりなのだ。
学校も違うし、お互いのことはまだあまり詳しく知らない。
だからまずは仲を深めていって、お互いのことを知っていくために、一緒に過ごす時間を作ることは必要だろう。そしてそれはとても楽しく、幸せなこと。それがつまり、今おこなっている図書館での勉強会デートというわけだ。
でもやはり恋人同士になったのだ。
それだけではなく、なにかこう……特別なデートといえること。そういうこともしてみたい。
おまけにせっかく夏なのだから。
あゆとの話は、美雪にそう思わせてきた。
考えてしまってから、ちょっと恥ずかしくなる。
自分が欲張りのように感じてしまったので。
せっかく大切なひとができて、両想いなどにもなることができて、なのに図書館デートだけでは満足できないなど。
いや、満足できないわけじゃないけど……。
思考はぐるぐるとしてきた。
そろそろ寝ようかな、と思う。
自分一人で考えてみても仕方がないし、司に直接相談してみるのもいいだろう。
寝支度をするために、洗面所へ行った。
歯磨きをして、リビングにいたお父さんとお母さんに「おやすみなさい」も言って……部屋に戻ってくると、スマホがぴかぴか光っていた。なにかの通知だ。
あれ、もしかして。
美雪の胸に期待が溢れる。
スマホのロックを解除して見てみると、やはり司から。ほわっと胸があたたかくなってしまう。
毎日「おやすみ」と言い合うわけではない。
でも大体毎日、一通くらいはやりとりをしているから、「おはよう」か「おやすみ」のどっちかは割合あることだといえた。
今日は「おやすみ」を伝えて一日を終えられる。それだけのことに嬉しくなってしまう。
『明日の勉強会のあと、ちょっと時間ある?』
内容はこんなものだった。
なにか用事でもあるのだろうか。
美雪は単純に思って『あんまり遅くならなかったら平気だよ』と返した。
ベッドに乗り、寝そべってやりとりする。
司も自宅でくつろいでいるだろうから、そのままぽんぽんとやりとりは続いていった。
『そっか。良かったら軽く飯でも食べないか。ちょっと相談したいことがあるんだ』
相談?
美雪は不思議に思った。
なんだろう、と思ったけれどわかるはずがないし、それに今、聞くのははばかられた。
でも問題はなかったので『いいよ』と答える。
司からも『良かった、ありがとう』と返ってきた。
それからは明日の時間の確認や、やるつもりの教科などの話になって、三十分ほどで『じゃあおやすみ』となった。
美雪は『おやすみなさい』と打ち込み、かわいいスタンプも一緒に送って、それに既読がつくのを見守って、笑みを浮かべてしまった。
今日は良い一日の終わりだった、と思う。
相談、がなにかはわからないけれど、きっと悪いことではないのだろう。文面からそう伝わってきた。
じゃあ楽しみにしておく方向でいいかな。
しかも軽くご飯、などができるのだ。
高校生の身、高いお店なんてところには行けないから、ファーストフードやファミレスだろうけど、それだって立派なデート。
思ってしまい、くすぐったくなった。
自分の思っていた『遊びに行くのがメインのデート』。
それが少し叶うように感じてしまったのだ。
スマホの時計を弄って、目覚ましを確認する。司と図書館で待ち合わせるのに使っている時間設定を呼び出して、それを選ぶ。
寝る支度も改めて終わった。
クーラーをナイトモードにして、おやすみなさい、と今度は一人で呟いて布団に潜る。
今日は楽しかった。
あゆとも会えた。
彼氏ができた、なんて話もしてしまった。
帰ってから、お土産にもらったお団子を家族でいただくことができた。とってもおいしかった。
そして、寝る前には司とメッセージのやりとり。
すべて、なんてことない、特別とは言えないことかもしれない。
けれどそれはなんでもないことでも、特別ではないことでもない。
なにより大切なことであるし、それが当たり前のように身の周りにあるということは、とても恵まれていて、それ以上に幸せなことであるのだ。
夏に司と知り合ってから。
幸せなことはどんどん増えていく。
きっとこれからも増えていく……いや、増やしていくのだ、と、とろとろと眠りに落ちながら美雪は思った。
司と二人で増やしていくのだ。
楽しいことも、知っていくことも、それによって世界を広げることも。
あゆに会えたのは三日後だった。待ち合わせのカフェで、あゆはお茶目な調子で軽く手を合わせた。
先に着いていたらしい。あゆの席の前には冷たい飲み物、ラテらしきものが、置いてあった。少しだけ減っている。
「ううん、久しぶりだったしちょうど良かったよ」
美雪はにこっと笑って見せる。自分もカウンターで注文してきていたラズベリージュースをテーブルに置いて、席に着いた。
実際、司との図書館の予定が被った以外は無理などしていない。今日は司と元々、約束はしていなかったし。
夏休みに入ってから、あゆとは夏期講習で学校で会う以外には会っていなかったのだ。なので遊ぶのは久しぶり。
席に着いて、少しだけ飲み物を飲んだあとに、あゆが包みを差し出した。
「これ、お土産。実はこれを渡したくて……」
「えっ、ありがとう! 嬉しい!」
それは随分、地味な包みだった。薄茶の紙に、漢字がプリントされている。和風の包み。
「お団子なんか買っちゃってさ、お店で食べたらすごくおいしくて、ついこれにしちゃったんだけど、あとから気付いた……賞味期限、めっちゃ短い、って」
「半生菓子だもんね。でも、ありがとう。期待できるなぁ」
なるほど、そういうわけでちょっと急いでいたわけか。
美雪は納得した。普段ならもう少し計画的に会うのだから、なにがあったのかと思った。
それからあゆは、鎌倉に行ってきたのだと話してくれた。
お母さんとおばさんの小旅行に同行した形で、あまり気は進まなかったのだけど、行ってみたら意外と楽しかった。
お団子だけじゃなく、海鮮とかもおいしかったし。
おしゃべりなあゆは、一日だけの小旅行の話をとても楽しそうに話してくれた。
「ちょっと渋いかもしれないけどさ、こういうデートもいいかも、とか思っちゃったな」
冷たいラテをおいしそうに飲みながら、あゆの言ったこと。美雪はちょっとどきっとしてしまった。
実は、まだ彼氏ができた……司と付き合うことになった、という話はしていなかったのだ。
司の存在は少しだけ話していた。「電車で会う、違う学校の男子とちょっと話すようになった」というくらいだが。
あゆは勿論、嬉々として「いいじゃん! かっこいい?」なんて聞いてきたけれど。
でもまだ、告白だの付き合っただのという話は。
なんとなくタイミングがなかったし、付き合ってすぐ、ぺらぺらしゃべっていいものかよくわからなかったのもある。
でも親友なのだ。
付き合ってもうすぐ二週間。そろそろ話したっていいだろう。
話したい気持ちも確かにあるし。
「あの、実は」
話題が途切れたときに、思い切って切り出した。
美雪の言葉が改まっていたからか、あゆはきょとんとした。そう構えられると恥ずかしいのだが。
「実は、あの電車の男の子、いたじゃん?」
「……ああ。いつも本読んでるひとだっけ」
美雪の言葉に、あゆはちょっと考えて、思い出したという様子で頷いた。
覚えられていたことに嬉しくなった。自分の話をしっかり聞いて覚えてくれていたことに。
あゆのこういうところが好きなのだ。親友として。
「実は……付き合うことに、なって……」
言いよどむあまり、『実は』などと三回も言ってしまった。それほどもじもじと言った美雪に、あゆは今度、違う意味だろう。目を丸くした。
けれどすぐに、笑ってくれた。満面の笑みで。
「えっ、すごいじゃん! 良かったね!」
笑みと祝福の言葉をもらって、ほっとした。
否定される理由も可能性もないと思っていたけれど、実際にこう言ってもらえれば安心する。
「なになに? 告白したの? それともされたの?」
あゆは好奇心全開、という様子で前のめりになった。
こういう性格であるし、ぐいぐいと前に前にと進んでいく様子は好きだけど、今ばかりはちょっと恥ずかしい。話したい気持ちは確かにあれど。
そこからあゆによって色々と聞き出された。どうやって仲良くなっていっただの、なにがきっかけだったのかだの、そして肝心の告白についてだの。
恥ずかしいしくすぐったかったけれど、確かに嬉しくて。おずおずとではあるが、聞かれるがままに話してしまった美雪であった。
一通り話を聞いてから、あゆは満足したように言う。
「いやぁ、青春だねぇ」
まるで年上のひとかなにかのような物言い。からかうではないが、感嘆で言われてまた恥ずかしくなってしまう。
確かにその通りだけど、この表現は。
「せ、青春って……あゆだって彼氏、いるでしょ」
よく知っていることを言ったけれど、あゆはほとんどなくなったラテを飲みながら、しれっと言う。
「それはそうだけど、もう付き合って一年経ちそうだし。そういうフレッシュさはなくなっちゃったなって思うから」
確かにそういうものかもしれないけれど。
付き合いや関係に慣れていけば、そうなるだろうけれど。
「それはそれでいいんじゃない?」
「そうだけどねー」
そこから話はそれて、あゆの話になった。
お盆には浴衣でデートに行こうとか、そういう話だ。
それを聞いて、浴衣デートというものに羨ましさを覚えてしまった美雪であった。
そしてひとつのことに思い当たる。
これからは、あゆと、今までと少し違った『恋バナ』ができるのだ。
それは嬉しくなってしまうような事実である。
あゆの、彼氏に関する話を聞いているのも楽しかった。
けれど、自分にも恋人ができたことで、「あ、こういうデートもいいな」と自分に反映させることもできる。
こういうものも、世界が広がるってことかな。
ラズベリージュースを飲みつつ、美雪はそんなふうに思う。
甘酸っぱいラズベリージュースは、夏の昼下がりと恋の話にぴったりであった。
浴衣で花火。
海やプール。
イベントは盛り沢山。
司とそういうところへ行くのもいいなぁ、とその夜、自室で過ごしながら美雪は思った。
なんとなく、スマホで花火大会や海などのページを検索してしまう。
流し見ながら、頭の中にあるのは司のこと、そしてそれに関する交際についてのことだった。
付き合ったばかりなのだ。
学校も違うし、お互いのことはまだあまり詳しく知らない。
だからまずは仲を深めていって、お互いのことを知っていくために、一緒に過ごす時間を作ることは必要だろう。そしてそれはとても楽しく、幸せなこと。それがつまり、今おこなっている図書館での勉強会デートというわけだ。
でもやはり恋人同士になったのだ。
それだけではなく、なにかこう……特別なデートといえること。そういうこともしてみたい。
おまけにせっかく夏なのだから。
あゆとの話は、美雪にそう思わせてきた。
考えてしまってから、ちょっと恥ずかしくなる。
自分が欲張りのように感じてしまったので。
せっかく大切なひとができて、両想いなどにもなることができて、なのに図書館デートだけでは満足できないなど。
いや、満足できないわけじゃないけど……。
思考はぐるぐるとしてきた。
そろそろ寝ようかな、と思う。
自分一人で考えてみても仕方がないし、司に直接相談してみるのもいいだろう。
寝支度をするために、洗面所へ行った。
歯磨きをして、リビングにいたお父さんとお母さんに「おやすみなさい」も言って……部屋に戻ってくると、スマホがぴかぴか光っていた。なにかの通知だ。
あれ、もしかして。
美雪の胸に期待が溢れる。
スマホのロックを解除して見てみると、やはり司から。ほわっと胸があたたかくなってしまう。
毎日「おやすみ」と言い合うわけではない。
でも大体毎日、一通くらいはやりとりをしているから、「おはよう」か「おやすみ」のどっちかは割合あることだといえた。
今日は「おやすみ」を伝えて一日を終えられる。それだけのことに嬉しくなってしまう。
『明日の勉強会のあと、ちょっと時間ある?』
内容はこんなものだった。
なにか用事でもあるのだろうか。
美雪は単純に思って『あんまり遅くならなかったら平気だよ』と返した。
ベッドに乗り、寝そべってやりとりする。
司も自宅でくつろいでいるだろうから、そのままぽんぽんとやりとりは続いていった。
『そっか。良かったら軽く飯でも食べないか。ちょっと相談したいことがあるんだ』
相談?
美雪は不思議に思った。
なんだろう、と思ったけれどわかるはずがないし、それに今、聞くのははばかられた。
でも問題はなかったので『いいよ』と答える。
司からも『良かった、ありがとう』と返ってきた。
それからは明日の時間の確認や、やるつもりの教科などの話になって、三十分ほどで『じゃあおやすみ』となった。
美雪は『おやすみなさい』と打ち込み、かわいいスタンプも一緒に送って、それに既読がつくのを見守って、笑みを浮かべてしまった。
今日は良い一日の終わりだった、と思う。
相談、がなにかはわからないけれど、きっと悪いことではないのだろう。文面からそう伝わってきた。
じゃあ楽しみにしておく方向でいいかな。
しかも軽くご飯、などができるのだ。
高校生の身、高いお店なんてところには行けないから、ファーストフードやファミレスだろうけど、それだって立派なデート。
思ってしまい、くすぐったくなった。
自分の思っていた『遊びに行くのがメインのデート』。
それが少し叶うように感じてしまったのだ。
スマホの時計を弄って、目覚ましを確認する。司と図書館で待ち合わせるのに使っている時間設定を呼び出して、それを選ぶ。
寝る支度も改めて終わった。
クーラーをナイトモードにして、おやすみなさい、と今度は一人で呟いて布団に潜る。
今日は楽しかった。
あゆとも会えた。
彼氏ができた、なんて話もしてしまった。
帰ってから、お土産にもらったお団子を家族でいただくことができた。とってもおいしかった。
そして、寝る前には司とメッセージのやりとり。
すべて、なんてことない、特別とは言えないことかもしれない。
けれどそれはなんでもないことでも、特別ではないことでもない。
なにより大切なことであるし、それが当たり前のように身の周りにあるということは、とても恵まれていて、それ以上に幸せなことであるのだ。
夏に司と知り合ってから。
幸せなことはどんどん増えていく。
きっとこれからも増えていく……いや、増やしていくのだ、と、とろとろと眠りに落ちながら美雪は思った。
司と二人で増やしていくのだ。
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